【2章 7話】 追跡
青ざめたリアナが頭を押さえてふらつき、背後のミリアナさんが肩を抱き寄せる。明らかに何かを知っている風である。
「ごめんなさい。大丈夫よ。それよりもミリアナの方でセンサーに反応はありませんでしたの?」
抱き寄せた手に、リアナは自分の手を重ねると背筋を伸ばした。
「申し訳ありません。まったく察知できませんでした。敵はこちらの不得手を熟知していると思われます」
「それではやはり……」
リアナは腕を組んで口を強く結ぶ。
「皆さま、聞いていただいてもよろしくて?」
「リアナ、どうしたんだ?」
ここにいる全員の視線が集まる。
「キャレットさん。もし再び攻撃があったら皆さまを守っていただけるかしらら。本来は攻撃を知らせるセンサーを常時起動しているのですが、敵はどうやらわたくしのセンサーを知り尽くしているようなのよ」
「愚問! 我が魂魄に見捨てるという文字は無いのだ。はっはは」
キャレットは愉快そうに傘をクルクルと回している。
リアナはそれを見ると、道の先に向けて大声で叫ぶ。
「この攻撃がダリアのものであるのなら、宣戦布告を受けて立つ。私はあなた方の凶弾に倒れるような女ではありません」
反応は一向に返ってこない。リアナが俺に視線を向ける。
「この超硬合金はわたくしの国で作られた物です。そしてこの超硬合金を打ち出す兵器を作っているのもわたくしの国です。
どの兵器を使ったのかは不明ですが。これを知っているのはわたくしの国でも、一部のものだけですので、データベースには載っていませんわ」
ジアッゾは立ち上がり腕だけを裏返してメタリックな体表に変化させると、リアナを睨み付ける。
「説明してもらおう。お前の国の者が委員長を狙ったとでも言うのか」
「違いますわ。わたくしを狙ったのよ。他の人たちは巻き込まれただけです」
本当だとしたら、とんでもない。だが問題は王女であるリアナが狙われたという事実。
「リアナ、誰が狙ったのか、なぜ狙われたのかに心当たりはあるのか」
「両方にあります。まず誰が狙ったか。
おそらくはわたくしの愚弟のダリアか、ダリアと結託している組織が濃厚ね。あの超硬合金とそれを打ち出す装置を知っているのは限られる。
軍部の兵器開発班、王族のどなたか、政治を司る者の一部、この3者になります。
わたくしが国にいた時の活動は、方々への援助と根回しです。
何故か。
それはわたくしを裏切れなくする為です。情報や繋がりは時として金額では測れない大きなものとなる。
わたくしが死ねば困る方は大勢いる。そんな中でわたくしを殺すことによる益は何か。それは王位継承権が移ること。
それにより利益を得る者達です」
「リアナって女王になる可能性があるのか」
「ありますわ。
わたくしの国は世襲君主制の長子相続なの。王位は男女関係なく、現在の王様の子供で最も年齢の高い者が継承します。
もし子供がいない場合は、兄弟姉妹の中で次に継承権があった者が王位に就く。わたくしの継承権は第2位です。
とても悲しくて考えたくない話ですが、現在の第2位はとても重いのです」
「可能性がある、というだけではないんだな」
「ええ、そうですわ。
継承権第1位はわたくしの姉である、メリアお姉さまなのですが、姉の命は短い可能性があります。
恐らくは現王であるお父様が退位するまでに、姉はこの世を去るでしょう。仮に退位を早めて、姉が女王になったとしても、王の責務は姉の体には重すぎます。
公には話されませんが、わたくしが女王となる前提で動いているそうです。姉が生きているのに、失礼だと思いませんか」
リアナは夜空を見上げながら、とても悲しそうに深いため息をついた。
ちょっと待てよ。リアナはさらっと言ったけど、俺は今次期女王様がクラスメイトだということになる。恐れ多い事態だ。どうしよう。今まで無礼な物言いだった。
これからは対応を変えないと。
