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【悲報】俺氏、勇者に彼女寝取られる  作者: 馬刺の気持ち
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危険

「カカルドさん、すみません。ヴィオラが変なことを聞いて。だからヴィオラにはできるだけ教えたくなかったのですが……」


 桃髪の行動に戸惑っている俺に、アナザが話しかけてきてくれた。


……どういうことだ? なんで桃髪がレイラの事を抱きしめているんだ?


混乱している俺に、アナザが更に言葉を続けた。


「ヴィオラは、奴隷を買う人間に少し偏見を持っていまして。昔から、奴隷を買うやつの気がしれないって言ってるくらいで。それで、何かカカルドさんに失礼があったらいけないと思ったのですが」


「……そ、そうなのか。だが、それにしても、なんでヴィオラさんはレイラを抱きしめているんだ?」


ある程度混乱から戻った俺は、アナザに問いかける。すると、アナザの顔が難しいものになった。


「……あー、多分、その、同情をしたのだと思います。ヴィオラも昔、いろいろとあったので」


いろいろ?


アナザの言葉により、俺の頭の中に新たな疑問が浮かぶが、さすがにそれを聞くことは出来なかった。言葉を濁すということは、あまり口に出したくないことなのだろう。


しかし、なるほど。少しは理解出来た。早い話、つまりヴィオラさんは、レイラが俺に酷い扱いを受けていると思ったのだろう。


 それで、安心させるためにレイラを抱きしめたと。なんだ、桃髪良い奴じゃないか。てっきり自分の『紅蓮』にこれ以上他人が踏み入るのを拒絶すると思って身構えてしまったが……。


とりあえず、誤解を解いた方がいいな。レイラもどうしていいか分からないようでオロオロしているし。


「ヴィオラさん」


 俺が近づいて尋ねると、桃髪は先ほどまでの優しい口調が嘘のように、途端に険しい声になった。


「何よ? このクソ野郎」


 やはり、どうやら桃髪の中での俺は、少女に手を出すクソ野郎になっているらしい。


「ですから、何度も言っていますがそういった目的ではないですって」


「じゃあなんでこの子を買ったのよ?」


「なんでって……」


 そう聞かれると答え辛い。レイラに戦いは強要しないと言った手前、自分の護衛のためにとは答えにくいが……。


「……強い奴隷を買ったらどうだとギルド長から言われたんです」


「ギルド長?」


「はい」

 

 嘘は吐いていない。しかし、桃髪は疑い深そうにこちらを見ると、


「……ふーん。ねえ、アナザ」


「どうかした?」


 桃髪がアナザを呼びつける。


「こいつの言っていることが本当か、ちょっとこの子のギフトを視てく――」


「――ああ! そうだ!」

 

 桃髪の言葉をアナザが大声で遮る。キョトンとしている桃髪をそのままに、アナザがこちらを振り向いた。


「カカルドさん! そういえばギルド長から伝言を頼まれていたのを思い出しました!」


「え?」





◇◆◇◆◇






「……一回休憩にするか」


 額の汗を拭い、近くの切り株に腰掛ける。

 

「……疲れた」


 はぁ、とため息を吐きながら、上を見上げる。木々の間から見えるお日様は、まだ高い位置にある。


「夕暮れ時には帰れるかな。……いや、失敗した時のことを考えてもう少し歩くペース上げるか」


 帰りの時間を計算しつつ、俺は考える。


 いま俺はCランクの依頼「オークの牙の納品」を受けている。内容は名前の通りオークを倒し、その牙をギルドに持って行くことで依頼達成となる。


 ちなみにオークというのはファンタジーの世界によく出てくるあのオークのことだ。女騎士の敵と言えば分かりやすいだろう。


 この世界のオークは、依頼がCランクに指定されていることからも分かるように、割と強い。しかもそのCというランクの基準もC級冒険者三人のパーティーを前提に考えてのものだ。


 そんな依頼をこれから俺一人でやろうとしているのだ。普通に考えておかしい。とはいえ、この依頼は俺一人で達成しないと意味がないのだ。


 というのも、これはアナザから聞いた、ギルド長からの伝言なのだが、俺一人でCランク以上の依頼を達成することで、現在俺に敵意を持っているC級以下の冒険者たちに実力を見せつけることが出来るのだ。


