第三十四話「残っているもの」
第三十四話は、
“残っているもの”の話です。
消えたはずのもの。
終わったはずの時間。
それでも人は、
何かを残してしまいます。
空気が、重い。
しかし――
さっきまでとは違う。
「……薄いな」
嵐が低く言う。
周囲を見る。
絡人。
数体。
密度が足りない。
「……散ってる」
蒼真が呟く。
違和感。
揃っていない。
流れが、ばらけている。
「一気に来る感じじゃねぇな」
嵐が前に出る。
踏み込む。
拳。
叩く。
絡人が崩れる。
軽い。
「……弱ぇ」
もう一体。
同じ。
手応えがない。
「……おかしいな」
蒼真の目が細くなる。
“流れ”を見る。
いつもなら。
どこかで“揃う”。
だが――
今回は違う。
散ったまま。
まとまらない。
「……逃げてる?」
小さく呟く。
その瞬間。
視線が、落ちる。
足元。
何かが、光る。
「……あった」
嵐が言う。
核。
残っている。
「……なんだ、これ」
しゃがむ。
手を伸ばす。
止まる。
わずかに。
違和感。
「……触るな」
蒼真が言う。
だが――
嵐は、わずかに触れる。
瞬間。
空気が、揺れる。
音が、ズレる。
感覚が、引っかかる。
「……っ」
嵐の手が止まる。
一瞬。
ほんの一瞬。
“何か”が流れ込む。
「……ふたり……」
声。
小さい。
途切れる。
すぐに消える。
沈黙。
風が止まる。
嵐の呼吸が止まる。
目が、わずかに見開かれる。
「……今の……」
一歩、下がる。
核を見る。
違う。
明らかに。
「……なんだよ、これ」
蒼真が近づく。
覗き込む。
“流れ”を見る。
「……混ざってる」
「一つじゃない」
嵐が言う。
小さく。
「……似てる」
沈黙。
その言葉が、落ちる。
蒼真が視線を向ける。
嵐は動かない。
核を見ている。
その奥を見ている。
「……あれは……」
言いかけて、
止まる。
その瞬間。
空気が、わずかに歪む。
“上”。
視線が来る。
確かに。
何かがいる。
だが――
見えない。
嵐の目が、上を向く。
反射的に。
身体が動く。
「……いたよな」
小さく言う。
誰にでもなく。
「今……」
沈黙。
気配は消える。
最初からいなかったみたいに。
“いた”。
確かに。
蒼真が言う。
「……何だ?」
嵐は答えない。
視線は、まだ上。
そのまま。
ゆっくりと、下げる。
核を見る。
「……やめろ」
低く言う。
「それ……触るな」
風が戻る。
しかし――
もう同じではない。
第三十四話 終
残ることは、
時に痛みになります。
それでも——
そこに確かに、
誰かが生きていた証でもあります。




