終章 "DRAGON"
「―そういえば、お前、良かったのか、あの子の連絡先、交換しないで」
池井戸は先程からちっとも進まない首都高の渋滞に向かって、悪態を飛ばしながらそうぼやいた。すると、ロベルトは後ろで誇らしげに自分のウォッチを掲げてみせる。
「実は、もうゲットしてある。お前より早く」
「―はぁ!? 何時だよ。それ? 何時の間に交換したんだよ、おい?」
車列は一向に進まない。むしろ、点滅するブレーキランプの群れは、増殖を続けているような気がする。警察は、役目を終えるとそそくさと何処かに消えてしまった。あながち、連中だけを責める訳にもいかなかった。今晩はクリスマスである。むしろ、何処もかしこも事件と事故で一杯のはずが、宮内省の我が儘に付き合ってやった連中を労うべきだろう。
「―それだけじゃない、俺は瞳子の誕生日まで知っている―」
「―はぁ!? 何だって?」
疲労とイライラが頂点に達して、先程から池井戸は怒鳴ってばかりだった。それに、何だか、得体の知れない感覚がさっきからするのである。何と言うか、景色が、妙に、リアルに見える。さっき通った道を、逆走しているからだろうか、何と言うか、この道を通るのが初めてではないではないように感じるのだ。疲れているからなのだろうか、堪らなくなってラッキーストライクに火を着けようかと思って、止めた。何故だか気が進まない。さっき、別れ際に、瞳子にクーデター並みのサプライズを敢行されてから、ずっとだ。後ろで、ロベルトが、瞳子の名を呼ぶだけでイライラするのだから不思議だ。
「12月25日、彼女の誕生日は今日だよ。今日。今日で16歳の誕生日、戸籍の有る無しで揉める前に、きっちり役所に書類を提出したかったんだと」
「はぁ? 誰が言ってたんだよ、そんなの」
「本人だよ。ついさっき、片手で缶コーヒーで折り紙を折ってやってたら、教えてくれた」
「―何だテメェ、何喋ってるかと思ったら、トーコとそんな事してやがったのか! こっちはハイメディックの操縦で忙しかったんだぞ。それを―」
「 “初めに言っただろ、運転は俺に任せとけって” アレ、誰の台詞だ。忘れたとは言わせないぞ―」
「―うるせぇ、表出ろ、テメェ、この、頓珍漢ゴミ屑糞野郎、スクラップにしてやるー」
その時、二人の頭上でパーン、という音がした。続けざまに火薬の破裂音がする。胸倉をつかみ合っていた二人は本当にハイメディックの外に出た。トミタに三か月でも勤務すれば嫌でもそうなるのかもしれない。空には聖夜を祝う花火が注ぐ次々にと打ち上がっている。一ドル240円の時代に良くやるもんだと二人して思った。
外には、一向に埒が明かない渋滞にしびれを切らして、外に出てきている人が多い。
みな、一様にメリークリスマスだとか、騒いでいる。
「―節操のない、国だよなぁ」
池井戸は目の前で好き好きに振る舞う人々を見て、そう言った。まぁ、グローバル化が進んでいるので、聞こえてくる言葉の大半が、英語か中国語である。大陸の連中に至っては、クリスマスの概念をあまり大事にしないのか、雪合戦を始める連中まで出て来た。バンパー同士が当たったとかで、喧嘩しているように見えなくも無い。
「そう思うか、俺は結構好きだよ。この国」
「―どうして、そう思うんだ?」
喧嘩するのも馬鹿らしくなって、止めた。隣ではアメリカ人がシャンパンファイトを始めている。やけに景気が良いので、一本くらい、驕ってもらえるかもしれない。それから、何でこんなに皆、大騒ぎしているんだ、と思った。
「―懐が、深い。 ・・・まぁ、深すぎてロクなのが湧かないって嫌いもあるが、俺みたいな異端児でも、平気で受け入れてくれる。知ってるか? 俺の生まれ故郷では、ずっと昔、心臓が少し弱かっただけでも生きている事を許されなかったんだ時代もあったんだ」
「・・・へぇ、お優しいこって」
池井戸には残念ながら、この心臓の無い男の意見に完全に共感を覚える事が出来なかった。あった事は、なかった事に出来ないのである。この国の根幹に根ざした、都合の良さを、生まれもって体感している池井戸にとって、如何ともし難いものがあった。それが、今まで流浪の旅を続けて来て、母国と言うモノを持った事のない流浪人が、日本国は群馬のトミタで育ったドイツ人ハーフの意見に抱く率直な感想だった。日本の教育インフラは、今でも、世界最悪の水準である。宗教どころか、まともに構築された、文化体系、思想すら持った事の無い国民性の元に、国家が構築されているので、仕方が無いと言えば、仕方の無い事なのかもしれなかった。当たり前のように、間違った事を、それを間違いだと認識しないまま、繰り返しているのである。無機質な、ロボットであればまだしも、自尊心、プライドではなく、虚栄心だけが肥え太った、それこそ狂犬病のような手合いが跋扈している。結局、国立の獣医学部は創設されなかったらしい。色々、理由はあるにはあったが、訪日外国人の大半の見識では、日本語を喋る猿より、御犬様等々、大自然の摂理、麗しき国、ニッポンの国土を、内閣が優先したのだろうという意見が大半であった。2025年現在、其処彼処で、墓石のようなビルが打ち壊され、埋め立てられた河川の復旧が急がれている。畏敬の念、という概念の欠乏に、文科省も国土地理院も、治安維持機構もようやく気付いたらしい。
