【未来視】の能力
ここは、どこだ……?
どこか夢の中のような、ふしぎな浮遊感がある。
辺りを見渡そうとするが、なぜか首を上手く動かすことが出来ない。この感覚は赤ん坊の頃を思い出す。
ふと見ると俺の前では、ぼんやりとした視界の中で一組の男女が机を境に何やらか話し合っている。会話の内容は途切れ途切れで上手く聞こえない。
しかし、俺はこの場所と二人の顔には見覚えがある。
恐らくここは俺の家の居間で、この話し合っている二人はエクシアと俺だ。
つまりこれは……ん!? いやいや待てよ。どういうことだ? なんで俺がいるんだ?
俺は夢のような感覚からハッと我に返った。
よし、取り敢えず落ち着け俺。一回死んでいるんだ。それを考えればこんな状況どうとでもなる。
すー、はー、と何度か深呼吸をし冷静さを取り戻した俺は、改めて目の前の男女を見る。未だに会話は続いているようだが、やはりその内容は途切れ途切れで分からない。
……ふむ。しかしまあ、この顔は俺とエクシアだな。
顔付きは今と大分変わっているが、今の俺たちをそのまま大人にしたらこんな感じになると思う。
エクシアの顔を何年も見てきた俺が言ってるんだから間違いない。
てか俺みたいなこんなにも作り笑いがブサイクな奴なんて、この世界にはそうそういないだろう。
さて、この二人が未来の俺とエクシアだとして、じゃあなんでこんな状態になっているんだ?
俺は昨日の出来事を一から思い出す。
確か昨日は、いつも通りエクシアと魔法の練習をやって、いつも通り寝る前に【未来視】のアクティブスキルを……
あー、もしかしてそれか? これが【未来視】のアクティブスキルの効果なのか?
一応他にも今の状態になった原因をあれこれと考えてみるが、思い当たる節がない。
しかし、なんで今なんだろうか。俺は以前から何度も【未来視】のアクティブスキルを発動していたはずなのだが。もしかして何か条件でもあるのだろうか。
俺が考えに耽っていると、今まで会話をしていた二人ーー恐らく未来の俺とエクシアーーに動きがあった。
女性が何やらか言い終えると、席を立ちそのまま部屋を出て行こうとする。それを見た男性の方も立ち上がり、急いで女性の前に立ったかと思うと、行く手を阻むかのように腕を大きく広げた。そして強張った笑いを口元に浮かべながら、口早に何やらか話し始めた。
……これは一体何が起こっているんだ? 二人の声が途切れ途切れでしか聞こえないから、何を話しているのか全く分からない。
唯一、男性の言動から女性に必死に何かを伝えようと、もしくは説得しようとしている雰囲気は伝わるが……。
それから数十秒経ってようやく男性が口を閉じた。男性は息切れでもしているのか、肩を大きく揺らし、額には玉の汗が浮かんでいる。
女性の反応が気になるが、俺の位置からだと女性の後ろ姿しか見えないため、今どんな表情をしているのか、喋っているのかさえも分からない。
そうして数秒経って、男性の作り笑いが歪んだ。
え?
あまりの変わりように俺が驚いていると、女性は固まっている男性を無視してそのまま部屋を出て行こうとドアノブを握る。
よく分かんないけどちょっと待て!
思わず女性に向けて手を伸ばしたが、もちろん届かない。女性はそのまま部屋を出て行ってしまう。どうするんだと男性に目を向けるが、固まったままで一向に動こうとしない。
……本当に何がどうなっているんだ。さっきの反応からして、女性に何か言われたのだろうか。
男性をジッと見つめていると、そんな俺の視線に気が付いたのか、男性が静かにこちらに歩み寄ってくる。
なんだ……?
男性が一歩一歩近づいてくるにつれ俺の意識も波の引くようにスー、と遠退いていく。
今すぐにでも逃げ出したいのだが、体が上手く動かない。
そして、俺の前まで来た男性はポツリと一言呟いた。
「……夢からさめてくれ」
その言葉を聞いたのを最後に、俺の意識は完全に途絶えた。