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高校生活は異世界人に囲まれて  作者: 出水 彰
第2.5章 ザ・フードバトル
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【2.5章 3話】 伝説のフードバトラー 清白クイーン

 ペンギン伯爵と別れて約50分。


 指定されたイタリア料理店に行くと、店外までもが人で溢れかえっていた。

 この人だかり理由、それはミリアナさんの姿を見た人たちが、一切の言葉を発せずに店内までの道を作ったことからわかる。


 ここに集まった人たちは、ミリアナさんとペンギン伯爵のフードバトルを見に来たのだ。


 俺はミリアナさんと共にまるで花道のようなそれを通る。人々の顔を見ると皆が等しく興奮を噛み締めている。


 異常な熱気に包まれながら店内に入ると、横に並べられた2台の机と4脚の椅子を除いて他の全てが壁際に積み重ねて寄せられている。


それでも店内が狭く感じるのは、人の多さによるところだろう。

 

「良くお越しくださいました。私はピッツァサルーテの調理人をしている者です。本日はフードバトルの料理を用意させていただきます。さあ、こちらへ」


 真っ白なコックコートとコック帽を身に着けた男は、並べられた机に手を差し出す。ミリアナさんは「本日は突然のフードバトル開催に対応していただき、ありがとうございます」と頭を下げた。


「いえいえ、事前におおよその日付をペンギン伯爵様から伺っておりましたので、問題はありません。むしろ私の店を初戦に選んでいただいたこと、光栄に思います」


 ペンギン伯爵は初めからミリアナさんとフードバトルをする腹積もりだったようだ。


 俺とミリアナさんは促されるままに椅子に座り、俺は少し離れた机の角の席に座る。


 聞く話によるとフードバトルにはセコンドと似たシステムがあるそうだ。フードファイターの補助をしたり、限界になればタオルを投げたりする役割らしい。


 まだペンギン伯爵が来ていないので人々の視線は勿論ミリアナさんと、まさかの俺にも集まっている。

 ミリアナさんはそんな視線を浴びても堂々としたものだ。俺はその視線に慣れていないから、つい体を小さくしてしまう。


 俺はそんな視線を避けて店の外を見ると、帽子を被った少女と目が合った。その少女はどこかで見た記憶がある。


 誰だったか……、あ! 思い出した!


 再び人混みの中に足を踏み入れ、開けられた道を通って店の外に出ると少女の前に立つ。観客の視線はミリアナさんに集まっているから、俺の為に道を開けてくれるだけでジロジロを見られない。


「久しぶりじゃないか。ケイと見に行ったライブ以来か。今日もライブか?」


「お久ぶりね。今日は町ロケで、今は休憩中。それよりもライブの感想以来、連絡が来ないから忘れられたと思ったんだけど」


 そう言う少女の目は以前と変わらず引き付けられるものがある。


この少女はゴールデンウィークの時に出会った【アイドル】の【天坂】だ。熱愛報道の噂が流れていた時期がテレビ露出の底辺で、今ではその可愛げのあるルックスと切れの良いトークが受けて、テレビで見ない日は無い。


