ジェノサイド 高野和明
一年は三百六十五日。(今年はうるう年なので一日多いですが)
となると、百冊読むためには一週間に二冊程度読まなくてはならないという計算結果が出ます。
……二週間目にして二冊目のわたしは、遅々としたペースで歩みを進めているということになります。
ま、小さな一歩でも人類にとっては大きな一歩です。
わたしが超大物に育つための着実な進歩なのですから、温かい目で見守ってほしいものです。
もし、今回読んだ本が『ジェノサイド』でなかったらもっと時間がかかっていたでしょう。
一気読みさせられました。
テスト前だというのに、厚いハードカバーの本を読んでいるなんて。
ちょっと現実逃避したくなりますが、勉強なんか忘れさせてくれるほど濃厚な内容が詰まっていました。
あらすじを、例によってAmazonから引用します。
創薬化学を専攻する大学院生・研人のもとに死んだ父からのメールが届く。傭兵・イエーガーは不治の病を患う息子のために、コンゴ潜入の任務を引き受ける。二人の人生が交錯するとき、驚愕の真実が明らかになる――。
ということです。
これだけだとあまり面白そうに感じられませんが、SFチックに仕立てられたドラマは強いメッセージ性を持っていて、わたしたちに疑問を投げかけてきました。
それに加え、終盤に展開される怒涛の伏線回収。
最初は視点移動があるのでちょっと戸惑うのですが、すぐに慣れます。
多すぎず、少なすぎないキャラクター。
その一人ひとりが物語のキーマンになっている。芸術的なまでの配置です。
ハードカバーなのでちょっとお高いですが、ぜひとも読んでほしい一冊ですね。
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なんで大量殺戮なんてタイトルにしたんだろう、と読んでいて感じました。
内容的には新人類との戦いとか、アキリの大冒険とか(ごめんなさい、ふざけました)、もっとほかの候補もあったはずです。
しかし、ラストを見て納得しました。
アキリとエマは生き残った。これは、わたしたち現代の人類に疑問を投げかけていることにほかなりません。
わたしたちは、いまを変える必要がある。
そういうメッセージだったのではないでしょうか。
とくにすごかったのは、知識量の多さ=リアリティーの構築です。
専門的なことはさっぱりですが、とくに軍事面、化学面の知識はわたしの知っている範囲では間違いがないような気がしました。
この点に関してはかなり勉強したんでしょう。
おかげで新人類の誕生という非現実的な設定が、リアリティーを持って感じられる。
ファンタジーなんかでも人物や風景を細かに描写することで現実味を出している作品を見かけますが、それと似たようなものです。
おかげで、すこしだけ頭がよくなったのかもしれません。
登場人物の多くはアメリカ人と日本人です。
韓国人、コンゴ人、新人類なども登場しますが。
わたしにとってアメリカ人の思考パターンは未知の領域です。
やけに人権にこだわるし、ピザとコーラが大好きだし、なんでもかんでも説明書に書かなければ裁判沙汰になるなんて信じられません。
これは別に悪口でもなんでもなく、単に文化の違いなんだと思います。
筆者はその垣根をも乗り越えて、きちんと人物を描きだしています。
無能だが横暴な大統領、優秀な分析官、幾多の科学者たち。彼ら一人一人の思想はまるで違っていて、ひとくくりに外国人と呼ぶことはできません。
その書きわけが、素直にすごいと思いました。
ちょっとご都合主義だと思ったのは、数学的に異常に発達した能力を有しているから、すべて簡単にハッキングできるというものでした。
いくら超人類だといっても、そんなことが可能でしょうか?
アメリカの無人戦闘機を乗っ取ったり、原発を稼働停止させたり。
パソコン方面の暗号に素数が使われているのはわたしも知っていますが、それを簡単に解読できたからといってすべてのマシンが操れるとは思いません。
ちょっとずるいですよね。
途中で気付いたのですが、このストーリーには「勝利・努力・友情」というジャンプの三大要素が詰まっています。
それも日本とアフリカの二方面ですから、効果二倍ですね。
話は変わって、筆者の左翼的な歴史観について不快感を持っている人もいらっしゃるようです。
わたしも歴史的事実についてはちょっと、おや、と思うことがありました。
南京事件や関東大震災でのことを無理に入れる必要があったのかな、と。
平和に思える日本でも残酷なことをしてきたんだよ、ということかもしれませんが、やや正確性に欠けるように思えます。
客観的な科学知識のなかに、突然作者の意思を持った真実が放り込まれたせいでしょうか。
作者も人間ですからそういうことにはなるでしょうけど、他人に不快感を与えるような表現については考察が必要です。
とまあ、長所短所を述べてきましたが。
全体的には高評価な作品となりました。ストーリーの展開のうまさに驚愕しつつ、今回はこの辺で失礼します。