「優しいのはお前だろ、コータ。お前、今回の前金で、谷川で遭難した男の手術費用、全額払ったんだってな。聞いたよ、福本さんから」
「・・・さぁ、何の事とやらなぁ、瞳子も手前もあらぁな、見ず知らず誰かさんから、匿名で189されたくもねぇしな。トミタに貸しだよ、貸し。 ・・・まぁ、デカく帰ってくんだろ」
池井戸は後ろでポニーテールを弄り始めた。反対の手はポケットに押し込んだままで、呟く。対するロベルトは、少し、意外そうな顔をした。
「・・・ははっ、確かに、そうに違いない。なんだ、知ってたのか、WIREDの特性」
全身サイボーグのその男は、普段は余り見せない、悪い顔をして見せる。手元には、普段は見せない、シガレットケースが、見え隠れしている。
「一応はな、善悪問わず、倍返しが基本。だったか? 似たようなのに、何回か、出くわしした事がある。まぁ、諸説あるにせよ、はっきり言える事ぁ、連中の前で、ポカをやっちゃあいけねぇって事。ライトスタッフが、どうとか、確か、そうだな、この国の言葉で言うならー」
「「御天道様が見ている」」
二人の声が重なる。池井戸の方は、若干驚いたようで、ロベルトはというと、楽しそうだった。
「・・・何だ、おい、気色悪ぃな。 ・・・大体、碌な使われ方しねぇだろうに、年功賃金型社会万歳のこの国で。年喰って見えりゃ、偉ぇんだろ、否応無く、この国のルールじゃあよ。耄碌連中が、自分の意見ごり押しするために、御託並べる時位しか聞いた事がねぇよ、そんな台詞。それとも何かい、俺がいねぇ間に、天理教が全国制覇でもしたのか?」
「そうかもしれないな」
そう言いつつ、ロベルトはシガレットケースから一本取り出すと、それを口に加えた。それから、これまた何処から取り出したのか、器用にマッチを片手で擦って、火を点ける。池井戸は、まだ何か言い足りなかった。
「それか、もう一つ、何だっけな、モーセの十戒じゃなかった。何だっけ、金科玉条に抵触してはいけない。つまり、あのファッキンチャイニーズにも言われたんだ。確かー」
「「仁義に悖る真似だけはしてはいけない」」
またハモった。正直、気持ち悪い。
「・・・何だ、大道芸でもやってんのかよ。ロベルト。違った腹話術、じゃねぇ、 ・・・あの子の真似して読心術でもやらかそうって腹づもりか?」
「いや、そんな事は無いがね。 ・・・ちなみに、その隼とかいう兄弟分、何か言ってなかったか?」
当の本人は面白そうにシガレットを吸いながら、その親指で鼻を掻いた。心無しか愉快そうである。何か、周囲に、懐かしい、独特の匂いが立ちこめている。何処かで嗅いだ事のあるような、甘ったるい匂いだ。これは何だったろう。
「えぇ、そうだ。あの野郎。最後、アジトが襲撃受ける前に、急に早口になって捲し立てやがってよ。何かおかしいと思ったんだよな、そう言えば、普段なら、いの一番に消えてなくなりそうな奴なのに、何つってた、アイツ? 日本の玉蘭に、俺は最後まで、勇敢に闘ったんだって、伝えておいてくれとか何とか、意味わかんねぇ、それも英語でだぞ? それからいきなりヘイシン持ち出して、バンバンとー」
ロベルトが、クックックッと笑っている。背を丸めるようにして、今度は額を掻いていた。一体全体、何がそんなに楽しいのだろう。
「成る程、無理矢理にでも、男を見せたという話か、如何にもクーロンらしい思想体系だ。誉れ高い。大方、御先祖様でも化けて見えたかー」
そう一人ぶつぶつと呟くロベルトを、池井戸は傍らで見ていた。さっきから、煙草を吸うか吸わないかで、迷っていた。というのも、隣で一服付けている男の、シガレットのその中身が何なのか、つい今しがた気付いたのだ。
「何だ、それ、マリファナかよ」
「あぁ、それも医療用」
ロベルトは事も無げにそう言って返してくれた。その顔には悪びれる様子すら無い。
「ー参ったな、畜生」