「リアナ様はどうするおつもりですか」
「わたくしと委員長はクラスメイトで友人ですわ。今まで通りで結構よ」
リアナが良いならそうしよう。
「では改めて。リアナはこの先どうするつもりだ」
「勿論、反撃しますわ。
皆様、本日は巻き込んでしまって申し訳ありませんでした。そして守っていただきありがとうございました。
後は内政問題です。こちらで片を付けます。ですので、少しの間はわたくしに近づかないでください」
そう言うリアナの肩は震えている。
敵が本当に弟のダリアなのか、どの程度の規模なのか、全て不明だ。リアナは見えない敵と戦わなければならない。ミリアナと2人で、故郷から遠く離れた地球で。
その恐怖は察するに余りある。
だからこそ俺が取るべき選択は明確である。俺はリアナの肩を掴む。
「それは出来ない。俺は委員長として、困っているクラスメイトを見捨てはしない。だからリアナが命を狙われているのだとしたら、俺は敵を倒す手助けをしたい」
俺はリアナから視線を外す。
「だから、フューレ、ジアッゾ、キャレット。俺を手伝ってくれ。クラスメイトを救いたい」
「僕が断ると思うかい?」とフューレが答え、「我が暗黒の力。不和をもたらす敵手を払う」とキャレットが大仰なポーズを決めて宣言する。
そして最後の1人。
「僕はリアナに、いやテェンツァルス王国に手を貸したくはないという気持ちはある。
だから僕は委員長に手を貸して、クラスメイトのリアナを助ける手伝いをする。それで満足してくれかな」
俺はリアナのテェンツァルス王国と、ジアッゾのラールクリスの間の確執を知らない。だけど凄惨であったことは想像に容易い。
その時を生きたジアッゾの立場や心情を曲げてまで、王女になるであろうリアナを助ける決断をした。これはきっと、大きな前進なのだ。きっと、意味がある。
その中心に立ってしまっている俺は、どうすればいいか。
「フューレ、敵がどこに逃げたとか分からないか?」
「この針だけではどうにもね。もう少し情報があればいいのだけど」
敵は遠くから武器を使い攻撃を仕掛けて来た。それしかわかっていない。次の手をどうするか悩んでいると、ジアッゾが携帯電話を差し出した。
その画面に映っているのは、一軒家の屋根の上で丸みを帯びた銃を携える男だ。
「これが襲撃者だ。撃った場所はあそこだ」
ジアッゾはそう言うと一点を指差した。
「データに頼り過ぎるから裏をかかれる。データが全てになるからだ。もっとも確実なのは、実際に見ることだよ。この画像は僕の視覚情報を拡大して切り取ったものだ」
リアナも携帯電話を覗き込む。
「これで確定ですわね。この兵器は雷定間耐式銃威断付二号ですわ。機密情報ですが、この兵器はライリーエネルギーを弾の先端に集めて、その中心に披裂を入れることでエネルギーが割れる力を射出に利用し、弾に引きずられたエネルギーの分解剥離力を動力として音速を超える速度で直進させさるものですわ」
えっと……、何を言っているのか全くわからないんだけど。
周りを見るとジアッゾもフューレも納得しているようで、「なるほど」と言って頷いている。
キャレットは話を聞かずに、傘で舞を披露している。
「えっと、それがわかると敵を追えるのか?」
フューレは「たぶん追えるよ」と言って、空中から手のひらサイズの犬とも猫とも取れる形状の装置を取り出した。
「これは【E-512468】。この装置を使えば、警察犬が匂いを追うように追跡が可能さ。
フューレさんの説明を聞く限り、兵器の使用者はライリーエネルギーを大量に浴びている可能性が高い。
ライリーエネルギーの匂いが染みついたあの家の屋上で、この装置に匂いを覚えさせて使用者を追跡する。
使用者が対策をしていないのなら、逃げた場所を探せるよ」
「リアナ、どうだ? 対策はされてそうか?」
「不可能よ」
これで次の手が決まった。




