世界
「ねえ、まだ追ってきてるの?そろそろ体力の方がきついんだけど」
「もう少しで洞窟が見えてくるはず、だからそこまで耐えてくれ!」
二人は深い森の中を颯爽と駆けていく。二体の黒い影に追われながら。
息を乱し、体力を削り取られる。その繰り返しが今の状況だ。
「あの二匹に何で見つかったの?ちょっと理解できないんだけど」
「多分、俺たちの匂いだ。あいつらは嗅覚の良さが売りだろ?」
「そうね。でも、それにしては鼻が良すぎない?」
「あぁ、そこは俺も同感だ。なぜ、気付かれたのかが全く分からない」
二人のペースは少しづつ落ちていく。さらに先ほどよりも息切れする声も大きくなっている。
このままでは本当に食われてしまう。
「くそっ!このままでは俺たちの終わりだ!」
「もう何か手段はないの?というか、洞窟見えないんだけど!」
「いや、もうそろそろ見えるはず……見えたっ‼……え、嘘だろ‼」
見えた洞窟の前には一体の狼が立ちふさがっていた。追いかけられている狼の二倍ほどの大きさだ。彼らにはとても立ち向かうことはできない、それどころか立ち向かう武器も勇気もない。このままでは食い殺されるだけだ。
二人が諦めかけた瞬間、奇跡は起きた。
それは一発の銃声から始まった。
「君たち!大丈夫か!早く逃げろ!ここは引き受ける!」
巨体の狼は脳天、心臓を正確に撃ち抜かれその場に地響きを起こしながら横たわる。
その隙に二人組の男女は体力を振り絞り、この場から離脱した。
「すまない!後は頼む‼」
男は短いお礼だけを言い残していった。
「あぁ‼任せてくれ」
助けに来た少年は同じく短く返す。そして、追ってきた二体の獣たちと相対する。
「やあ、君たち。僕に殺される用意はできてるかい?容赦はしない、行くヨ」
「ガルルルル、ガルウッ‼」
二体が同時に飛び出してくる。しかし、少年はその動きに反応が遅れているわけでもなくその場に留まっている。そして、二体が飛んできているにも関わらず、そのまま前へと進みながら剣を抜く。
「もう少しだけ、楽しませてくれないと……困るよ?」
少年の周りに赤黒い血が飛び散るも、少年の体には一滴も付着していない。赤い液体と一緒に二体の狼の巨体が同時に落ちていく。血の湖の完成だ。
「おっと、派手にやっちゃった。でも、お肉だけ頂ければそれでいいし」
少年は毛で覆われた皮を巧みな剣捌きで剥いでいく。剥いだ先には……
「うわー凄いっ‼とっても上質な肉だな。これはごちそうになるな」
少年はお宝を見つけたような表情を見せ、次々に肉を取り出していく。お肉は毛皮で作った即席の鞄の中にびっしり詰められていく。満足そうな笑みをこぼし呟いた。
「そろそろ、次の町に行くしかないのかな……」
彼は旅人をしている。目的地はわからない、そんな旅人をしている。
元の町には戻れない、行きたい街も選べない。それがこの世界のルールであり。
今から語られるのは現実世界と完全に切り離された異空間でのゲーム内での話。
双六の盤上から現実世界への帰還を目指す、一人の少年の冒険記。




