4-14
ちょっと体調崩してました
一足先にエデンへと帰還した俺を待っていたのは慌ただしく走り回っている職員と軍人の姿。
一人捕まえて話を聞くとどうやら戦闘は既に終わっており、信号弾も打ち上げ済みとのことである。
帰還と同時に信号弾が上がっていたので視認できていなかったようだ。
戦闘が終わったのならば俺も休ませてもらうとするか、と歩き出したところで軍人さんから呼び止められた。
「少々お聞きしたいことがありますので司令部へご足労いただければ……」
言葉を濁していることから申し訳なさが伝わってくる。
今回の戦闘は間違いなく俺が一番の功労者である。
そんな人物に「まだ何かしろ」と言うのだ。
言いにくいというのもあるだろうが、それ以上に申し訳ないという気持ちがあるのだろう。
すれ違い様に情けない顔をしている軍人の肩を叩き「損な役回りだな」と一言労う。
命令とあればやらねばならぬのが軍人の辛いところである。
それを慮るのは同じ軍属の人間として当然のこと。
「スコール1ポイントプラス1点と言ったところか」と見事なロールプレイを自画自賛しつつ、俺は司令部へと続く廊下を歩く。
到着した俺を待っていたのは何度か目にしたことのあるお偉方と椅子に座って腕と足を組んでいるフィオラ。
転移剣で戻ってきたのだろうな、とあの程度なら本気を出すまでもないという自信が、今回の戦闘終了が遅れた理由と察する。
しかし近づくにつれ、見えていなかったものが見えてきた。
「……負傷か?」
そう、フィオラが負傷していた。
頭と肩から流血した跡がある。
「つくづく貴様が敵に回ると厄介だと思い知ったわ」
不機嫌な顔で吐き捨て、視線だけでお偉方に説明を促す。
それに頷いたのはレデル上級議が一歩前に出て口を開く。
「簡潔に言おう。人形型が混じっていた。模倣の対象は、君だ。スコール1」
そう言うことか、と俺はフィオラの発言の意味を理解した。
それにしてもよりによって俺の劣化コピーが現れるのか、と今後にありそうな面倒な展開に溜息が出る。
「要所の防衛に当たっていると見られていた人形型が出てきたのもそうだが、明らかに早すぎる」
これは過去に類を見ないものだ、とレデルが深刻そうな表情で語る。
過去の記録によれば人形型が模倣するのは攻勢に出た際に出撃していた英霊だけだった。
向こう側も情報のない相手をコピーはできない。
そう考えられていたところにこれである。
情報を得る手段と範囲をエデン側が見誤ったか?
それとも俺という脅威を見て即座にコピーしたか?
可能性を一つずつ潰していく必要があり、俺の意見も聞きたいとのことである。
残念ながらこの件に関しては完全な素人。
むしろ俺が口をはさむ余地があるのか、と言いたくなる。
なので取り敢えず今回の模倣してきた人形型がどんなものかをフィオラに尋ねる。
「狙撃銃しか使ってこない粗製だな。威力は低いが射程と精度だけはコピーと呼べる」
「お陰で一撃まともに食らった」とフィオラは血の跡が残るこめかみを指でトントンと叩く。
その他にも戦闘中に肩へと弾丸を貰ったが、こちらは頭部狙いと思っていたが、精度がオリジナルほどではなかったのか、こちらに命中したとのことである。
高速戦闘をしているであろうところに遠距離からヘッドショットを決めるだけの能力がオリジナルの俺にあるかどうかはさておき、それが事実だとすればとても不都合な事実に誰でも気が付く。
「あの切り札を模倣される可能性、か……」
俺の呟きに頷くレデルとそれに倣うお偉方。
「あれは一発だけしか製造されていないものだ。形だけの模倣ならばともかく、俺をコピーしているというのであれば、使うことはできないだろう」
最後の一発を俺が使ったわけだからな、と付け加えるが、それでも彼らの不安な表情は消えることはない。
まあ、当然と言えば当然だ。
あんなものを模倣されれば、今後の戦略が破綻しかねない。
仮に劣化コピーであったとしても、元の威力が文字通り桁違いなのだ。
それを考えればこの反応は当然とも言える。
「あんなものがあるなら言ってほしかったですな」
「そうだな。知っていれば他にやりようもあった」
お偉方の一人が恨めしそうに俺に言うとそれにフィオラが続く。
だが、俺には俺の言い分もある。
「そう言うな。俺もあれほどの威力だとは思わなかった」
俺の言葉に「どういうことだ?」と説明を促すレデル上級議員。
「俺が知っているのはシミュレーションの結果だけだ。あれは実際に使われた兵器ではない」
ゲームの中の話なので間違ったことは言っていない。
ともあれ、語ってみせるはあのミサイルの来歴。
