37.生徒会執行部の女子会【後編】
(愛の告白、愛の告白、愛の告白、愛の告白、愛の告白、愛の告白、愛の告白!!!!)
――私が優斗君に愛の告白をする!?
まったく予想にもしていなかった事態に優愛の時間が止まり、思考が一瞬停止する。同じく固まっていた計子が赤い眼鏡を掛け直しながら言う。
「そ、それは良くないと思います。そんなのふざけてやったら優斗さんにも失礼ですし」
「そうよ、その通りだよ。こういうのは真面目にやらなきゃ……」
隣に座っていた琴音もそれに同調して言う。ふたりとも口に出して言わないが、最も強力なライバルである優愛が、ゲームとは言え先に『告白』することは納得できない。
ルリがピンク色の髪をくるくる指で回しながら言う。
「大丈夫だよ~、ただのゲームだし。優斗だって分かってるはずだから~。それとも優愛は他に好きな人でもいるの~?? ね、ね??」
自分の名前を出されて我に返る優愛。驚いて答える。
「そ、そんなの、い、いないに決まってるでしょ!!」
「じゃあ、優斗に『愛の告白』だね! 頑張れ~!!」
計子と琴音が身を乗り出して言う。
「で、でもそう言うのはちゃんと気持ちを込めて、心から誰かを……」
「じゃあ、ふたりのどちらかが『気持ちを込めて』優斗に告白しちゃう~??」
ルリの鮮やかな切り返し。優愛の告白を防ぎたかった計子達が思わず口籠り思う。
(こんなゲームみたいな感覚でそんなことできない……)
黙り込むふたりを見てルリが優愛の腕を掴んで立ち上がる。
「さ~、じゃあ、行ってこようか。優愛~!!」
「きゃ、ちょ、ちょっとやめてよ!」
そう言いながらも優愛が無理やり廊下に出される。
(ど、どうしよう、私……)
静かな廊下。先には優斗の部屋のドアが見える。
(でもあいつもこれがゲームだって分かっているはずだし、やっぱり生徒会長の私がちゃんとやらなきゃいけないわ……)
妙なところで真面目な優愛。疲れと薬の副作用で体調はあまり良くないが、決まった以上責務は果たさなきゃいけない。
(なんでこんなにどきどきしているのよ……)
ドアの前に立つ優愛が爆発しそうな心臓の鼓動に驚く。
コンコン……
「はーい」
中から優斗の元気な声が響く。
「あ、あのさ、私なんだけど……」
開けられるドア。Tシャツと短パン姿の優斗が現れ言う。
「あ、今度は優愛か。またゲームか? 入んなよ」
「え、ええ。お邪魔するわ……」
ルリの別荘とは言え、男性の部屋に入るのは初めての優愛。緊張しながら無意識にベッドに腰かける。
お互いTシャツに短パンと言う肌の露出が多い格好。特に優愛の短パンは丈が短く、彼女の粉雪のような白い太腿が大胆に露出している。シャンプーの香りと先程までの枕投げでかいた汗の匂いが混じり合い、まるで媚薬のような香りとなって優斗の鼻孔をくすぐる。
(男嫌いのくせに、意外と無防備なんだよな……)
色っぽい太腿に黒く艶のある長髪。自然とベッドの上に座る優愛は、そのまま押し倒されるのを待っているかのようにすら見える。
「あ、あのさ……」
そんな優愛が頬を赤くしながら言う。
「うん……」
優斗が小さく答える。
妙な空気、雰囲気。明らかに先程の計子の時とは異なり、何か意識している。
「わ、私のこと笑わない?」
「え? ああ、笑わない」
「変なこと言うんだけど、笑わない?」
「笑わない」
優愛はそう尋ねながらも全身がまるで熱湯にでも入れられたかのように熱くなる。頭がぼうっとしながら尋ねる。
「絶対笑うでしょ……?」
「だから笑わないって」
真剣な眼差しで自分を見つめる優愛がどきどきしながら尋ねる。
「きっと笑うもん……」
「笑わないって言ってるだろ? 今まで俺が優愛のことを笑ったことがあるか?」
「でも笑うから……」
「笑わないって」
本気の顔。それは十分優愛にも伝わった。だけどやっぱり恥ずかしい。
「本当に笑わない?」
「笑わないよ」
優愛が顔を真っ赤にして少し下を向いて言う。
「じゃあ、言うね……」
「うん」
「私は、優斗のことが……」
それを聞く優斗の心臓もばくばくと大きく鼓動する。
「好き」
一瞬驚いたような顔をした優斗がすぐに笑顔になって答える。
「ありがとう」
自分でも聞こえるほど大きくどくどくと鳴る心臓を抑えながら優愛が言う。
「あ、あの、これはルリがやってるゲームで、それで私がそれを引いて……」
「うん、分かってる。でも嬉しいよ」
(ひぇ!?)
