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◇ ◇ ◇
外がやけに騒がしい。
慎は眉間に皺を寄せる。
身体中が痛い。
当たり前だ、布団も敷かず、畳の部屋でそのままごろ寝をしたのだから。
暗かったはずの室内は煌々と朝日が差し込んでいる。朝が来た。
騒々しさの源は、一組の母子。
にぎやかに、笑いを交えながら語り合っている。
ねえねえ、お母さん、これから遊びに行ってもいい?
まあ、今帰ってきたところでしょう? 落ち着きがないわね。
うん、でも、さっき友達約束してきたところだから。
そう、仕方ないわね。明日は学校があるのだから、早く帰ってくるのよ。
じゃあ! と子供は一目散に飛び出して行く。
ああ、あの声は、慎一郎と茉莉花だ。
ということは。
帰ってきたのか!!
身体の痛みもどこへやら。慎はがばと跳ね起き、声がした方へ駆けた。
「あら、まあ……慎さん?」
見たことがないドレスを着、両手一杯にバッグやら荷物を持った茉莉花は慎に微笑む。
「いらしたの?」
「いらしたの、って君」
「だって留守かと思いましたの。ただいま帰りました」
「あ、お帰り」
何とも間が抜けている。
慎はこほんと咳払いをし、問い質そうとした。聞きたいことは山程あったから。それを遮って茉莉花は言う。
「私疲れていますの。ちょっと横になりますから、慎さんはお出になって」
「お出にって」
「あら、お仕事ありますでしょ」
さあさあと玄関口にせき立てられる。
ええええ?
「ち、ちょっと待て茉莉花」
「今日はすみませんけど青山の方へお帰りくださいな。あちらのご家族の方も心配されてますでしょ」
「何でだ」
「あら、ここの留守番をして下さったのではなくて?」
下さっていない。
「だいたいだね、心配かけさせたのは君の方だろう」
「あら、どうしてですの?」
「どうしてって、あのだね、茉莉花、勝手に家を飛び出して、カナダに出かけ――」
「ああ、そう、カナダ! 素晴らしかったわ。慎一郎も喜んで! 行ってよかったわ! ありがとう慎さん!」
ありがとう?
何で礼を言われるのだ。
「あのだね、君――」
「ごめんなさい、私、本当に眠いの。お話はまた明日聞きますわ」
人差し指で払う仕草をする彼女は、飼い犬に指示を出す主人のようだった。
ハウス!
そう命令された犬はすごすごと犬小屋へ帰るしかない。
しかし、私は。
今日はここが私の家なのだが。
おーい。
スーツも財布も靴すらもなく、ポケットには、誰が持ってきたのかわからない男性用下着が一枚あるきり。裸足で閉め出された慎の哀願は、爆睡する愛人には届かない。
今の自分は浮気の現場から飛び出した間男のようではないか。
誰か私に居場所を与えてくれないか。
せめて靴を!
お願い、プリーズ!
後日。
慎の元には、とんでもない額の請求書が届いていた。
茉莉花と慎一郎 二人分のチケット代。
茉莉花と慎一郎 二人分の宿泊代。
茉莉花と慎一郎 二人分の現地滞在費。
茉莉花と慎一郎 二人分の諸経費やら怪しいものやら。
云々、etc、etc……。
小春日和の初冬の陽射しは生温かく慎を包む。
しかし、その温もりは慎の懐とは真逆の温かさだった。
あとのあがき書き
いつもありがとうございます、作者です。
2016年も無事明けました。
本年お初の作品更新です。
昨年は、思ったように筆が進まず、
ホントに参ったのですが、
本作書いてて思いました。
おちゃらけシーンが
まったくないんだよ…
お笑い要素がどこかにないと息が詰まる、
私は大阪生まれの女。
そりゃ疲れるわけです、
書くのもはかどるわけがない。
ですので、今後は、可能な限り
笑い飛ばせる作品を書いていきたいなあという
決意を新たにしました!
今回、コケにされてるのは、
数年以上手を煩わせてくれた(大笑)
尾上慎君です。
君をいじるのはホント楽しかったよ。
慎さんも、
房江さんも、
茉莉花さんも、
書くのは多分これが最後。
ぱーんとでっかい花火を打ち上げさせて頂きました。
お楽しみいただけましたら幸いです。
ここまでの御拝読、本当にありがとうございました。
拙い本作ではありますが、作者ばかりが堪能した世界、
はたしてお読み頂いている皆さんにちょっとでも
いろんな感情を動かせるものになっていると嬉しいです。
ではではー。
作者 拝
次作は、あらかた書き上がってまして、
ただいませっせと打ち込み中。
そんなにお待たせせずに公開できると思います。
前作の後書きにも書きました通り、
次の主人公は慎さんの息子、
モラトリアム中年の慎一郎君。
あ、いや、秋良の方かなあ、
慎一郎君の元カノ出現のお話であります。
多分、長編に近い中編。
こっちもコメディ路線で参ります (^.^)