 それでもA級パーティーに相応しいだけの実力を示したのかと聞かれると首を傾げるレベルではあるのだが、ただの無能と言われるよりははるかに良い。


 そんなわけで、俺はその依頼を達成すべく、王都から少し離れたところにある山に一人で来ていた。


 レイラは桃髪に預けてきている。というのも、桃髪がレイラと色々と話をしたいと言い出したのだ。俺としてもその方が助かるし、何より桃髪と一緒ならば他の冒険者に襲われる心配はないだろう。

 

「……よし」


 充分休憩したし、そろそろ行くか。


 俺は近くに立て掛けた槍を持って立ち上がり、また歩き出す。


「……そういえば、この槍全く使ってないな」


 握った槍を眺め、最後に使ったのはいつだったかを思い出す。


 ……たぶん、一番最初の依頼でスライムを突いたのが最初で最後だな。監獄で使っていた槍は魔法で造られたものだったし。


 てか、結局あの敵対しないスライムは何だったのだろうか? あれ以降スライムには遭っていなかったから忘れていた。もし王都近くにいるのだったら今度行ってみようか。


 ぼんやりと、そんなことを考えていた時だった。


 俺の顔スレスレを火の球が通り過ぎ――目の前の木にぶつかり炎を撒き散らす。

 

「っ!」


 俺はすぐに【身体能力上昇】を発動させ後ろを振り向くが――


「そのまま動くんじゃねえ」


 意味などなかった。


「な……!」


 見れば、武器を持った者たちが俺を囲むようにズラリと立ち並んでいた。数えられるだけでも七人はいる。そのうちの半分は、いつでも攻撃は出来るといわんばかりに俺に杖を向けている。


 俺が固まっていると、その中のリーダー格のような、長剣を持った男が話しかけてきた。


「動くなよ。おれは【魔力視】っていう魔力を視ることが出来るギフトを持っている。もしお前が魔法を発動させるような素振りを少しでも見せれば、おれの合図一つでお前は仲間の集中砲火を喰らうことになる。お前は黙っておれに聞かれたことだけに答えていろ」


 ……俺の行動を抑制するためとはいえ、自分のギフトをバラすのは如何なものか。


 そんなことは思いながらも男の言葉に素直に頷く。


 それより、こいつらは一体何なんだ? 盗賊にしては随分と小綺麗な気がするが……。


「さて、早速だがお前には聞きたいことがある。『紅蓮』のパーティーにはどうやって加入した?」


「『紅蓮』?」


 男の言葉に、俺は理解する。


 ……なるほど、俺に不満を持っている冒険者か。


「おい、さっさと答えろ」


 何も答えない俺に、男が口調を荒げる。


 ……これはマズい。どうにかして逃げたいが、この一対七の状態では【身体能力上昇】を発動させていても無理だ。ひとまず会話を繋げて隙を窺うしかない。


「……答える前に、そもそもあなた方は一体何者なのでしょうか?」


「殺す」


「……ころす?」


 思わぬ返答に、早くも会話が途切れてしまう。


 質問の答えになってな――いや、それよりも早く、この状況をどうすれば打破できるかを考えないといけない。


 と、そんな俺の思考を叩き斬るように、男が俺に向けて自分の背丈程もある長剣を振り下ろす。


「答える気がねぇなら殺すぞ」


 ……だいぶお怒りのようだな。それっぽいことを言ったら誤魔化せないだろうか。


「もちろんお答えします。ただ、答えた後で殺されるのは構いませんが、あなた方に迷惑がかかってしまうのではないかと少し心配になりまして」


「迷惑だと?」


「ええ、皆さんは冒険者の方々ですよね。私をここで殺すと、当然同じ場所に向かったあなた方に疑いがかけられます。そうなると、今後の冒険者生活に支障を来してしまうのではないでしょうか?」


「ふっ!」


 俺の心配を鼻で笑う。


「ここは山の奥だぞ? そんくらいでおれたちが疑われるわけねぇだろ。それに安心しろよ。お前を殺したら、ギルドには魔物の群れに襲われたみてぇだって報告しといてやるよ」