全く想像していなかった展開。
言ったら笑われるか、もしくはまたいつも通りに言い合いになって終わるか。
――嬉しい
まったく思ってもいなかった言葉。
優愛の頭がぼうっとし、急に意識が遠くなっていく。
「え? おい、優愛!?」
座っていたベッドにそのまま横に倒れる優愛。疲れと緊張、薬の副作用もあった上のこの『告白劇』。やり終えた彼女は眠るようにベッドの上に横になってしまった。
驚いた優斗が立ち上がり優愛の元へ行く。
「おい、どうした!? 大丈夫か!!??」
ベッドに横になりながら優愛が小さく答える。
「うん、ちょっと疲れちゃった。ごめんね、このまま少し休ませて……、すぅ……」
そう言い残し目を閉じる優愛。既にすうすうと寝息を立てている。眠ってしまった優愛の顔を見て優斗が思う。
(寝顔可愛いなあ……、起きてツンツンしてる時とはえらい違いだ)
優斗は悪いと思いながらも、座ったまま上半身だけベッドに横たわる優愛を見て彼女の足に手をかける。
(俺のベッド、って言ってもまだ全然寝ていないから、優愛にここで寝て貰おう……)
そう言って彼女の太ももに腕を回しベッドに横にする。その時だった。
「優愛ぁ~、遅いじゃん!! 何やって……」
優愛の帰りが遅く心配になったルリ達がドアを開け、優斗の部屋にやって来た。
「え?」
「えっ?」
思わず見つめ合うルリ達と優斗。それは彼が眠って意識のない優愛の太ももを抱き、ベッドに連れ込もうとしている姿だった。優斗が慌てて言う。
「いや、違う!! これは優愛がだな……」
「ゆ、優斗さん、何してるんですか!!」
「不潔です!! こんなの計算できないです!!!」
「あら~、優斗もやるねえ~」
顔を真っ青にして叫ぶ計子と琴音とは対照的に、ルリひとりが何か宝物でも見つけたかのように嬉しそうに言う。優斗が泣きそうな顔で弁解する。
「いや、違うんだって!! 優愛が気分が悪くなって、眠くなって、それで……」
「体調の悪い女の子に何をしようとしたのですか?」
「そんなことまで計算に入れて犯行に及ぼうとしたのですか?」
「わお! 寝込みを襲うなんて、すごいじゃん~!!」
何を言おうが全く相手にされない優斗。
結局眠ってしまった優愛はそのまま優斗の部屋で寝かせ、優斗自身は身の潔白を証明するのに更に1時間以上女子部屋に拉致されて尋問を受けた。
(ん、朝か……、体痛てぇ……)
昨夜、ルリ達からの尋問を終え自分の部屋を奪われた優斗は、結局一階にあるリビングのソファーで寝ることとなった。ベッドと違い狭いソファーで身を丸めて寝た優斗が目を覚まし体を伸ばす。
「ふわ~ぁ、なんかあんまり寝れなかったな……」
両手を上げ窓の外を見るとすでに日は上り、今日も快晴。眠気とは違い清々しい朝だ。立ち上がって何か飲もうと歩き出した優斗の耳に、そんな清々しい朝とは全く異なった甲高い声が響いた。
「あー、こんな所にいた!!!」
それは優斗同様目を覚まし起きてきた優愛。少し乱れた髪のまま勢いよく走って来て言う。
「あ、あなた、昨日の夜私に何をしたの!!」
「へ?」
起きて間もない優斗。いきなり問い詰められ戸惑う。
「ね、寝ている私にエ、エッチなことしたんでしょ!!!」
「はあ???」
あり得ない疑惑を持たれさすがに優斗も言い返す。
「いや、違うって!! お前がうちに来て、こ、告白してそれから寝ちゃったんだろ?? だから俺は仕方なしにここで寝たんじゃないか!」