 俺はあまりテレビを見ないけど、知り合いがテレビに出ている姿を見るのは嬉しいもので、毎日インターネット上のファンサイトで出演番組を確認している。


 と、天坂に言うのは恥ずかしいし、ファンに足を踏み入れた状態だと自覚していても平静を装ってしまう。


「最近は忙しそうだから迷惑かと思って。それにこっちで色々とあったしな」


「気を使わなくてもいいのに。私は相山君からの連絡を迷惑だとは思わないわ。ただ、電話は出られないと思うから、メッセージだったらありがたいかな。だから送ってきてね」


 天坂はこれ以上ないぐらいの純粋無垢そうな笑みを見せる。


 カワイイ!! ずっと眺めていたい。嫌なことが吹っ飛びそうだ。


「わかった。これからはそうする」


「うん、ありがとう。それにしてもこの騒動は何が起こっているの? もしかして相山君が原因かな」


「俺は何もしていない……、とは言い切れないけど、俺が原因じゃない。もうすぐフードバトルが始まるんだ。俺は挑戦者の友人? として付き添いでここにいる。

 天坂はフードバトルに詳しいのか?」


「フードバトル、少しは詳しいよ」


 そう言えばファンサイトに書かれていた天坂の経歴に、フードバトルのコメンテーターもあった。

 その時の番組を見ておけば良かったな。こんなにアタフタとせずに済んだのに。


「ペンギン伯爵と、ミリアナ……じゃなくて清白クイーンとの戦いだ。俺は清白クイーン側だ」


「な、な、なんですってえええぇえ!!」


 天坂の目を見開いて叫ぶと、店外の人々が一斉にこちらを向く。

何だか恥ずかしい。


「驚きすぎだろ。どうしたんだ?」


「ペンギン伯爵対清白クイーン。そのカードを実現するためにテレビスタッフがどれだけ駆けずり回ったか。

 それでも実現せずに涙を流したスタッフを何人も知っているわ。清白クイーンの連絡先は不明。探偵すらもまいたそうよ。

 やっぱり相山君は凄いわ。清白クイーンの知り合いなんて」


 天坂は勢いよく頭を下げる。


「お願い。取材できるように頼んでもらえないかしら。フードバトルをカメラで撮らせて」


「え、いや。聞くだけはするけど、ペンギン伯爵の方は知らないぞ」


「ありがとう。ペンギン伯爵への許可は私達に任せて」


 天坂が頭を上げると同時に、周囲にどよめきが走った。それは天坂の正体が知られたとかそんなものではない。周囲の人々の視線の先にペンギン伯爵の姿があった。


 ペンギン伯爵は髭をさすりながら俺に近づいてくる。そのペンギン伯爵の大きな体に殆ど隠れてしまっているが、体が小さく気の弱そうな男が後を付いて来ている。


「フフッ、話は聞こえていました。テレビ取材、構いませんよ。では先に入らせていただきます」


「ありがとうございます」


 天坂が再び頭を下げて、ペンギン伯爵はその姿を見て口角を上げるとフードバトル会場である店内に入っていった。

 

「それじゃあミリアナに聞いてくるよ。だけど期待はしないでくれよ」


「大丈夫。期待しているから」


 まったく話を聞いていない。


 俺は店内に戻りミリアナの横に座る。ペンギン伯爵は席について、観客に手を振っている。その横のセコンド席には、気の弱そうな男がハンカチで自分の額の汗を拭いている。


「知り合いからこの戦いの取材を申し込まれたんだけど、カメラで撮らせても良いか? 無理にとは言わないけど」


「相山様の頼みとあらば断わることは致しません。もっともリアナ様が許可を出すのなら、になりますが」


「わかった。リアナに聞いてみるよ」


 本日2度目のリアナとの電話だ。

 度々悪いと言った後に事情を説明すると、リアナは『わたくしから止めろとは言いませんわ。ただし条件があります。メディアに顔を出すのなら、わたくしの侍女として無様な負けは許しません。そう伝えていただけますか』と返された。


 リアナの許可が出たこと、そしてリアナからの激励を伝えると、ミリアナさんは大きく息を吐いた。


「リアナ様らしいですね。相山様、私の雄姿をぜひリアナ様にお伝えください。メディア越しではなく、あなた様の口から、直接です」


「わかった。どこかで時間を見つけて。じゃあ天坂に伝えてくる」


 俺が席を立つと、ミリアナさんに腕を掴まれた。


「リアナ様の許可はいただきましたが、私としてはメディア出演に抵抗はあります。

 ですからこの戦い以降で取材をしたいのなら相山様を挟むこと。天坂様にはそうお伝えください」


 俺を立ててくれたということだろう。


 だけど俺は面倒くさがりだ。出来ることなら勝手にしてほしい。と言って善意を無下にするわけにはいかないので、ここは了承しておこう。

 本当に面倒になったらリアナに丸投げしてやればいい。


「伝えておく」


 俺は天坂のもとに戻り、ミリアナさんからの話を伝えると天坂は「ありがとう。やっぱり相山君はさすがだね。少し待っていて。テレビクルー呼んでくる」と言って、どこかに走り出してしまった。


 スーパーマーケットでミリアナさんに声をかけただけの筈が、どんどん大事になっているような気がする。


 困ったなあ。

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