侵略的宇宙人と刺し違えるつもりで作られた地球諸共消し飛ばす兵器と聞き、その場にいた全員が「なんてもの使ってんだ」と言わんばかりの顔でこちらを見つめている。
「開発コンセプトはそうだったが『それでは意味がない』と別人が手を加え、威力を調整したものがあれだ。もっとも、その威力も理論値から随分とかけ離れていたみたいだがな」
お陰で爆発に巻き込まれるところだった、と俺は付け加え、あれが想定外のものであったことを改めて強調する。
それを聞いてどの程度のものを想定していたのか聞かれたので「想定ではあの半分も倒すことはできなかった」と答えておく。
「それを余を脅すために使ったことは忘れんぞ?」
「実際に使用していないから問題ない」
舌打ちするフィオラを宥めるお偉方。
空気を変えるように咳払いを一つしたレデル上級議員が他の面々と見合わせ頷く。
「条件が厳しいものであればあるほど模倣のハードルと正確さは失われる。ましてや星の海を渡る船の動力を用いた兵器など、再現しようにも最盛期のエデンでも不可能だ」
恐らくは模倣は不可能。
できたとしてもとんでもなくお粗末なものになるだろう、というのがお偉方の出した結論である。
とは言え、それでもエデンにとっては脅威となる。
そこの話は上層部で頑張って話し合ってほしい。
スコール1は兵士だからね、戦うだけがお仕事である。
流石に疲れているのでそろそろ解放してもらいのだが、今回の戦果があまりに大きすぎるので「何か望みはないか?」と聞かれた。
これに関しては前と同じで「今は思いつかないからその時になったら頼む」で通す。
貸しはしっかりと貯めておく。
来るべき日がいつになるかはわからんが、その時が来るまでしっかり貯金しておこう。
司令部を出た俺は待機していたジェスタに捕まった。
まだ何かあるのかと警戒したが、用件は今回の負傷者についてであった。
丁度ケイの容態を聞きに行こうと思っていたので都合が良い。
死人こそ出ていなかったものの、どの戦場でも負傷者は出ており、被害状況を大雑把にまとめると負傷者多数が第八期と第六期、逆に少ないのがそれ以外、である。
ちなみに一番被害が少なかったのが第七期。
これに関しては流石の連携力と言わざるを得ない。
全体を通して最も重症なのがケイとなっているが、既に動けるくらいには回復しているとのことであり、心配は無用とジェスタに言われた。
見舞いに行く必要もなかったのは何よりだ。
そんなわけで自室に戻って真っ先にすることはベッドの上に倒れること。
連戦は流石に疲れるとばかりに目を閉じる。
時間的に眠りにつくには早すぎるが、リザルトが気になる俺としてはさっさと寝てしまうのも選択肢の一つなのだ。
(あ、飯は食ってからの方が良かったか?)
そんなことを考えながらベッドで目を閉じていたらいつの間にか眠っていた。
やはり疲れていたのか、と目を覚まして考える日の出前という時間。
流石に起きる時間が早すぎるが、それでも日付は変わっているので出現するリザルト画面。
それを見て俺は首を傾げた。
あれだけ倒したのだから何か変化はあるだろうとは思っていた。
しかし表示された画面を見て予想外の事態に俺は再び首を傾げる。
「……バグってるじゃねぇか」
リザルト画面であることには間違いない。
しかし文字化けしており、その内容がさっぱりわからないのである。
思わず地の声が出るのも致し方なし。
取り敢えず読めそうな部分があるので解読を試みよう。
表示された画面に映る文字は倒した数を考慮すれば少ない。
だが、未だコンプリートしていない俺に残された枠からは明らかに多すぎる文字数である。
(これはついにナンバリングの壁を越えて何かが実装されたか? それともデータ上にだけ存在しているあれこれでも出てきたか?)
だとすればグングニルはほぼ確定だろうし、何なら最終ミッションで出てきたテンペストチームが使っていた武器群というのもあり得る。
(だとしたら欲しいのはレザショと炸裂ミサか? いや、ミサイルならどっちかという多連装マルチミサイルの方が有用か?)
そんなことを考えながら文字化けした文字列を眺め、文字数から可能性のありそうなものをピックアップしていく。
しばらくそうやって答えを探していたところ、俺はあることに気が付いた。
読める文字がチラホラ見受けられるのだが、それらを繋げると文章に見えなくもないのだ。
「早……し? 間、わ、な……?」
読める文字が少なすぎるのは漢字が読めないからではない。
意味不明な文字列が多すぎることと、
「はやくしろ、まにあわなくなってもしらんぞ?」
何処の星の話でしょうかね?
何かで見た記憶のあるセリフを口にした俺はリザルト画面を前にもう一度首を傾げた。




