【1章 14話】 警視庁公安部公安異界課!
俺たち5人は地面に大の字で倒れているケイの下に集まった。鞍馬は人間に戻っているし、阿字ヶ峰も水引もいつも通りの彼女たちだ。
フューレはフライパンのような見た目の装置を、ケイに向けている。
「どうやら気絶しているだけのようだよ。頬は少し腫れるけど、ゴールデンウィーク明けには完治していると思うよ」
フューレはケイの診断をしていたようだ。戦い以外では頼もしい。
「それはよかった」
「あくまでも思うとしか言えないけどね。ケイさんの体は人間のそれではないからね」
「どういうことだ?」
「ケイさんが眠っている時に言うのも気が引けるのだけど、ケイさんは僕と似た境遇のようだよ。つまりは体をいじられているみたい。
どのような処置を受けているのか、この道具だけではわからないけどね」
フューレはフライパンのような装置を、ケイを仰ぐように動かしている。
「その辺りはケイが教えくれるのを待つさ。それよりもだ」
周囲を見渡す。一帯は草木が枯れ果て、無残な状況になっている。
修復できるのだろうか。
散らかした物は自分で片付けてほしいのだけど、それはケイが目を覚ましてから相談すればいい。
耳を澄ませると葉擦れの音と、ケイの寝息だけが聞こえて来る。誰かが近づいてくるような音は聞こえてこない。
「水引、俺たちを見ていなくても、意識をこちらに向けているとか、わかったりしないか」
「可能よ。意識というよりも思考の方向を視るのだけどね」
言っている意味がわからないけど、可能ならばお願いしたい。最後の敵を炙り出すために。
「じゃあ頼む」
「わかったわ。視てみるわ」
水引が瞼を開ける。
水引は先程と同じように後光を放つ。とてもありがたいものを見ていると思ってしまう状態になった。
「視えたわ。私たちに思考を伸ばしているのは15人よ。変装だと思うのだけど、一般人と溶け込んでいるわよ。
その内の2人は遠くのビルからこちらを覗いているわね。手には恐らくカメラと武器を持っているわ」
15人! 思っていたよりもずっと多い。
「覗きを働くなんて、不埒なことをするわ。阿字ヶ峰さん少しいいかしら。霊障を起こして映像を消しておいてくれない」
そう言うと水引は阿字ヶ峰の肩に手を置いた。
「あそこじゃな。いいじゃろう」
阿字ヶ峰が地面に手を突こうとするので、俺はその腕を掴んで止めた。
「少し待ってくれないか。その前に話し合いをしようと思う」
「委員長がそう言うのなら、ワシは構わん」
「私も委員長に従うわ」
2人の了承を得られたので、携帯電話を取り出した。
「水引、俺たちに思考を向けている人の中で、電話を取る人がいるか見ておいてくれ」
「わかったわ」
携帯電話の電話帳を開くと登録している連絡先の一覧が表示された。その中の1人に電話を掛ける。
数回のコールの後に優しそうな声が耳に届く。
「こちら榊です。何かあったかな? 相山君」
電話の先にいるのはゴールデンウィーク中にお世話になった【警察官】の【榊】さんだ。水引がすっと腕を上げてある方向を指差して、瞼を閉じた。
「近くにいるわ。こちらへの思考の強度が強くなったから間違いない」
俺は頷いてから口を開ける。
「こんにちは。こちらに来て話でもしませんか。15人、いや14人の方々と一緒に」
スピーカーの先が無音になる。
しばらく待っていると木の陰から榊さんが姿を現すと、それに続いて様々な格好をした男女が姿を見せた。榊さんを合わせると全員で13人だ。
遠くから見ている2人は、流石にいないか。
榊さん以外の男女全員が銃を所持していて、その銃口を俺たちに向けている。
銃身の長いそれは、町のお巡りさんが持っているような物ではないとわかる。
