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紡ぎの剣 〜見えない糸を断つ者〜  作者: つるぎまる
第二章 交わるもの

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第十八話「そこではない」

第十八話は、“正しい見方”に触れる回です。


ただしそれは、まだ届かない位置にあります。


一歩だけ、理解が進みます。



 重い。

 空気が、沈んでいる。


 さっきまでとは、違う。

 同じ無月《むつき》のはずなのに——


 “別物”だった。


「……来るぞ」

 蒼真《そうま》が低く言う。


 次の瞬間。


 無月《むつき》が、消える。


 そして——


 目の前。


 速い。


 今までの“ズレ”ではない。


 一直線。


 嵐《らん》が反応する。


 腕を上げる。

 受ける——


「ぐっ……!」

 重い。


 防いだはずなのに、

 身体が、後ろに持っていかれる。


「チッ……!」


 踏みとどまる。


 次が来る。


 無月の腕が、振られる。


 無駄がない。


 正確。


 そして——


 “噛み合っている”。


 蒼真が踏み込む。

 刀を振る。


 狙うのは——


 糸。


 だが。


 届かない。


 わずかに、ズレる。


「……間に合ってない!」


 弾かれる。


 距離を取る。


 息が、荒い。


「さっき通ったんじゃねぇのかよ!」

 嵐が叫ぶ。


「……通った」

 蒼真が答える。


「でも——」


「繋がりが、違う」


 無月《むつき》が、止まる。


 静かに。


 こちらを見ている。


「優先順位:対象」


 変わらない。


 だが——

 “深い”。


 その直前。


 糸が、

 “揃う”。


「……くる」

 蒼真の声が落ちる。


 無月が、踏み込む。


 速い。


 完全に一致している。


 もう——


 ズレない。


 嵐が動く。


 間に合わない。


 蒼真が刀を上げる。


 受ける——


 その瞬間。


「——そこではない」


 声。


 静かに。


 はっきりと。


 空気が、変わる。


 無月の動きが、


 止まる。


 一瞬。


 ほんの一瞬。


 だが確実に。


「……は?」

 嵐が振り向く。


 そこに——

 いた。


 白装束の男。


 いつからいたのか、

 わからない。


 気配もなく、


 ただ——そこにいる。


「……遅い」

 小さく、言う。


 それだけで、

 空気が一段、冷える。


 男が、一歩前に出る。


 その瞬間。

 空気が、整う。


 乱れていた流れが、


 わずかに——


 “揃う”。


 無月《むつき》の姿が、

 ぶれる。


 だが——


 今度は違う。


 ズレではない。


 “引かれている”。


「……何した」

 嵐が低く言う。


 男は、答えない。


 ただ——


 無月《むつき》を見ている。


「断つな」

 短く。

 それだけ。


 蒼真の目が、動く。


「……は?」


「流れを見ろ」

 男の声は、変わらない。


「そこではない」


 無月が、動く。


 再び。


 踏み込む。


 だが——


 ほんのわずかに。


 遅れる。


 蒼真が踏み出す。


 視線が変わる。


 無月ではない。


 “その奥”。


 糸。


 だが——


 さっきとは違う。


 “交差している”。


「……そこか」


 刀を振る。


 今度は——


 斜め。


 交差点。


 “流れ”を断つ。


 触れる。


 確かな感触。


 無月の動きが、


 止まる。


 完全にではない。


 だが——


 “崩れる”。


「……効いた」


 嵐が呟く。


 蒼真が息を吐く。



 次の瞬間。

 糸が、揺れる。


 さっきよりも、

 さらに深く。

 さらに広く。


 無月の身体が、

 再び持ち上がる。


「……再接続」

 低い声。


 変わらない。


 “奥”から来ている。


 男が、わずかに目を細める。


「……まだ浅い」

 小さく、呟く。


 蒼真が振り向く。

「……あんた」


 男は、視線を外す。


「ここまでだ」


「は?」


「それ以上は——」


「“届かない”」


 そのまま。


 後ろへ一歩。


 気配が、薄れる。


「おい待て!」

 嵐が声を上げる。


 だが——


 もう、いない。

 消えている。


 残るのは、

 わずかな静寂だけ。


 無月が、立っている。

 変わらない。


 確実に、

 “奥と繋がっている”。


 蒼真が、刀を握る。


「……浅い、か」

 小さく、呟く。


 視線は、


 糸の先へ。


 繋がっている。


 まだ。


 もっと奥へ。


「……まだあるな」


 その言葉が、

 静かに落ちる。


 そして——


 次が来る。


⸻


第十八話 終

見えてきたのは、

“断ち方”ではなく“流れ”でした。


次話では、

それをどう扱うかに踏み込みます。

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