 ニヤニヤとした笑みを浮かべ、再度こちらに長剣を向けられる。


「さて、お喋りに付き合ってやったんだ。さっさと答えろ」


「……」


 ……本格的にマズくなってきたな。たとえ口に出さず心の中で魔法を発動させようにも、その魔力を察知されるのだったら意味がない。


 ここは一つ、賭けてみようか……。


「……分かりました。では、お答えします。まずは――」


 不自然のないように話しながら、俺は()()()()()()()【闇堕ち】の上級魔法を発動させる。


 チラリと男の様子を見るが、それに気付いている様子は無い。


 ――よし! これならいける。


「その『紅蓮』についてなのですが」


 適当なことを話したまま、上級魔法『暗黒』が発動し――


 男の目の前に()が現れ、その中から金貨が飛び出した。


「なっ!」


 男が驚いているうちに、俺は通常の魔法を発動させる。幸い他のやつらは男の指示が無いことに戸惑っているようで何も反応出来ずにいる。


「『ウィンドブレス』!」


 突風が発生し、()から溢れ落ちた幾枚もの金貨が、男たちに向けて弾丸となって降り注ぐ。


「いってぇ!」


 男たちが金貨の被弾した箇所を押さえて蹲る。


 金貨は武器や装備の一部に使用されているほど硬度は高い。そんなものを魔力の込めた風魔法で吹っ飛ばずのだから、めちゃくちゃ危ない。


 間違っても人に向けてそんなことはしてはいけない。


「――よし!」


 逃げよう。そう思った瞬間のことだった。頭の中に、自分が弓矢で撃ち抜かれる光景が流れる。言うまでもなく【未来視】の能力だ。


「くそっ!」


 大きく飛び退いて当たるはずだった矢を回避する。しかし、すぐに二矢三矢と続き、頭の中に同じような光景が流れる。


 これじゃキリがない。 


 放たれた矢を【未来視】で躱しながら、土魔法を発動させる。


 ――初級魔法『ストーンウォール』


 発動に応じて地面が高くまで盛り上がり、その場に石の壁が出来上がる。


 初級のため脆く壊れやすいが、俺の目的は一瞬でも相手の射線を妨げることだ。それに魔力だって限られている。少しでも節約していかないといけない。


 先ほどの最初の矢は突然のことで避けるのが精一杯だったが、次の二矢三矢目のお陰で【未来視】で視た光景を逆算し、弓使いの大体の場所は把握している。


 あとは攻撃に転じるだけだ。


 と、考えているうちに早くも石の壁にヒビが入り――崩壊する。同時に、俺は弓使いに向けて中級の火魔法『ファイヤーアロー』を発動させる。


 魔法のある世界に弓使いの存在意義など無に等しいのだ。そう教えてあげるために。


「あっつ!」


 俺の放った炎の矢は、周りの草木を燃やしながら弓使いに命中する。貫通力はないので大きなダメージは与えられないが、煙で弓を射ることは出来ないだろう。


 さて、あとは逃げるだけだ。


 ――しかし、怒号が響き渡る。


「待てやあぁぁぁ!」


「え?」


 見れば、突風の金貨を喰らい蹲っていた者たちが、全員立ち上がろうとしているところだった。


 ――しまった、弓使いに時間を使い過ぎたか?


 元々、逃げるのが前提で威力をそんなに上げていなかった。

 

 この状況でまた一対七に持っていかれたら流石に逃げられない。とはいえ、一応予防線は張っている。それで諦めてくれたらいいが……。


 俺は立ち上がろうとしている男たちに向けて大声を出す。


「皆さん、足元をご覧下さい! そこに転がっている硬貨は全て金貨です!」


「なにっ!」

 

