【1章 8話】 怪しい洋館!
コントローラーを握るフューレが、俺たちツチノコの調査班を先導している。
そんなフューレの横には阿字ヶ峰が並ぶ。
「フューレよ。その道具を使えば、わざわざツチノコの痕跡を辿らずとも、お主たちが先日残したであろう足跡を辿ればいいのではないか?」
「それは出来ないかな。この道具は跡が残っていなければ追えないからね」
「そうなのか。お主の道具も万能というわけではない、ということじゃな」
「道具を作った博士達は、万能を作りたかったわけではないからね」
「では何を目指していたのじゃ?」
「言い争いに勝ちたかったようなんだ。博士達はお酒を飲むと言い争いを始めるのさ。
自分ならこんな面白い物を作れる。ならば作って見ろ、とね。面白い物を作れる証明には、万能という言葉は入っていないらしいんだ」
「フヒヒ、中々面白い奴らじゃ。
その博士とやらの思い付きが発明の源ならば、お主が持っている道具は相当な数なのだろうな。全てとは言わん。少しだけ発明品の話を聞かせてくれんか。興味が湧いて来た」
「いいよ。僕が知っているのは全体の1パーセント以下だけどね。数が多いうえに整理されていない。完成すると興味を無くして、あの空間に放り込むんだ」
といった2人の話を盗み聞きしている俺の横には鞍馬がいる。
そして水引だが、不思議なことに彼女からは視線を感じ取ることが出来るので、後ろにいるのだろうと思える。
そもそも視線を感じるってなんだよ。
どうして水引は目を閉じているのに、人や地形を把握出来るんだ?
だがよくよく考えると、俺の隣には妖怪がいて、前には幽霊までいる。そう思うと水引が普通に思えて来る。そう、普通だ。
考えれば考えるほど普通という言葉の概念が、砂時計のように綺麗にさらさらと崩れていく。
とはいえ、弱気になって悩んでいる暇などない。俺は前に進み続けなければならないから、横を歩く鞍馬を見る。
「俺たちはツチノコにかなり近づいているんじゃないか」
「そのようですね」
「そろそろツチノコについて教えてもらってもいいかな」
「いいですよ。とは言うものの、僕達が追っているツチノコの出自が分からない以上、僕の知識では不足している可能性があります。それでも問題はありませんか?」
「勿論だ」
ツチノコの知識は図鑑に記載されている程度だ。だから少しでも敵になるかもしれない生物のことを知らなくちゃあならない。
それにツチノコについての純粋な興味もある。
歴史の生き証人から話を聞けるというのは幸福であり、これほど楽しいものは無い。
「ツチノコの存在は多岐にわたります。説明すると長くなりますから、簡単に4種類で別けます。
まず1つ目は野生生物としてのツチノコ。委員長がUAMと呼んでいるものです。
2つ目は妖怪。ツチノコであり野槌とも呼ばれている、ぼくたちの元仲間です。少し人間にいたずらをして驚かせる程度だから、心配する必要はありません。
3つ目は怨霊としてのツチノコ。生物の魂は頭に宿ります。そして蛇は恨みの象徴ですから、怨霊は頭だけの蛇としてこの世を彷徨うことがあります。まるでツチノコのような姿で」
鞍馬は4種類目の説明を前にして腕を組んで黙ってしまう。少し経ってからどうしたのかと聞こうと口を開けると、鞍馬は頷いてから口を開いた。
「4つ目は厄介です。もしその場合なら、僕達だけでは難しいかもしれない。4つ目は神の力を持った存在です」
「か、神!」
俺たちはUMAを追っていた筈だ。神なんて予想を遥かに超えた存在が登場するなんて、思ってもいなかった。
もし相手が神であるのなら逃げる以外の道はない。捕まえるなんて罰当たりも甚だしい。
「心配しなくても大丈夫です。神の力を持っているだけで、神ではない。
信仰の薄れた神が零落して妖怪となる場合があるのです。
例えば何も力を持たない土地に、とある神を祀った神社を建てるとします。その神社に沢山の人が参拝に来る。その土地は次第に祀った神に近い力を持つ。
だけど人足が遠のいて、参拝者がいなくなり、誰も管理する人がいなくなって朽ちていくと、力を持った土地からその力が抜けていく。力は妖怪のような存在となるのです」
「神の力を持った妖怪の存在はわかったけど、どうしてツチノコの姿になるんだ」
「名は体を表す。ツチノコの別名である野槌と同じ名前を持つ神がいらっしゃる。大地にまつわる野の神、カヤノヒメノカミ。別名をノヅチノカミ。名前が結びついて姿が定着してしまったという訳です」
「神の名を冠した妖怪という訳か。それにしても鞍馬の話を聞いていると、神や妖怪が本当にいるんだって思えるな。見たことが無いから、誰かの空想だと思っていた」
「見えているものだけが全てじゃない、ということですよ」
「そうだな。俺はみんなと同じクラスになって、視野の狭さを自覚したよ。これからもよろしく頼む」
「承知しました」
鞍馬はそう言うと小さな笑みを見せた。もしかすると鞍馬が笑った姿はこれが初めてかもしれ合い。たとえ小さなものであっても、その笑みを見ると俺は少しだけ嬉しくなった。
「何度考えても、鞍馬と阿字ヶ峰に会った記憶は思い出せない」
「空に浮かぶ雲を捕まえて、部屋の中で浮かべようとすることよりも難しいでしょうね。
僕の口からは、答えは言えません。でも少しだけ教えますと、僕や阿字ヶ峰は過去に委員長に会っています。確実に」
どれだけ考えても俺は2人の顔に覚えがないどころか、幽霊や妖怪に会った記憶すらない。
子供は見えないものが見えると言うが、もしかすると幼児の頃に会っているのかもしれない。そうであるのならばお手上げである。幼児の頃の記憶など一切無い。
「すまないな。まったく覚えていない」
「謝ることではありません。当たり前なのですから」
鞍馬はそう言うと前を見る。
「おっと、どうやら何かを見つけたようですよ」
鞍馬が指を差した先には木々が生い茂っているので見づらいが、ポツンと佇む一軒の建物がある。公園を出てしまったのかと携帯電話の地図アプリで自分の居場所を確認しても、やはり公園内の林の中である。
位置的には公園の端なので、公園にはみ出した民家と思えなくも無いけど、問題は他にある。
「おかしいな。地図を見てもあそこに家があるなんて書かれていないぞ」
俺は更に地図アプリを衛星写真に切り替えるが、あの建物がある場所には緑葉しか映されていない。
「鞍馬、頼みがあるんだがいいか?」
「いいでしょう」
「鞍馬の仲間の妖怪で、俺たちの周囲を見張ってくれないか」
「その程度ならばお安い御用です。怪しい者は即座に抑え込みます」
「いや、俺たちが本当にピンチになったらそうしてくれ。手の内を見せるわけにはいかないだろ。それに敵が誰なのかもわからないんだ。慎重にいこう」
木々の間を縫って、林の中にひっそりとそびえる建物の前まで行き見上げる。
その建物は緑を基調とした2階建ての見事な洋館だ。観光地と言われてもなんら不思議ではない迫力がある。
その洋館はこまめに手入れをされているようで、どの窓を見ても汚れは無く、新品のようにピカピカと光っている。
そして家を囲むようにして置かれた植木鉢には、艶やかな花が咲いている。土を見ると雑草と花が同居している様子は無いので、大切に育てられているのだろう。
つまりこの洋館は現在進行形で使用されている。
それだけならば問題ではない。問題は洋館に繋がる道が無いことだ。