どうもさっきから気味が悪い。どうにも、目の前の男に、自分の思念やら、あまつさえ、過去が、推察、或いは本当に見られているような感じである。まるで、瞳子が二人出来たようでようで、タチが悪い。
「・・・おい、ちょっと待て、お前、どうして、フェンの名前、知ってるんだよ。俺ぁ、クーロンでトラブった時の話しなんざ、トミタじゃ口外してねぇはずだぜ?」
池井戸は自分の相棒がどうして、知るはずのない情報を知っているのか訝しむ。いつもなら、もう少し、早く気付けたろうに、この、妙に体感がダブって見える感じのせいもあってか、反応するのが遅れた。
「まぁ、な。随分と、無茶したようだが。 ・・・さっき、瞳子と、何かあったろう?」
言いながら、このサイボーグ救命士が少し、顔を俯かせ、はにかむのが見て取れた。疑いは、段々と、確信に変わる。
「・・・おい、何が見えてんのか、知らねぇけどよお。余計なお世話っつうんだぜ。そういうの、知ってるかぁ?」
言いながら池井戸の右手首が太ももに触れた。まだ充電には余裕がある。半分本気だった。
「いや、すまん。他意は無いんだ。ただ、WIREDに触れられると、そうなる事が、在ると聞く。俺も体感したが、凄かったから、お前の場合、どうなのか、気になってな」
ロベルトはそう言うと、半分程灰になったシガレットの先を地面に落として、つま先でそれをなじった。薄い積雪の一部が、解けて、ロベルトのつま先部分に小さなシミが出来る。
「あぁ、タッチの話しか、それか、意識を向けられると、マインドを覗き見されるとか、酷い時は、クラック、ハックされるとかか。
・・・まぁ、大半は、気味の悪ぃ、パパラッチの追っかけとか、勘違いだろうけどよぉ、日本でもあるんか? そんなの、日本の芸能人なんざ、よく追っかける気になるな。サイン貰う金と暇あるんなら、ユーキャンにでもぶち込めば良いのにな。あれ、結構、昔から在るんだろう? テレビが出来る前も、ラジオ、絵巻物、後は、俺は葛飾の、北斎は好きだね、アレだけは、日本人で良かったと思える。イタリアでも、ドイツでも見たんだ」
池井戸は口の中でマリファナを行ったり来たりさせながら、そんな私見を呈する。久しぶりの感触だったので、忘れたくない。巻き方が良いのか、結構、旨かった。思わず、肺まで吸い込んで血中に乗せてしまう。
「そうだな、突き詰めれば、オカルトだって、科学体系と言えるだろう。出版物なんて、その最たるものだ。本を読む事で、その作者と、語らう。本を読む、とは元来、そういうものだ。一度、頭の中で、完全にデコンポーズして、自分なりに、再度くみ上げる必要が在る。昔、福音書を、全巻読破して、神とやらに謁見してやろうとしたんだが、やはり、少し無理だった。代わりに指輪物語にしたんだがー」
ロベルトはそこで一息ついた。
「ーしたんだが?」
「灰色のガンダルフに逢うのが精一杯だったよ。まぁ、悪い奴ではなかったさ」
ロベルトはそこでくつくつと笑った。高度な、ジャーマン・ジョークという奴なのだろう。独書といえば、ミハエルエンデ位しか知らない池井戸には、何処が、何れくらい面白いのか、残念ながら判らない。
「・・・何だ、そりゃあ。 ・・・まぁ、良かったじゃねぇか、逢えて。時間泥棒って訳じゃねぇんだろう、そいつは。ヒッピーにも優しいんじゃねぇか?」
フッフッフッ、とロベルトは納得したような笑い方をする。変な野郎だ、何と言うか、何かを吟味するように、まるで、帰ってくる答えが、ある程度、判っていて、それを楽しんでいるような感じである。好きな映画のフィルムを、何度も映写機に掛ける映写技師みたいな、そんな感じである。正直、少し、気味が悪い。
「・・・なぁ、“視える”って、どんな感じなんだ? 俺にはどうも良く分からねぇ。 変な感じがするっていやぁ、精々、さっきから、モノがダブって見えるって位だ。いや、見辛いってんじゃなくて、なんて言うんだろうな、こういうの、確か、既視感が何とかー」
「デジャブ(既視感)」
ロベルトがタイミングよく口を開いた。まるでそう言うのを待っていたようである。
「そう、それだ。 ・・・何か、前にもあったな、こんなのって感じ。 ・・・何でだ」
池井戸の発言を、ロベルトは吟味しているようであった。言葉を選んでいるのかもしれない。マリファナを吸う手が止まっている。それから、その質問への回答があった。
「・・・諸説、在るんだが、複数の視点で、情報を処理するようになるから、というのが、一般的に、判りやすい見解だろう。例えば、ここに、A〜Zまで、26人、人間が居たとして、そいつらの大脳皮膜、情報視野の情報を、瞬間的に、拾って、自分の頭の中で処理しているの、かもしれない。 ・・・これが、どういう事か判るか?」