 俺の言葉に、即座に反応を示す冒険者たち。


 ――よし、今度こそ逃げよう。


 俺は、懸命に金貨を拾い合い、金貨の争奪戦を始めた素直な冒険者たちに背を向けて走りだす。【身体能力上昇】を発動させているため、普段よりも走るスピードは格段に速い。


 因みに金貨一枚は、日本円にして十万円の価値がある。それも、冒険者という命がけな職に就いている者からすれば、個人的な価値はもっと上がるだろう。


 これが『紅蓮』のようなA級パーティーならば、こうはいかなかっただろうが、こいつらは俺を狙うようなC級以下のパーティーだ。


 こいつらに百万近くを渡すと思うと、惜しい気持ちはあるが命には変えられない。ここはさっさと今のうちに逃げるのが一番だ。


 なんて、油断していた時だった。


 突如俺の頭の中に、自分の胸が長剣で貫かれる光景が映し出された。


 ゾクリ、と背筋に冷たいものが走る。


「――ッ!」


 ほとんど反射的に、持っていた槍で振り向きざまに薙ぎ払う。


 ――ガキンッ!


 長剣の刃と槍がぶつかり合い、そのまま長剣は勢いを失って地面に落ちた。


「……」


 遠くを見れば、あのリーダー格の男がコチラを見て立っていた。恐らく、追い付けないと踏んで自分の得物を投げつけたのだろう。


 男は俺を追いかける気はないようで、唾を吐いたような素振りを見せたあと、後ろを向いて去っていった。


 ……今のは本当に危なかった。完全に油断していた。


「……ひとまず、走ろう」


 自分を鼓舞しながら、俺は走り出す。


 命の危険だって、まだ完全に消えたわけではないのだ。一刻も早くここから離れよう。


 もう一度、【身体能力上昇】を発動させる。


「……槍を持っててよかった」


 親から貰ったこの槍に最大の感謝をしながら、俺はひたすらに走った。







◇◆◇◆◇◆






「……無事に行けましたか」


 カカルドの行方を最後まで見送ったアナザは、ホッと息を吐く。


「結局、カカルドさんの最上級ギフトは分からないままでしたが」

 

 アナザが、カカルドにギルド長の伝言と嘘をついてまでこの依頼を受けさせたのには、二つの理由があった。


 一つは、カカルドの最上級ギフトが何かを調べるためだ。


 これは以前から気になっていたことで、元々はカカルドのことをパーティーに誘う前、アナザが監視していた際に見た、スライムがカカルドに敵対しない理由に興味が湧いたのが始まりだ。


 一ヶ月前にも不壊狼の群れに襲われた際に、カカルドが制止の声をあげただけで不壊狼の群れが散っていったことを考えれば、魔物に関する能力だということは推測出来る。


 いずれにしろ、非常に強力なギフトということは間違いない。


 本当ならカカルドに直接教えて貰いたいところだが、アナザ自身がカカルドに自分の最上級ギフトを隠しているため、そんなこと言えるはずがなかった。


 今回カカルドに勢いで言ってしまったのも、隠している最上級ギフトの能力をヴィオラにバラされるのを防ぐためだった。


(ヴィオラは感情が昂ると、ついそこら辺の注意力が散漫になるからなぁ……)


 前にもあったが、今回はあの奴隷のことを思ってのことだったのだろう。とはいえ、ギルド長にも言われた通り、大事な情報をそうホイホイと人前で言われてはたまったものではない。


 王都に帰ったら、一回ちゃんと怒らないといけない。


 アナザはそう心に留める。


 そして、アナザがカカルドに嘘をついた二つ目の理由とは――。


「少しの間、止まってもらえますか?」


 カカルドを襲った冒険者チームの行くてを阻むように、アナザは道の真ん中に立つ。


 急なアナザの姿を見て、冒険者たちは怯えた様子を見せる。


「て、てめぇは『紅蓮』のアナザ……! な、なんでこんなとこにいやがる!」


 リーダー格の男が怯えを悟られないように必死になって吼えるが、そんなものアナザには通用しない。


「いえ、わざわざカカルドさんを尾行してまで殺そうと企んでいる、一部の過激な方々を炙り出そうと思いまして。ご協力感謝致します。お陰で、他の冒険者の方々にも警告が出来ます」


「……!」


 アナザの言葉の意味を理解し、冒険者たちの心が打ち砕かれる。


 そんな冒険者たちに、アナザはニコリと笑顔で答える。


「ご安心下さい。ギルドには、あなた方は魔物の群れに襲われたと報告しておきます」

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