解体場の職人ダグラス
「よう。 久しぶりだなダグラス」
翌日、ギルドの横に建てられたギルド専門の解体場に俺とリーファは足を運んでいた。
そこにいる中年のガッシリ体型をした見てくれはいかにも元冒険者のその男は奥で黙々と魔物の解体をしていた。ハイケルが声をかけるとこちらの様子に気づたのか手を止め近付いてきた。
「おお。ハイケルか久しぶりだな。それよりお前ロシアナと結婚したんだって? ほんと聞いた時はたまげたぞ。誰にも靡かなかったロシアナがまさかお前を選ぶなんて世の中何が起こるか分からんな」
ダグラスとはもう古い付き合いだ。俺の事を若い頃から知っていて、勿論過去に俺が起こした不始末のことも知っている。たまに魔物を解体してもらうときに直接声をかけたりしているのだが。
やはりロシアナのことを聞かれたか。聞かれるかと思ってはいたけども。
「そのことについては俺が一番驚いているよ。 でも今日はその話をしに来たんじゃない」
「分かってるよ。 お前は昔から色濃い沙汰に興味ないのは知っているからな。でかい魔物でも倒したのか? 俺に直接声をかけてくる時はいつもそうだからな」
「よく分かったな。 今回はとびきりのを用意してある」
「とびきりって何もねえじゃねえか? 解体するにも何もなければ解体なんてできねえぞ。 それに隣にいる可愛い嬢ちゃんは何だ? お前の娘か?」
「リーファって言うの。ハイケルの娘だよ」
ハイケルの後ろに隠れていたリーファがひょっこり顔を出してダグラスに答える。
確かに解体場に入ってからリーファはずっと俺の後ろに隠れていた。
魔物の匂いや血の匂い、それに出てきたおっさんが強面のおじさんだったらちょっと怖いよな。
「なにっ? ハイケルお前ロシアナと結婚する前から隠し子でもいたのか?!」
「違う、違う。 色々事情はあるがこの子は養子だ。 でもそう言うと聞こえが悪いからな。 俺とロシアナの実の娘として育てている」
「ああ。 そうか悪い。 そこは深く聞かねえでおいてやる。 他人の家庭の事情に口突っ込むほど俺も野暮じゃねえ。 世の中色々あるからな。 そうか、何だかんだあれからお前も少しづつ頑張ってるんだな。 俺は嬉しいぜ」
「あ、ああ。 そうしてくれると助かる」
一人でうんうんと頷き、涙ながらに納得してくれている。無愛想に見える奴だが意外と情に熱い男だというのも知っている。俺のことも陰で心配をしてくれていたのでろう。でなければここまでの反応もしないはずだ。
「あの、本題の事だが、話をしていいか?」
勝手に一人の世界に入り込んでいるダグラスをこのままにしておくと話が進まない。俺は話を戻すことにした。
「お、おお!! すっかり忘れてた。 そうだ、どうするんだ? 持ってきてもらわないと解体はしてやれねえぞ」
「あるさ。 リーファ頼めるかい?」
リーファには事前に説明しておいてある。ダグラスという人物は信用に足る人物だと。だから俺も今回わざわざアースドラゴンを何も手をかけずに丸ごとアイテムボックスに入れて持って来ているのだ。
ギルドの職員は守秘義務があるので俺達の事を外部に漏らしたりはしない。うっかり漏らしたら処罰対象になるからだ。それでも何年かに一度、職員の中で情報を漏らして処罰された人もいるとロシアナに後で聞いたが、ダグラスは職人気質の人間だ。俺の昔の事も知っていてそれを喋ることもなかった。だから今から見せる事もうっかり誰かに喋るなんてことは皆無だろう。
「この子が? 何をするっていうんだ?」
リーファは場所を確認し、二匹同時に出せる場所を探した。解体場から少し出た広間に目を向ける。
確かにあそこであれば屋根もなければ邪魔になるものが一つもない。出すには丁度いいところだろう。
手をかざし、座標を決めて集中する。
『アイテムボックス アースドラコン』
唱えた瞬間、広間にヒュンと空間から二匹のアースドラゴンの死体が現れた。二匹同時となると広間を使ってもぎりぎりといったサイズだ。でも流石は王都の施設だ。このサイズを収めれる施設はおそらく大陸でもここだけだろう。
「なっ………なんじゃこりゃあ」
いきなり目の前に現れた二匹のアースドラゴンの死体にダグラスも空いた口が塞がらない。
分かるよその気持ち。俺もそうだったから。誰でも始めはそうなるよね。
「リーファはアイテムボックス持ちなんだ。 しかも限りなく無限に入るほどでかいアイテムボックスを」
「はいいいいいいいつ???」
ダグラスの反応がいつもよりおかしいな。多分色々なことが起き過ぎて脳が処理し切れずに落ちたのだろうか。俺もああならないよう気をつけよう。
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