ロベルトは一字一句、言葉を選んでいるようであった。かなり、重要な話しなのかもしれない。
「さぁ、あー、その26人、A〜Zまでが、全員WIREDとかで、あの、演算回路? みたく、並列化して、処理能力を上げてるとか? ・・・あぁ、それで、未来予知でもしようってか」
池井戸が何となく、頭の中で、推論を立ててみようとした。すると、どうしてか、辺りが一瞬、静まり返った気がした。くるり、と踵を返すと、そんな事はない。辺りは、さっきまでの喧噪、そのままである。
「まぁ、合っては、いるんだろうな。恐らく」
「・・・どうしたんだよ、急に」
「ーいや」
ロベルトはそこで口ごもった。何か、口元で呟いた気がする。何故だか判らないが、神よ、我に力を御与え下さいだとか、そんな意味であるような気がした。どうしてだかははっきりとは判らない。昔、イスラムの革命戦士も、似たような事を言っていた気がする。バイリンガル、トリリンガルなら、こんな感じになるのだろうか。
「ーそんな訳ないだろう。ライトスタッフ。それなら、とっくに世界は平和になっている。外交官なんて、屑ばっかりだ」
ロベルトが突如、口を開いた。其の目つきは、少し険しくなっている。口元に、左手を当て、もう片方は、腰に廻していた。
「・・・」
「言っても仕方の無い事なのかもしれない。だが、言わずには居られない。どういえば、良いんだろうな・・・」
池井戸が面食らっている間に、ロベルトはその構えを解いた。それから、気難しげな顔をして、自分の襟首を掻いている。この男でも、緊張したり、およそ、臆したりする事はあるのか、と池井戸は思った。
「お前、WIZARDって言葉を知っているか?」
観念したのか、ロベルトは今まで避けていたその話題に触れた。はっきり言ってしまった方が、良いと判断したのかもしれない。
「まぁ、名前だけなら。さっき、瞳子にも言われたしな。なんだ?また、オカルトか?」
「違う! その意味を知っているかと聞いているんだ」
ロベルトは溜まらなくなったのかそう叫んだ。少し、詰め寄ってこようともする。目が本気だった。
「意味って言われてもなあ・・・ なんだ、魔術師だっけ」
池井戸はそう答えるのがやっとである。すると、しばらくして、返事が帰ってくる。
「・・・ “時の魔術師”」
ロベルトはそう言ったっきり、余計な事を喋ろうとしなくなった。
「・・・なぁ、ロベルト、そりゃどう意味だよ。いきなりだんまりはねぇだろうや」
池井戸はシガレットを一度吹かして、それから、ロベルトにさっきまでの発言の続きを促した。このままでは、どうも後腐れが残る気がする。
「言葉通りの意味だ」
ロベルトは短くなったシガレットを、大きく吸い込んでから、吐き出す。それから、続きを喋り出した。
「WIZARD、と呼ばれる男の最大の特徴は、勘で生きている、という事だ。左脳より、右脳の方が発達している事の方が多い。そして何より、その男の状況認識能力は、群を抜いて高い。はっきり言って、さっきのA〜Zまでの26人を、WIRED込みで、並列化した頭脳よりも、上だ。中国では、国士無双、と呼ばれるらしい
な。およそ盆百、一億人の頭脳よりも、その“勘”の、方が、正しいから、そう言われるそうだ」
ロベルトはそこまで一気に捲し立てた。
「・・・・・」
「翻って、その圧倒的な状況認識力から叩き出された、危機察知能力、危機判断能力、は、空前絶後、もはや、他に類を見ない。そのWIZARDが、危ないと思えば、それは何であれ、危ないに決まっている。それが人間だろうが、車両だろうが、施設だろうが、果ては、国だ。 ・・・まぁ、端的に言えば、そいつの機嫌を損ねれば、国すら滅ぶ。だから、頭文字を捩って、HAZARD、天災なんて呼ぶ所も在るそうだな。まぁ、そんな事を言う輩は、全部自業自得なんだろうが」
池井戸はさっきから熱弁を振るうロベルトの話しを、聞いているようだった。
「・・・ちなみに、WIZARDは、その能力の高さから、WIREDを兼任している場合が多い。即ち、まぁ、一瞬先が視える、想像で、未来を、構築してしまえる。演繹して、100%に近い演算精度ではじき出せる。それも、映像出力として、だ。まぁ、あくまで無意識の内にという話しだがな。そうでなきゃ、疲れる。そりゃ、そうだろう。 そして、 ・・・それを、その当人、WIZARD御大の自覚症状無しに、WIREDを咬ませて、或いはその傘下でも良い、使い捨てのな。そんなのは、この国には腐る程居るだろう。そいつ等を接触させて、勝手に未来予知してみたとする、すると、どうなる?」
