4-12
一筋の光が放たれる。
大地を焼くその光は標的から僅かに外れるも、獲物を追い詰めるかのようにじわじわと軌道を修正し近づいていく。
「二度も当たるわけねぇだろ、ボケ!」
デイデアラはそう吐き捨てると照射されるレーザーから飛び退き、近くにいる小型のデペスを左手に持った斧で粉砕する。
初期に中型のレーザー砲台の囮役となり、右腕を失ったデイデアラが反撃の時間だとばかりに暴れ出す。
残る中型はあと一体。
しかし残された最後の一体があまりに遠い。
戦闘経験のあるリオレスが突出するも、その勢いはデペスの波に呑まれて前に進めなくなっている。
初手で戦術の要であるケイとその防衛陣地を失い、戦闘継続が困難なほどに負傷した彼女を護送するためにさらに一人欠いた状態での戦闘が続いた。
乱戦の形成が不利と悟ったクドニクの指示により、前線を構築するに至るがあまりに数が違い過ぎた。
何よりも二体の機械型から放たれる高出力レーザーの脅威が盤面を容易くひっくり返す。
リオレス、デイデアラの二人を以てしても凌ぎ続けることは難しい。
目標に対して正確に狙いをつけてくるのであれば、デイデアラも右腕を失うことはなかっただろう。
その精度の悪さが嫌な方向で噛み合った。
一度起こったことに二度目がないと誰が言えよう。
中型の破壊が最優先事項となり、リオレスとデイデアラ、エルメシアまでもが協力して一体の破壊には成功する。
だが、そこまでだった。
再び敵奥深くにまで入り込む余力はなく、リオレスはほぼ単騎でこの状況をひっくり返さなければならなくなる。
短時間とは言え、無理を押し通すほどの全力戦闘で魔力切れを起こしたエルメシアと片腕を失い、レーザー砲台の囮役に徹するデイデアラ。
誰が見ても状況は悪い。
このまま敵を削り切るのが先か?
それともこちらが崩壊するのが先か?
天秤の傾きを見誤るほど司令塔であるクドニクは現状を楽観的に見ていない。
最悪は七期に押し付ける――撤退の二文字が彼の頭を過った正にその時、誰かが大声で何かを叫んだ。
そちらを見れば前線が崩壊しつつある状況が見て取れた。
昆虫型のデペスが前衛を突破し、その一部が後衛陣になだれ込んでいる。
状況を把握したデイデアラが「そっちでどうにかしろ!」と余力がないことを知らせる。
「わかっている!」
デイデアラの声にマリケスが叫ぶように返事をして状況を立て直すべく奔走する。
幸い援護が間に合ったので負傷者は出なかった。
そもそも前衛を突破した大半のデペスは後衛陣の火力の前に倒れており、一角が崩れた程度では英霊と呼ばれる彼らを追い詰めることなどそうそうない。
とは言え、構築した前線が崩れ始めているのは事実である。
状況を見て各々が動く中、戦況は確かに好転したかに見えた。
そこへレーザーが放たれ、狙われていたデイデアラはこれを回避し、その射線に入ったデペスを焼き尽くす。
デイデアラはこれを狙って位置を変えていた。
僅かではあるができた空白。
それを埋めるようにデペスが殺到し、ほんの僅かな余裕を前線を構築する味方に与える。
だが、それは結果として悪手となった。
突如できた空間へとデペスが集まったことで図らずも均一に近かった圧力が変化する。
デイデアラの一手は確かに立て直す時間にはなったが、押し出すような局地的な突進力は前衛を乗り越え、デペスを後衛へと押しやった。
降り注ぐ地上型と全方位から襲い掛かる飛行型。
後者への対応に追われていた後衛陣が勢いよく迫るデペスの全てに対応するには遅すぎた。
昆虫型の一体が後衛の中を突っ切る。
誰かを標的にしたわけではない。
だが、回避が遅れた一人がその大きな角に捕まった。
「しまった!」という誰かの声。
後衛陣へと突入した昆虫型のデペスがレイメルを空へと打ち上げた。
そこに待ち構えるのはトンボのような見た目のデペス。
高く空へと打ち上げられたレイメルは迫るデペスを手にした杖で打ち払う。
しかし上昇する速度がなくなり、後は落ちるだけとなる静止した瞬間にそれはやってきた。
レイメル目掛けて突進する飛行タイプのデペス。
その強靭な顎が開き、獲物を食いちぎろうとしたその瞬間――その頭部は勢いよく弾け跳んだ。
全速力でバイクを走らせ、デペスの群れを肉眼で確認できる距離まで近づいた。
俺は状況を把握するためスコープを覗いていたところ、群れの中から誰かが飛び上がった。
そう思っていたのだが……何やら体勢がおかしい。
あれでは飛び上がったのではなく「打ち上げられた」或いは「放り投げられた」と言ったところだろう。
それに合わせるように群がる飛行タイプの昆虫型。
「あ、これはまずいのでは?」と思うと同時に俺は動いていた。
スコープをそちらへと向けると空へと打ち上げられたのはレイメルだった。
そのレイメルに噛みつかんとするデペスを間一髪で狙撃。
落下を始めた彼女に合わせ、こちらも昆虫型の斜面を利用してバイクで飛ぶ。
「手を伸ばせ!」
空中でゆっくりと回転するレイメルが俺の声に従いこちらに向かって手を伸ばす。
俺もそれに応えるようにその横を通り過ぎる最中、手を伸ばしてその腕を掴むと同時に引き寄せる。
反動は大きかったが、強化服の力で無理矢理レイメルを俺の腕の中へと引き込んだ。
「遅くなった」
俺の言葉に「いいえ、間に合いましたよ」と笑うレイメルが礼を言う。
高速で移動するバイクで掴めるかは心配だったが何とかなった。
後ろを見ると味方から少々離れてしまっている。
どうやらレイメルは嫌な位置に飛ばされるところだったようだ。
間一髪だったが間に合って何よりである。
取り敢えずレイメルを下ろそうとバイクが着地させてブレーキをかける。
すると何もしていないのに近くのデペスが弾け飛んだ。
「パーティーに遅刻たぁ偉くなったじゃねぇか、スコール1」
バイクを止めたところで声をかけてきたの右腕のないデイデアラ。
「こっちは主賓をもてなしていたんでな。文句があるなら次は代わってくれるか?」
そう言ったところ「やなこった」と笑って返すデイデアラ。
レイメルを下ろし、仲間との合流を頼んで俺はバイクで走り出す。
状況は把握した。
防衛陣地はなく、デイデアラは負傷。
その原因となったものは未だ健在となれば、まずはあのレーザー砲台を破壊することが最優先だ。
(何と言うか、予想通りあのレーザーはケイの天敵だったかー)
いるのがわかっているなら戦力の振り分けをもっとよく考えるべきである。
司令部の怠慢か?
