奴隷脱却
翌朝。
リヒトが食堂へ向かうと、エレナはすでに席についていた。
「座りなさい」
「はい」
リヒトが向かいに座ると、エレナは飲み物を一口飲んでから口を開いた。
「昨日の話だけれど、あなたを解放することにしたわ」
「本当ですか?」
「ええ」
リヒトは一瞬、言葉を失った。
「条件は?」
「特にないわ。三年間の働きと、あなたが提供してくれた情報。それに魔法を教えるという取引も、十分に成立していると判断したの」
「購入にかかった費用については?」
「それも含めて私が判断することよ。あなたが気にする必要はないわ」
エレナは淡々と答えた。
「ただし、解放の手続きは必要になる。勝手に奴隷ではなくなったと言っても、周囲が認めるわけではないから」
「分かりました」
「手続きが終わるまでは、今まで通り行動しなさい」
「はい」
その後、二人は奴隷契約の解除に必要な手続きを進めた。
奴隷商人や関係する機関への確認を済ませ、正式に契約を解除する。
手続きが終わったとき、リヒトはようやく自分の身分が変わったことを実感した。
もう誰かの所有物ではない。
自分の意思で行動できる。
「これで終わりね」
エレナが書類を確認しながら言った。
「ありがとうございます、エレナさん」
「礼を言われるようなことではないわ。私が納得して決めたことよ」
「それでも、感謝しています」
エレナは返事をせず、書類をしまった。
その後、リヒトは冒険者ギルドへ向かった。
冒険者として活動するための手続きを確認し、冒険者証を受け取る。
この世界では、冒険者証を身分証明書として使うこともできる。
これからは、この証明書が自分の身分を示すものになる。
リヒトは冒険者証を手に取り、しばらく眺めていた。
「これからは自分の力で生きていくのね」
隣に立つエレナが言った。
「はい。まずは冒険者として実力をつけるつもりです」
「無茶はしないこと。実力に合わない依頼を受ければ、命を落とすわ」
「肝に銘じておきます」
「それならいいわ」
二人はギルドを出た。
外には、いつもと変わらない街の景色が広がっている。
けれど、リヒトにとっては違って見えた。
三年前、この世界で目を覚ましたとき、彼は何も持っていなかった。
家族も、故郷も、自由も失った。
それでも、ここまで生きてきた。
そして今、自分の人生を自分で決める権利を手に入れた。
「さて、これからどうするか……」
リヒトは空を見上げた。
まだ知らない土地がある。
まだ知らない人々がいる。
まだ知らない知識や技術もある。
やるべきことはいくらでもあった。
まずは冒険者として経験を積み、自分の力を高める。
その先に何が待っているのかは分からない。
だが、もう誰かに決められた道を歩く必要はない。
リヒトは一歩を踏み出した。
奴隷だった少年の、新しい人生が始まった。
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