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私はホラー映画が好きだ。
正確に言えば、ホラー映画に出てくる、あの「確かな怖さ」が好きだった。電気を消すと廊下の奥に影がある。扉の隙間に目がある。主人公が振り返ると、鏡の中に知らない誰かが増えている。
ホラー映画は、案外きちんとしている。
音楽が変われば、観客は何かが出てくるのだと分かる。たとえそれがどれほど怖くても、少なくとも怖さには順序がある。
だから、大学の掲示板でそのスレッドを見つけたとき、私はほとんど反射的に開いていた。
タイトルは、
学校怪談・事件まとめ
その下に、小さな文字でこう書かれていた。
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いかにもホラーらしかった。
コメントが禁止された古い投稿。灰色のアイコン。投稿日時は七年前で、最終更新は三年前のまま止まっている。
クリックしたとき、少しだけ胸が高鳴った。
ついに、自分の大学にまつわる怪談を読めるのだと思った。
北棟寮の泣き声。
旧図書館の足音。
人工池のほとりの白い影。
夜中に明かりのつく実験棟。
そういうものが映画の中で起これば、私はありきたりだと思う。けれど、毎日通っているキャンパスで起こったとなれば、話は別だった。
怖さは、近くにあるほど魅力的になる。
投稿の最初には、こうあった。
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事件一:北棟寮 101号室
噂:冬の夜、101号室の前で女子学生の泣き声を聞いた者がいる。
事実:某年十二月、同室内で女子学生が死亡。詳細な原因は非公開。のちに同室の学生は退去し、当該部屋は一年間空室となった。現在の居住者への夜間の訪問・迷惑行為を禁ずる。
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私は、そのあとに「それ以来」みたいな文章が続くのを待っていた。
続かなかった。
投稿はそのまま次の項目に移っていた。
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事件二:旧図書館三階
噂:閉館後、本棚の間からページをめくる音が聞こえる。
事実:某年、大学院受験を控えた学生が三階自習スペースで意識不明の状態で発見され、その後死亡が確認された。当該区域は一時閉鎖された。噂にある「ページをめくる音」は、夜間の空調音および古い書架の軋みによるものと考えられる。
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さらに次。
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事件三:人工池
噂:夜になると池のほとりに白い人影が立つ。
事実:かつて同池付近で学生が行方不明となり、その後死亡が確認された。毎年清明節の前後、遺族が池のそばに花を供えることがある。写真撮影、悪ふざけ、「身代わり」などの噂の捏造を禁ずる。
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私はゆっくりと姿勢を正した。
思っていたものと違っていた。
私は、もっとよく出来たキャンパス怪談を読むつもりだった。たとえば、学生が夜中に寮へ戻ると、自分のベッドに誰かが寝ている、とか。図書館の閉館後、ある一冊だけが何度戻しても床に落ちる、とか。人工池のそばで名前を呼ばれても、絶対に返事をしてはいけない、とか。
でも、その投稿にはそういうものがなかった。
場所。
噂。
事実。
注意。
どの項目も短すぎて、どこか拍子抜けした。
私はさらに下へスクロールした。
実験棟B館。
噂は、深夜に機械が勝手に起動するというもの。事実は、実験中の事故で学生が死亡し、その階がしばらく閉鎖されていたこと。
体育館裏口。
噂は、夜中に誰かが走る足音がするというもの。事実は、そこで学生が急病を起こし、発見が遅れたこと。
使われなくなった部室。
噂は、扉の内側から話し声が聞こえるというもの。事実は、ある学生が長期間そこに一人で通っており、その後退学、以降の消息が分からないということ。
そこまで読んだころには、最初の興奮は消えていた。
恐怖は来なかった。
代わりに、とてもゆっくりした居心地の悪さが来た。
これらの出来事は、もちろん怪談にできる。霧を少し足し、足音を少し足し、開かない扉を少し足せば、きっと「面白く」なる。
けれど投稿者は、わざわざそういうものをすべて削ぎ落としていた。
ひとつひとつの話を、どうにか引き戻そうとしているようだった。
幽霊も、刺激も、謎もない場所へ。
ただ「人が死んだ」という事実そのものへ。
私はページを閉じた。
また開いた。
それを何度か繰り返した。
自分が何を探しているのか、よく分からなかった。
たぶん、まだ納得していなかったのだと思う。タイトルに「学校怪談」とあるのに、これだけで終わるはずがない、と。
だから翌日の夜、私は投稿に載っていた場所を順番にまわるルートを作った。
自分の目で見に行くことにした。
最初の目的地は北棟寮だった。
101号室には、すでに別の学生が住んでいた。扉には新しい寮内ルールの紙と、色鮮やかなサークル勧誘のポスターが貼られている。廊下では誰かがドライヤーを使い、誰かがカップ麺を持って歩いていた。
私は扉の前に立ち、窓越しにその部屋を見ていた。