それとも他の場所にもいるからそうするしかなかったのか?
これは帰ったら問い質すべき案件である。
バイクを走らせ、地上型のデペスすら道にしながら俺は真っすぐにレーザー砲台を持つ中型へと向かう
レーザー砲台はクールタイム中らしく、何の妨害もなく進めていたが……やはりこういう時は間に合うのがお約束のようだ。
俺目掛けて一直線に伸びた警告ライン。
あれだけ敵を倒せばAPもカンストして対象外になるかと思ったが、どうやらそうではないらしく、このレーザーの危険度が如何に突出しているのかがよくわかる。
(いや、リザルトがまだだから反映されていないのか?)
どちらにせよ、やるべきことは変わらない。
今はこの機能があることに感謝しつつ、放たれたレーザーを余裕を持って回避。
デペスを乗り越え、スナイパーライフルの射程内に入ったことで狙撃を開始する。
的がでかいので狙う必要がないので、これを狙撃と呼んでよいのかは疑問であるが、お陰で荒々しい運転の中でも地道にダメージを稼ぐことができている。
周囲にいるのも昆虫型の小型が多く、僅かに獣型と機械型が混じる程度。
やはりあのレーザー砲台さえなければ、俺を除く第八期でもこの程度の敵なら難なく撃破できただろう。
「なんかこいつだけバグってないか?」と思いつつ、スナイパーライフルでレーザー砲台を破壊する。
本体を倒すには至っていないが、砲台さえ破壊してしまえば後はもう消化試合のようなものである。
バイクで走りながらロケットランチャーを敵の密集地帯に撃ち込む。
効率良く処理しているところで、ふと我に返って考える。
明らかに今回の俺は倒しすぎている。
一応非常事態ということになっているので大丈夫だとは思うが、同期の分を残しておいた方が良いのではないだろうか?
とは言え、それを確認しに戻るのは色々と問題がある。
何よりそれはスコール1らしくない。
(この場合は特に気にせず殲滅が正しいか?)
しかし同じミスを繰り返すのもよろしくない。
急いでいたとはいえ、司令部に確認を取らなかったのは失態である。
「やっちまったなー」と苦笑交じりに溜息を吐き、目の前の敵にアサルトライフルを連射する。
デペスを足場にする曲芸染みた動きも最早慣れたものであり、敵をこちらに引き付けるべく俺は派手に暴れ始める。
しかしあまり強力な武器は使わない。
倒しすぎないように調整しながら戦うのだ。
何故そのような回りくどいことをするのか?
少し考えて俺が出した結論はこうだ。
こうして俺が暴れることで敵を引き寄せ、味方が立て直す余裕を作る。
厄介な中型がいないのであれば、彼らだけでもこの程度は殲滅できる。
スコール1は味方の援護も上手いのだ。
何せプレイヤーが使えない超強力な武器を使う部隊もおり、自分で頑張るよりもそちらに押し付ける方が楽にクリアできるステージもある。
今回は味方にもしっかりと戦果を稼いでもらう。
そのための言い訳も考えてある。
それは「敵主力との戦いの後にリロードする時間がなかった」というものである。
この理由を確かなものにするため、俺はリロード縛りを加えて暴れている。
流石に扱いが難しいものまで使う気はないので、普段使いしているカテゴリを回しているが、それでも問題なく戦えている辺り、俺も成長しているのだと実感する。
そんな感じでしばらく戦い続けていたのだが……問題が発生した。
時間をかけて戦っていても同期が大きく巻き返す気配がない。
安定はしているようなのだが、大きく攻勢に転じる気配がないのだ。
そこで俺は先ほどから大規模な範囲攻撃がないことに気が付いた。
(あ、範囲殲滅できるエルメシアが動けないのか)
しかも戦術の要であるケイも戦線離脱しており、安全に広範囲殲滅攻撃をできる環境がなくなっているのである。
前衛と後衛が協力して前線を構築しているのが現状であり、メイン火力であるエルメシアはダウン。
リオレスは遊撃に回り、デイデアラは負傷とあっては攻勢に出るのはリスクがある。
「これは読み違えたか?」と俺は慌てて方針を変更。
味方救援のために来た道を戻り始める。
レーザー砲台が健在だったとは言え、情報共有する時間を惜しんだのは失敗だったかもしれない。