「やあ、ゴールデンウィークぶりだね。元気にしていたかい」
「おかげさまで。是非とも榊さんが何者であるか教えてくれませんか?」
「その前に僕をいつから疑っていたんだい。君の行動を見るに、今という訳ではないのだろ」
「榊さんが普通の警察官ではないと思ったのは、ゴールデンウィークの時です。一番大きい理由は、見ず知らずの俺に対してあまりにも協力的過ぎた」
「君の言う通りだ。では僕たちの正体は何だと思う? 何故そう思ったのか聞かせてくれると嬉しいな」
まるで取り調べを受けている気分になる。それは榊さんの表情は笑っているけど、目の奥が笑っていないからだろう。榊さんの貫くほどの眼力を隠しきれていない。
今すぐ帰りたい。
だけど向き合わなくちゃならない。
「順を追って説明します。ゴールデンウィークの時、俺が望む情報を榊さんはすぐに教えてくれました。逆を言うと情報を既に榊さんは持っていたことになります。
俺は榊さん達を無能の集団だとは到底思えません。だから榊さんは事件をすぐに解決出来た筈です。
それなのに仮設ハウスを設置した。この町の警察署を頼らずに。
では何故解決出来るのに、長引かせていたのか。それは他に調査したい何かがある。
それに俺は心当たりがあります。謎の集団である1年6組の調査です。榊さんたちは俺達を調べている。
どうですか?」
榊は眉根を寄せて俺を見る。めちゃくちゃ怖い。
「相山君の推理は概ね正しい。では改めて自己紹介をさせてもらうよ。僕は【警視庁公安部公安異界課】の課長をしている【榊純一】、階級は警視だ」
思っているよりも大物だった。高校に入学しただけで公安にマークされるとか、勘弁してもらいたい。
俺はこの国に住む者として、安寧に生きたい。だからここは平和に解決しなければならない。
「公安異界課とは聞き覚えはありません。何をする部署なのですか」
「公安部の役割は国家の敵を取り締まるものというのは知っているかな」
「はい。ドラマで聞いたことがあります」
「その中でも一般市民に知られている範囲では、国内の敵を担当する公安課と、国外の敵を担当する外事課。
我々の公安異界課は秘匿されている組織で、国内の異界の者を取り締まる役割を担っている。
だからそちらのケイさんを引き渡してくれないかな。彼女はこちらの管轄だ。
それと君達には出頭をしてもらう。君達1年6組の生徒は怪しすぎる。君を除いてね」
どうやら俺には何も無いようだ。
校長にも同じことを言われたけど、少しだけ期待は持ち続けていた。もしかすると、俺にも何か特殊な血筋とか、隠された力があるのではないのか。
どちらの組織にもそう言われたら認めざるを得ない。
残念でならない。家に帰ってすぐに寝たい。
打ちひしがれている場合じゃない。榊さんの立場は理解できた。だからこそケイは渡せない。何故ならわかっていないからだ。
「もし引き渡してくれないのなら、武力行使に及ぶしかなくなるんだけど」
「ほほう、わしらを相手にして無事に済むと思っておるのか?」
阿字ヶ峰の体から黒い靄が立ち上がる。
「僕達が今日という日の為に、尻尾を殆ど見せない君達を追い詰める為に、どれ程の準備をしてきたか。
僕達には時間が無い。君達という証拠を上層部に見せなければならない」
榊さんが腕を上げると地面が輝きだした。その輝きが模様であるとわかると同時に、俺の体に異変が出る。
めまいを起こした時のように風景が回る。気持ち悪い。
隣の阿字ヶ峰と鞍馬は膝をつき、フューレも気分が悪そうだ。
榊さんは勝ち誇ったように口角を上げた。
「魔法陣と呼ばれるもので、僕が解除するまでその中から出ることは不可能な代物だ。妖怪や幽霊にはさぞ辛いだろう。人間でもずっとその中にいると、どうなるかはわからないよ」