ロベルトは喋る事は喋ったという風だった。
「まぁ、罰があたらぁな。それか、国が潰れる」
「正解だ。 ・・・だから、まぁ、気にするな。人生なんて、阿弥陀くじと一緒。何が本当に起こるかなんて、判らない。自分だけが、割を食っていると、腐ってしまうのだけは、止めてくれ。お前には似合わんよ。DRAGON」
ロベルトは大きくマリファナを吸い込むと、それを吐き出しながら、大きく伸びをした。言いたい事を言えて、すっきりしたようである。
「DORAGON?」
「WIZARDの別名さ、それも、最も強烈な、な。日本じゃ龍とかいうんじゃなかったかな。ちなみに、土竜の方じゃないぞ。そっちはWIREDの最上位。ちなみに、TEMPESTはその眷属、WIZARDに感応し、一時的に力を得た者の事を言う」
「・・・へぇ、小難しい話しは判らんねぇ。それが、俺にどんな不都合があるって?」
「いや? 特にないさ。俺だって、全身サイボーグだしな。 ・・・というより、お前、自分の人生に、納得している、自信があるだろう。有言実行男。あの、日本のプリンセスにだって、結局、御願いしなかったじゃないか」
トミタ製の高規格サイボーグ救命士は、それだけ言うと、馬鹿らしくなったのか、そっぽを向いてしまった。それから、ぶつぶつと、本当は、これは行政の仕事なのに、とか言っている。まぁ、確かに、この国の行政機構があてにならない事は確かだ。
「バイアスを咬ます度に、演算精度が低くなる。おまけに、人間というのは葦なんて高尚なもんじゃない。はっきり言って、豚以下だ。流言飛語は飛ばすし、想像と妄想ははき違える。身の程も知らないくせにな。この国ではそれを、餓鬼というらしい。道理でゴキブリが何処ででも発生する訳だ。まぁ、自分勝手な、それこそ、我田引水な、夢をお前の中に見たまま、潰れる。はた迷惑な話しだがな。プレイバックと違って、ロールバックが掛かる。お役、御免、という奴だな。所詮は、お前の前に顔を出す器では無かったという事だが。 ・・・国家単位で、そんな惨状を放置すれば、流石にうんざりしてこないか?」
「・・・はぁ、成る程ねぇ」
池井戸はいまいちどんな反応をしていいのか、判らなかった。恐らく、その、WIZARDが自分なのだと言いたいのだろう。そう言えば、昔から、会う人間、会う人間、不思議な奴が多かった気がする。あいつ等は、池井戸広太、自分の、未来が視え、その情報を元に先回りして行動していたのか、と解釈すれば、不可解な行動の数々も、説明が付いた。
「普通は、代々、名のある家系は、 ・・・あくまで、本当にその系譜に意味があったとすれば、だが、お前に逢いに行く。それか、何処かのDORAGONに。九死に一生を得たパイロットやボクサーなら尚の事だ。それこそ、名前に、Jrを付けてでも逢いに行く。礼を言うためにだ。何代かけてもでも。それをー」
そう言えば、思わせぶりな行動にも心当たりが在る。クーロンの相棒や、死神と呼ばれたヘリボーンパイロット。奴等は、ともすれば、今日、この日に、俺が、この地に、こうして立っているのを知っていたのかもしれない。そして、それに賛同して、其の未来に、賭けたのであろう。この国を離れるまでは、そう言う事は、ほとんど無かった訳だが。
「それを、この国は、この国の人間は露ともそんな事を考えちゃいかった。お前が、国を捨てるのも判るさ、コータ。龍の逆鱗、というらしいな日本語では、絶対に、その男の信頼だけは損ねてはならないのに。 ・・・まぁ、結果は、さもありなん。気にするな。その内、良い事在るさ」
ロベルトはそう言うと、すでに灰になったシガレットを、地面に放り投げた。それから、多少、焦れったそうに二本目を取り出し、それに火を点ける。
「うーん・・・」
池井戸はそうやってしばし考え込んだ。首都高はもはや大賑わいである。渋滞は解消される所か、ますますその混迷を極めていた。気になる事は幾つもあった、急に饒舌になった相方もそうだし、さっき、瞳子と別れてから、続いている妙な感覚もそうだった。何と言うか、物の輪郭がやけに、リアルに見えるのである。体の調子が悪いのかと言えばそうでもない。何と言うか、言葉に出来ない感じである。ロベルトはデジャブと言ったが、どうなのだろう。