しばらくすると扉が開き、女子学生がゴミ袋を持って出てきた。彼女は私に気づいた。
「誰かお探しですか?」
私は口を開いた。
本当は、ここで泣き声がするのか見に来た、と言おうとしていた。
けれどその言葉は、喉元まで来たところで急に言えなくなった。
「建物を間違えました」
そう言った。
彼女はうなずき、階段を下りてゴミを捨てに行った。
まったく怖くなかった。
まったく怖くなかったからこそ、私はそこに立ったまま、どう立ち去ればいいのか分からなくなった。
次は旧図書館の三階だった。
投稿には、閉館後にページをめくる音がするとあった。けれど私が行った時間には、そこは受験勉強をする学生で埋まっていた。机の上には本、イヤホン、付箋が並び、腕に顔を埋めて眠っている人もいた。
古い書架は、確かに音を立てた。
空調も音を立てた。
でも幽霊はいなかった。
私は三階を一周し、最後に窓際の席まで来た。
投稿によれば、あの大学院受験生が最後に防犯カメラに映っていたのは、このあたりだったという。
今、その机にはミルクティーのカップが置かれていた。ラベルには「氷少なめ、甘さ三割」と書かれている。その横には、数式で埋まったノートがあった。
生活は、死を覆い隠すのがうまい。
説明もしない。
慰めもしない。
ただ新しい本と、新しい人をそこに置いていく。
三番目は人工池だった。
もっと雰囲気があると思っていた。
実際のところ、夜の人工池の一番大きな特徴は、怖いことではなく、蚊が多いことだった。
池の周りにはカップルが散歩し、ランニングする人がいて、男子学生二人が明日のグループ課題をどうごまかすか話していた。遠くの明かりが水面に映り、風で細かく砕けていた。
私は池に沿って歩き、一本の木の下で花束を見つけた。
花はもう乾きかけていて、包装紙は雨でしわになっていた。隣に小さな紙片が置かれていたが、文字は水を吸ってにじみ、いくつかしか読めなかった。
今年も会いに来たよ。
私はその場に立ったまま、長いあいだ動けなかった。
噂の中の「白い人影」は、もしかすると母親か父親か友人が、淡い色の上着を着て、池のそばにしゃがんで花を置いていただけなのかもしれない。
私たちは、そういう人たちを幽霊と呼びたがる。
幽霊なら、人を怖がらせることができる。夜の寮で話すネタにもなる。
でもそれが、ただ毎年花を置きに来る人だったと言われたら、私たちは笑えばいいのか黙ればいいのか分からなくなる。
最後は実験棟B館だった。
そこは夜になると、確かに音がした。
私は建物の下で十分ほどしゃがみ込み、低い機械音を聞いた。何かが呼吸しているような音だった。
すぐに分かった。
空調の室外機だった。
私は少しがっかりした。
がっかりしたその瞬間に、自分で自分が怖くなった。
なぜ私はがっかりしたのか。
幽霊がいなかったからか。
誰かに話せるような出来事が起こらなかったからか。
現実の事故が映画ほど刺激的ではなく、私の恐怖への期待を満たしてくれなかったからか。
実験棟の下に立ちながら、私は自分がかなり怪しい人間に思えてきた。
その夜、部屋に戻ってから、私はまた例の投稿を開いた。
やはりコメントはできなかった。
各項目の下には、何もなかった。
「本当?」もない。
「続き待ち」もない。
「今夜行ってみる」もない。
「写真ある?」もない。
「自分その寮なんだけど助けて」もない。
空白が多かった。
まるで誰かが、すべての声を押さえつけたみたいだった。
以前の私は、コメント禁止を神秘的な演出だと思っていた。
けれど今は、そうではないかもしれないと思う。
投稿者は、コメント欄がどんなものになるかを知っていたのかもしれない。
私はその投稿の古いスクリーンショットを探し始めた。
昔は今の形ではなかったらしい。誰かが旧版のページを保存していた。そこには、各事件の下にたくさんの返信がついていた。
ある人は言っていた。
「101ってマジ? 今夜凸るわ」
ある人は言っていた。
「池の先輩って可愛かったの?」
ある人は言っていた。
「これホラー映画より刺激あるじゃん」
ある人は言っていた。
「死に方くわしく」
私は数ページ読んで閉じた。
しばらくして、また開いた。
自分も彼らと大して変わらないと気づいたからだ。
ただ、私が来るのが遅かっただけだった。
ただ、投稿がもう閉じられていただけだった。
ただ、私はまだあの軽薄な言葉を書き込む前だっただけだ。
古いスクリーンショットの中で、投稿者の最後の返信はこうだった。
以後、返信禁止。
その後、投稿は整理し直されていた。
すべての怪異譚は「噂」に圧縮され、すべての事故は「事実」として書かれ、想像の余地になりそうな部分は、投稿者によってひとつずつ塞がれていた。
私は、自分がその投稿を開いたときの興奮を思い出した。
その興奮はとても純粋で、とても醜かった。
私はそのとき、恐怖を欲しがっていた。
見慣れた大学の中に、見慣れないものを見つけたかった。夜の池のそばを歩くときに思い出す噂が欲しかった。友人に、「知ってる? うちの大学、昔さ……」と話したかった。
数日後、私はまた人工池のそばを通った。
昼間に雨が降ったばかりで、池のほとりの土は少し柔らかかった。あの花束はもう片づけられていた。あるいは、風に飛ばされたのかもしれない。
その夜、私は自分で作った「キャンパス怪談ルート」を削除した。
ファイル名は、
学校ホラーマップ
削除する前、私はその名前を長いあいだ見つめていた。
私はようやく、少しだけ恐怖を見つけた。
それはパソコンの前に座っていた。
私はページを閉じた。
画面が暗くなると、そこに自分の顔が映った。
少しも怖そうには見えなかった。
そのことが、ひどく悲しかった。




