「52話」
冷たい岩肌に水がはねる。
跳ねた水は粉々に崩れて、また岩に染み込んでいく。
さっきからこんな事の繰り返しだ。
「はぁ~……」
俺は、そんな単純な作業の繰り返しに溜息をついた。
此処は、第9教義:コキュートス。
俺が、運命を捻じ曲げる神の依り代として作り上げたホムンクルスの集大成だ。
ゆえに、このすり鉢上の空間の最奥区に存在する此処には立った一つの培養槽があるだけだった。
けしてスペースの問題ではない!
俺は、そんな水音の原因と成っている培養槽を見上げた。
その水槽の中には胎児のように膝を抱えて丸く成っている 肉塊がある。
「人型にはかわりないんだけどな~……」
俺は、そんな水槽に手をついてもの思いに更けた。
チラチラと光を反射して輝くソレは、余計に俺の気分を憂鬱にさせる。
「……なんでだろうなぁ~?」
俺は再び水槽に向かって語りかけた。
しかし、薄暗い空間の中では誰も俺の言葉には答えなかった。
いま、何がこれほどまでに俺の頭を悩ませるのか……
それはひとえに目の前の水槽に原因があった。
……なぜ……
「なんで魂が宿らないんだろうなー……」
そう、元々このホムンクルス達はグレイプの死する運命を覆す為に作られた人形達だ。
まあ、結局はそんなホムンクルスがグレイプの死の原因そのものになりかけたんだけどな……
だからこそ、俺は教訓を得た。
そして、ある結論に至った。
それは……運命を覆す為には魂が必要だと言う事だ。
どう言う事か?
俺も、詳しくはわからないがとにかく魂というのは運命にとって不可欠な物なのだ。
だから、修正力の俺には勿論、
魂のない人形にもそんな芸当は不可能と言える。
だからこそ……
俺は、ホムンクルスに魂を宿らせて。
まさしく人間にする。
☆☆☆
「それが、奴……ニア・アウグスティヌス・アントニウスの計画だ」
ドサリ。
ワタシは、手に持っていた荷物を落としてしまった。
信じられない……
ううん、信じたくないだけかもしれない。
既に、いまの私には荷物を持ち直す気力も無かった。
教室のまどからさす、どこまでもオレンジ色のその光を背にして、ネブカドネザルは言った。
「……だから、あいつとはもう会わない方がいい!母さん!」
ッーー!!
その言葉を聞いた瞬間、私の心は大きく揺らいだ。
……でも……
「ネブカドネザル……ワタシに、確認の時間を頂戴……」
ワタシは、ワタシを母と慕う男の子に返した。
その言葉のあと、ネブカドネザルは言葉を発さずに気まずい沈黙が降りる。
……ネブカドネザルは今、私の事をにらめつけている……
怖い……
でも、それ以上に……
「貴方が……大切だから……」
だから、ニアくんに聞いてみる。
☆☆☆
カテン国の魔の手は既に鼻先にまで迫っている。
隣国の王子、亡国の正血を刈り取るカマは既に目の前。