果たして、俺は割を食ったのか。他人に未来を覗き見されて、はたまた、取るに足らない邪教徒連中に妨害工作でもされたのか。覚えがあるといえばあるし、無いと言えば無かった。というのも、ある程度の艱難辛苦は自分で打ち払って来た、打ち払えて来たからである。だから、自分は、自分に自信があるのかもしれない。日教組の金バッチ持ちはきっちり半殺しにしたし、学年が上で難癖を付けて来たゴロツキは、後を付けてコンクリでしっかり仕留めた。まぁ人道見地には即していると言えよう。それか、最後の審判が前倒しで来たか、である。野放しになった際の、二次、三次災害が出る事を思えば、感謝状を貰いたい位である。ヒヤリハット、225の法則というのが脳裏を過って行った。重篤な、医療過誤、過失が出る際の、そのモデルは、社会工学にも、当たり前のように当てはまるはずである。“人柄”が一番大事な、審査基準なのである。そんなモノは当たり前である。そんなモノはDMMの採用人事に聞いても同じ答えを返してくるだろう。
アスファルトの上は、もはやパレードである。池井戸はシガレットを一口、口に含んだ。其処彼処で、シャンパンやらビールの栓が切られる音がする。やけに、景気の良い夜だった。何処からこれだけの酒が出て来たのだろう。サントリーのトラックでも襲われたのだろうか。それとも、前もって準備しておいたのだろうか。池井戸はそんな車道の往来、道行く酔っぱらい達、並んだ赤いテールライトを見ながら、思った。
「まっ、どうでもいいか」
隣で、ロベルトがいきなり吹き出すのが分かった。それから、ゴホゴホと、盛大にマリファナを吐き出す。先ほどまで、放心して、上の空だった男の魂が、夜空より帰って来た。もしかすれば、ガンダルフにでもあって来て、自分の、今の対応で良かったのか、自問自答していた最中なのかもしれない。
「どうでも、良いって、どういう事だ、お前。面白いにも、程があるだろう!」
「えぇ? どうもこうも、そのままの意味だよ。よしんば俺が天災で? その俺の心がぁ? 他人様に見えてたからって、何を気にする必要があるってんだ。それこそ、天地天明に誓って、我が身を恥じる所など、何一つ、ないね。俺ぁ、実は潔癖性なんだ」
池井戸はそう言うと、後ろで手を組んでから、軽く伸びをした。
ポニーテールが粉雪の舞う首都高の上に揺れた。そう言えば、さっきの事故、もといスタントの無理を忘れていたらしい。
「ブアッハッハ、潔癖性! お前が潔癖性だと、此奴は良い、ハハッ、ハハッ、傑作だ!」
隣でサイボーグ救命士が、盛大にマリファナを咽せながら、笑っている。どうやら笑いの壷に入ったらしかった。急と言えば、急である。それか、バッテリーが短絡を起こしたかのどちらかだ。
「これだから、お前の相棒は止められないんだ。道理で日本のプリンセスに認められる訳だ。凄い、傑作だ。ブリリアント!」
どうやら感動しているでもあるらしかった。シガレットを口に加えたまま、空いた両手を力強く叩いている。それか、慣れないマリファナが、脳細胞の、変な所に回ったか、だ。
「・・・どっちでも良いんだけどよぉ、ハッパ吸うのも大概にしとけよ? あんまり吸いすぎると、事だぜ」
池井戸はそう言うと、後は大して興味が失せたのか、ハイメディックの中に戻ろうとする。両腕を摩っていたので、寒かったのかもしれない。
「少し、待て」
そんな池井戸を呼び止める声があった。
「そう急ぐ事もないだろう。お前も、一本、どうだ?」
池井戸が振り返ると、ロベルトが、シガレットを一本、こちらに差し出す所だった。
「ーどうでもいいんだけどよぉ」
大の大人二人が、首都高速の上で、マリファナをプカプカやっていた。野放図に伸びた髪を後ろで縛っているアジア系と、短く刈り揃えた髪を後ろに峙てている白人の二人だった。隣に、アスクレピオスの入ったハイメディックが止まっているので、恐らく、医療従事者なのだろう。
「お前さんもウィッチの貧民街に、前金全部、くれてやったそうじゃねぇかよ。聞いたぜ、本人様から」
ロベルトの顔が、僅かに変化して見える。他人には分からないかもしれないが、三ヶ月の付き合いの池井戸には、それが照れているように思えた。
「いや、別に。なんてことは無いさ。只の恩返しだ。この国では、倍返し、半返しが基本なんだろう? お前の方こそ、無償の善意だったはずだ」
ロベルトの顔が、少し紅く、染まって見えた。さっき、ロベルトがマリファナを寄越した時に、ウィスキーを開けていいなら、と条件を出した。それを二人して、回し呑んでいる訳である。聖夜という事もあってか、流石に奴も嫌な顔はしなかった。
「いんや、俺のは打算だよ。日本のWIRED、オカルト勢で一番強烈なのは、利子が嵩む事。無宗教で、普段、放縦の限りを尽くして、戒律が普段無い分、日頃のチェック、決済が掛からない。さっき、アンタが言ったみたく、やった事、した事、は基本、倍返しになるのも当たり前だ。いざ、瞳子みたいな、本物の日本人の前に出た時に、ドボン。返しきれない業が顕在化して、ちんけな存在ごと吹き飛ぶって寸法だ。まぁ、分かりやすいっちゃあ、分かりやすい。肝胆相照らして、全部、自分に帰ってくるって話しじゃねぇか。面白ぇ。道理で、滅多な事、出来ねぇって訳だ。 ー知ってたかい? 俺の善意は、何時だって自分本位なんだぜ?」