そんな中で平然と立っている水引は、地面の模様を眺めて呟いた。
「どこに行ったのかと思っていたのだけど、警察の手伝いをしていたのね。成長したようだけど、私と戦うには未熟よ」
水引が屈むとその輝く魔法陣に手を触れる。そして瞼を開き、魔法陣よりも強い輝きを発した次の瞬間、体の気怠さが抜けていき、逆に爽快な気分になった。
体が軽い。疲れが吹き飛んだ。
阿字ヶ峰や鞍馬も立ち上がる。
「なに! 何をした」
「疑問よりもまず、彼女を病院へ運ぶことをお勧めするわよ。呪詛返しをしたわ。死なない程度にね。だから今頃苦しんでいると思うわよ。今なら回復まで1週間で済むわよ」
榊さんのしわが深くなる。
「これで形勢逆転じゃな。そちらが先に手を出したんじゃ。どうなるかわかっているじゃろうな」
「各員、構え」
榊さんの叫びと共に場の空気が一気に張り詰める。
マズイ! 止めないと。
「落ち着いてください。俺は話をする為に榊さんを呼びました。阿字ヶ峰も俺に任せてくれ」
「仕方が無いのう。委員長に任せる」
「榊さんもいいですか。まずは銃を降ろしてください。落ち着きましょう」
「いいでしょう。全員、一時待機」
榊さんがそう言うと、仲間らしき12人の全員が銃を降ろした。
「話を聞く限り、榊さん達に必要なのは手柄です。それが無いと解体される恐れがある。
だけど阿字ヶ峰や鞍馬のような存在がいると分かったら、解体するわけにはいかない。その正義感で行動を起こしている。その認識で良いですか?」
「おおよそ正しい」
「榊さんは俺たち1年6組に関してどれ程の情報を持っていますか?」
無言である。つまり何もわかっていないのだろう。
「1年6組の生徒は阿字ヶ峰とか鞍馬みたいな、この国由来の存在だけではありません。
本当の意味で違う世界から来た人とか、地底人とか宇宙人とか、挙句の果てに概念のような人までいる。
この国という括りにいるうちは、1年6組を調べても何もわかりません。そんな存在を嗅ぎまわって、榊さん達が無事でいられる保証はありません。
それだけ厄介な人が、あのクラスには多い。
俺はこの国に住んでいます。だから国家を守る榊さん達と、俺の1年6組が敵対してほしくはない」
榊さんは眉根を寄せる。
「だから俺が榊さん達の情報源になります。話せない部分はありますが、ある程度の協力関係を築きましょう。そのほうがお互いに建設的です」
「つまりは相山君をスパイとして使えと言う事かな」
「そんなに大それた話ではありませんが、クラスメイトに話を聞きたいのなら俺にまず相談してください。可能な範囲で協力します。皆もそれで良いか?」
真っ先に答えたのは鞍馬である。
「僕は構いませんよ。国家組織の後ろ盾を得たら、色々とやりやすいですからね」
次に答えたのは水引だ。
「そうね。まずは彼女に会わせてもらえるかしら」
そしてフューレも「僕が持っている技術の話は出来ないけど、歴史なら」と、阿字ヶ峰も「仕方が無いのう」と答えた。
「どうですか?」
榊さんは頭を掻くと頷いた。
「予想外の結末になった。僕達にとっては良い落としどころではある。その提案に乗らせてもらうよ。それでは日を改めた方が?」
「そうしてくれると助かります。もう疲れました。最後に遠くで撮っている映像は消させてもらいますね」
「わかった。仕方が無い。それよりも今日は良い日になった。相山君のおかげでね。ありがとう。それでは失礼する」
榊さんが一礼すると背中を見せて歩いて行った。他の12人も榊さんに続いて姿を消した。
なんだか乗せられた気もするけど、戦闘は回避できた。
残りの問題は……。