「うそ!! そんなはずないわ!!」
言葉では優斗の所業を認めない優愛。だが心の奥では昨晩の優斗を思い出し、逆に『何もされなかった』と言う不満が彼女を苛立たせていた。
「優愛ちゃん、違うよ!!」
そこへ騒ぎを聞きつけてやって来た琴音が真面目な顔をして言う。起きて来て顔を洗ったばかりなのか、茶色のボブカットが少し濡れている。
「違う? 何が??」
聞き返す優愛に琴音が答える。
「優斗さん、本当に優愛ちゃんに指一本触れてないから。私達、優愛ちゃんが寝ちゃってからしっかり聞いたの」
「指一本……」
指一本触れないほど私は魅力がないのか、と眩暈がする優愛。優斗が言う。
「あ、いや、指一本は触れたぞ。って言うか、太もも持ってベッドに寝かせた」
「はああ????」
それは怒りと言うか、半分怒ったような嬉しいような顔をして優愛が大声で言う。
「変態っ!!!」
そう言ってプイと顔を背ける優愛。だけどそれは嬉しそうな顔を優斗に見られたくない仕草であった。
「大変ーーーーっ、大変なのぉ!!!!」
そんな優斗達の耳に、甲高く叫ぶルリの声が響く。優愛が振り返って走って来たルリに尋ねる。
「な、なに?? どうしたのよ!」
ルリが顔を赤くして言う。
「あ、あのね、昨日の夜に花火やろうと思って買って置いたんだけど、やるの忘れちゃったの!!!」
「花火?」
ルリの後ろについて来た計子が手にしたビニール袋の中にある花火を見せて言う。
「これ。忘れちゃったんですって」
「あらー」
覗き込んだ琴音が残念そうに言う。
「女子トーク盛り上がっちゃって、すっかり忘れちゃったのよ~!!」
ルリが泣きそうな声で言う。
「また今度やればいいじゃない」
優愛がそう言うとルリが首を振って言い返す。
「ダメ!! ここでやるの!! そうだ、ねえ、もう一泊しない???」
「はあ?」
驚く一同。ルリが嬉しそうに言う。
「明日もみんな休みでしょ~?? だったらもう一泊して今日の夜改めて花火を……」
「ごめん。俺は帰らなきゃいけないんだ」
そんなルリの声を遮るように優斗が言う。琴音が真面目な顔をした優斗を見て言う。
「優斗さん、お忙しいんですか……?」
「うん……、どうしても行かなきゃいけない所があって……」
そう言いながら優斗は無意識に優愛の顔を一瞬見つめる。優愛が少しむっとして言う。
「なに? どこ行くのよ?? 何の用事なの??」
「いやー、そんな言うほどのことじゃ……」
「何よ、言えないって言うの?? 備品のくせに!!」
それを聞いた計子が大きな声で言う。
「あー、神崎さん、また優斗さんのこと備品って言った!! 謝罪しなさいよ!!」
「び、備品なの!! この男は!!!」
両者一歩も引かない中、優斗が言う。
「あのさ、花火なら今からやろうよ」
「え? 今から??」
驚く一同。優斗が言う。
「そう、今から。花火は夜がもちろん綺麗だけど、朝なんて誰もやったことないだろ? 面白いんじゃない?」
「ふーん、それもいいかも」
ルリも頷いて言う。琴音も笑顔で同調する。
「そうですね! 朝の花火なんてお洒落かも!! やりましょう!!」
「そうね、まあいいか」
朝の花火に納得する一同。ただ計子だけは優斗を後ろから見ながら思った。
(あそこに行くんですよね、優斗さん……)
優斗の秘密を少しだけ知る計子が、笑顔で皆と会話する優斗を見つめた。