池井戸そう言いながら、粉雪振りすさぶ夜に向かって紫煙を吐く。その顔は無邪気そうに笑っていた。
「・・・そうだな、きっとそうに違いない。報道も、ニュースも、全部、茶番だ。どれだけ精査しても、俺が出した結論も同じだ。
この国は、とてつもなくドデカいカジノ、或いは保養地だと思った方が、身のためだ」
ロベルトはそう言って、額を拭う仕草をした。ついでに鼻を鳴らしてみせる。何か、思う所があったのかもしれない。
「まぁ、俺が居ねぇ間に色々あったらしいからな。この国も。最近は、随分、風通しが良くなったように感じるよ。 ・・・なぁ、ロベルト、ちなみにや、俺がこの国に帰ってくる前に、オクラホマのヘリボーンのパイロットに言われた事があるんよ。曰く、この国で上手くやるための秘訣。ディスペルだって言われたんだが、何だか、分かるか?」
ロベルトは苦笑しながらトリスの瓶を傾けた。いつものブラックニッカでは無い。僅かながら、奮発したのだ。
「「フォース・ウィル・オールウェイズ・ビィ・ウィズ・ユー(汝、どうか、主と共にあらん事を)」」
トミタ名物、チンピラ救命士と心臓のない男の口が、異口同音の言葉を紡いだ。主よ、では無く、汝、で始まるのがポイントである。それから、どちらとも無く、笑い始めた。
「・・・何かの冗談かと思ったんだがよ、まさかホントの話しだったとはな」
「・・・確かに」
それはすぐに腹を抱えた爆笑へと変わって行く。池井戸が、手を叩き始めた。ロベルトは、踞って肩を揺らしている。もはや、疑う余地は無い。酒とマリファナのせいもあるかもしれないが、二人の意識は、確かに少し、リンクしていた。皇族からの、聖夜のクリスマスプレゼントにしては、些かパンチが効いていたのかもしれない。この国のも鹿は沢山いるのである。よもや、配達先には困るという事はないのだろう。
この国では、絶えず、魂の選択が問われている。先の文言は、常に、強く、何より、優しく、そして、正しくあろうとする心構えこそが、最も重要であるという意味なのだろう、池井戸は今、そう解釈した。この国に今足りないのは、剛毅さ、なのだろう。
ふいに、福本の言葉が池井戸の脳裏に去来した。
この国も少しは変わったはずである、と。どうしても、その時は、母国というものを持った事が無い池井戸には実感が湧かなかった。もしかすれば、変わったとすれば、自分なのかもしれない。15の時に、国を捨てた自分と、今日この日、この場所に立っている自分。違いがあるとすればそこだ。あの時は、誰にも焼けなかったお節介を、今は、誰かに焼けている。
それだけで、例えば、ハイメディックを走らせる理由、人を助ける理由には十分なのではないだろうか。最近、そんな事を考えるようになった。それも、つい最近の話しだが。
ロベルトに、福本、向井に、ラシードに、マリア、それから、黄。
他にもトミタにも気の良い連中は沢山いた。
奴らと触れ合った時、心に火が灯るのを感じるのだ。
「思い出した、ピンクのキャデラックだ」
ひとしきり笑った後、池井戸はそんな事を言い出した。
「ハハッ、ハハハッ、 ・・・何だって?」
ロベルトはまだ笑っていた。さっきから、掴む物が無いのか、ハイメディックをワイパーを、バンバン叩いている。
「いや、思い出したんだ。映画の話しさ、前言ってたろ、昔見た映画の題名が思い出せないって、“キャノン・ボール”。アレ、確か、最後、キャデラックで、海、見に行くじゃねぇか。アレ、何でだ?確か、最初、世界一周するとかって話しじゃなかったか?」
対する池井戸はというと、久しぶりに吸ったマリファナを思いのほか気に入ったのか、頭に血が回り出したようである。ぼんやり、と視線が虚空を見つめている。いつもの、血走った感じが、幾分か和らいでいた。
「・・・・・」
ロベルトはそんな池井戸の様子を、頭から、つま先まで観察した後、意を決したように口を開いた。
「ー前々から言おうと思っていたんだけどな」
その口調は、柔らかいものの、何処か重々しい。
「du、お前、禁煙するか、煙草の種類を変えた方が良い。燃焼促進剤の多い煙草は、はっきり言って百害あって一理無しだ。長期的な物覚えも悪くなるし、インスピレーションも冴えなくなる。物事の関連性を、追えなくなる。 ・・・単純作業ばかり、反復するというなら別だが」
「えぇ?」
池井戸はロベルトの言葉を受けて、意外そうな顔をする。何処か気の抜けたような返事になってしまったのは言うまでもない。
ふと、気付けば、傍らにロベルトが立っていた。
「ー混同している」
“心臓のない男”はそう言うと、無造作に池井戸の左胸ポケットに手を突っ込んだ。
「末期がん患者二人、意気投合して、ライムとジンを貪りながら、銀行強盗をして、それからキャディーに乗って海を目指すのは、アメリカ映画では無い。ドイツ映画だ」
ロベルトの左手には、今しがた池井戸の懐から抜いたばかりのラッキーストライクが収まっていた。
「・・・」
池井戸が何も言えないでいると、ロベルトはそれを右手に持ち替え、グシャリ、と握りつぶす。そして、今度はそれを首都高の塀の外へと向かってぶん投げた。その瞬間、幾つもの映像が、池井戸の脳裏に重なっては消える。過去の映像、最近の映像、そういえば、瞳子とキスした時も、こんな感じがあった気がする。デジャブ、既視感というらしい。その中には、未来の記憶らしきものも存在した、ハイメディックのフロントガラスがひび割れている。幽体離脱という奴だろうか、池井戸の頭蓋骨はぱっくりと割れ、自分はそれを見下げていた。灰皿がわりのカップホルダーには吸い殻がたんまり、助手席のテーブルには、ラッキーストライクが転がっているー
それも、一瞬の出来事である。
「思い出した、“ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア”だ」
すぐに、我に帰った池井戸の口は、そんな事を口走った。目の前には、相変わらず仏頂面のドイツ系が一人、いるだけである。池井戸は、今、西暦2025年は、12月25日0時、首都高の道路の上に立っていた。
恐らく、今のは、何か、軽い予知夢か何かだろうと、池井戸は気にしない事にした。神の啓示か、天啓か、はたまた、今日、日本のお姫様の役に立ったからかもしれない。ここは素直に禁煙するが、吉である。
「正解。1999年10月23日に日本で封切り、監督・脚本がトーマス・ヤーンで、主人公二人がティル・シュヴァイガーとヤン・ヨーゼフ。ついでに言うと、ジャッキー・チェンが世界一周するのは“80デイズ”、俺は2004年のリメイク版の方が、好きだがね」
ロベルトはそれだけ言うと、パンパンと手を叩いて、シガレットケースを大事そうにしまった。吸い殻は、巻きタバコなので出なかったらしい。
「・・・何だ、映画、詳しいんじゃねぇかよ」
池井戸が所存無さげにそう言うと、ロベルトは目を閉じたまま、笑った。
「まぁな」
手元で、ふいにウォッチのアラームが鳴った。二人して、ウォッチの電子情報を見遣る。救命救急の要請だった。
「おい、どうするよ。この先で心臓発作だってさ」
池井戸はそう言いながら、まだ残っているトリスの空き瓶を助手席の窓から放り込んだ。
「どうするって、決まっているだろう、行くしかない」
ロベルトはというと、ウォッチの端末を弄くっている。クランケの状態を確認したいようだった。
「―救急車、あんな状態でか? おまけにストレッチャーもさっき、捨てちまったんだぞ」
二人は一瞬、言葉を失って立ち尽くした。調子に乗って、マリファナとトリスを煽ったのも不味かったのかもしれない。
だが、次の瞬間にはもう動き出していた。
「それでも、人工呼吸位、出来んだろ。それから心臓マッサージそれからー」
「ノック」
ロベルトの言葉に、池井戸の、長年燃焼促進剤漬けで固まっていた言語野が反応を示した。
「そう、心筋殴打、ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア(KOHD)だ。そうか、やっと思い出した。だから引っかかってたんだ」
「何だって?」
「・・・何でもねぇ、歳だけは取りたくないねぇ、やっぱり禁煙する事にするよ」
池井戸とロベルトは、役に立たなくなったハイメディックを後に残し、現場へと向かう。彼等が運んでいるのは、別に救急車などではなく、患者なのである。
「その方が良い。 ・・・瞳子に嫌われるぞ」
「大きなお世話だ。 ー行くぜ」
あとは、ほんの少しばかりの親切と押し付けがましさがあれば、大抵の事は上手く回るはずだった。例えば、シマリスのような少女の満足そうな笑顔。対価はといえば、それで十分だった。
「さーて、人助けの時間だ」
天国では皆が話す、海の事、夕陽の事を
あの馬鹿でかい火の玉を眺めているだけで素晴らしい
海と溶け合うんだ
ロウソクの光のように一つだけが残る
心の中に―
(完)




