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AIに意識を移植されたのでちょっと異世界行ってきます  作者: 鉛風船
三章 貴族社会のあれやこれ
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カエデの本領

 真っ先に手を挙げたのはカエデだった。もとより好奇心旺盛な性格な上、言動からダンジョンに並々ならぬ思い入れがあることは知っている。予想の範疇だ。


「嬢ちゃんが最初か。一応確認のために聞くが年は幾つだ?」


「僕は十歳だよ! そんなことよりも、はやくー、しけんー、やろうよー」


「そう急かすな。今、対戦相手を連れてきてやるから待ってろ。手加減の出来る奴を連れてくるつもりだが、もしものことがあってもそっちで対処してくれよ? 付与属性はこのギルドにはいないからな」


「もしもって何さ?」


「怪我とかだ」


「ぷぷぷー! おじさんは僕が怪我すると思っているの?」


「そりゃあ……お前……俺の背丈の半分くらいしかないからなあ……」


「ちゃんと作戦があるもんね! 負けないよ!」


「ならいいんだが……」


 ガドはまだ何か言いたそうにしていたが、後ろ頭を掻くと何も言わずに酒場の方へ対戦相手を呼びに行った。

 ガドの言わんとしていることは良くわかる。もし俺がガドの立場なら迷わず止めていた。彼が了承したのは俺の顔を立てる意味もあったのだろう。それだけではない。カエデと娘を重ねて見ていたはずだ。

 この世界の親がどのように子供に愛情を注ぐのかは知らないが、地球とそこまで変わらない様に思えた。


「本当に大丈夫?」


 キキョウがカエデの頭を撫でる。カエデはくすぐったそうにしていた。


「うん――! ありがとう、キキョウ姉ちゃん!」


「心配するなって。キキョウもカエデも黒の一族なんだ。力で負けることはない。今までの鬱憤を晴らせると思って思いきり暴れていいぞ」


「ですが……」


 最近のキキョウはいやに心配性なところがある。それもカエデのことに関して特にそれが見えた。元々世話焼きなキキョウだから、カエデのやんちゃっぷりが気になるのだろうか。

 この間も全裸で風呂場から談話室へ突貫してきたカエデを、これまた全裸のキキョウが捕まえに来た――何てこともあった。


「私も良くわかるわ、その気持ち。カエデちゃん、ちょっとお転婆だもの」


「エリシャがそれを言うのか……」


「何か言った?」


「いや、何も」


「ならいいのだけど」


 ガドが帰ってきた。彼の後ろには一人……二人……合計二十人を越える団員たちがいた。驚いたキキョウがガドに確かめてみると、彼らは野次馬とのこと。まあ、十歳の入団希望者など、普段お目にかかれるものではないし、見物したくなる気持ちもわかる。

 対戦相手はというと、意外というか案の定というか、ギグが務めることになった。今しがたも近くの道場で近所の子供たちに稽古をつけてきたばかりだという。

 だからいなかったのか、と俺は得心した。


「久し振りだな、ネモよ。元気にしていたか?」


「ぼちぼちだ」


「それにしても驚いたぞ。入団希望者がいると聞いて、もしやネモかもしれない……と思っていたら、そのまさかだとは――」


「……ははは」


「しかも、漸くネモと戦えると思ったらネモではなく、この嬢ちゃんたちと模擬戦をしろと来たもんだ――ここはいつからチビッ子相撲の道場になったんだ?」


「まあ、そう言うなって。まずは三人の実力を見てくれ……吃驚するぞぉ」


 ギグは肩を竦めた。後ろにいる野次馬たちも苦笑している。中には青筋だっている者もいた。皆々をして、三人娘の実力を知らないからこそのものだ。

 体の半分ほどサイボーグ化したエリシャと俺のナノマシンで色々とパワーアップしたキキョウとカエデをただの娘と侮っていられのは今のうちだ、と心中で告げておく。まるで後出しじゃんけんをしているようで良心が痛まないでもなかったが、俺の心は既にロボットなので関係ない。

 言い訳をするならば、あくまで目的は戦力の確保であり、ここの連中と馴れ合いをするためではないのだから……とでも言っておこう。


「おい嬢ちゃん、武器は何を使うつもりなんだ?」


「僕は鉄砲を使うよ! おじさんは?」


「俺は拳だ。だが、鉄砲かあ……一対一ではちと不利じゃねえか?」


「どうして?」


「ありゃ、一発きりのものだろう? 外したらただの鈍器だ」


「じゃ、当てればいいんだね?」


「まあ、そうだが……」


 ギグも野次馬たちもカエデの無邪気な答えに二の句が継げないでいる。いや、敢えて継がないでいる。言外に漂うのは当てられるはずがないという慢心だ。


「頑張ってね、カエデ!」「カエデちゃんならいけるわ」


 キキョウがガッツポーズでエールを送る。カエデもそれに応えて立てた親指をグッと突き出した。

 訓練場に立て掛けてあったフリントロック式のライフル銃と早合をガドから受け取り、二人は闘技場へ登り、中央で向かい合った。俺たちも観客席に登った。


「ようし! ではこれから入団試験を兼ねた模擬戦を行う! 両者とも善戦すること! 試合開始――――!」


 ガドが闘技場に備え付けられているゴングを鳴らした。

 先に動いたのはギグだった。上体を小さく丸め、ボクサーのような格好でカエデに迫る。重厚な筋肉から生まれる弾丸じみた突進は、カエデが食らえば易々とその意識を刈り取るだろう。

 しかし、それはカエデに当たることはなかった。カエデは弾丸を装填していないことをいいことに、銃座を地面に立てて棒高跳びの要領でギグの後ろに回り込んだ。


「よいしょっ!」


 更に、カエデはそれを好機と見るや、ライフルを鈍器に見立ててギグの後頭部へフルスイングをかます。普通ならば絶対に届かない距離も、カエデの身長以上に長いライフルならばそれを可能にするのだ。

 が、そこまでギグも甘くない。カエデの攻撃を振り向きもせずに右手で受け止めると、振り向き様に足払いをかけた。

 ここに経験の有無が出る。ギグはすべての行動に追撃と防御の選択肢を持っており、一方、カエデは一つ一つを考えながら行っている。故に、判断の早いギグの足払いは見事にカエデの足にヒットした。

 観客席からは「おいおい、あの嬢ちゃんギグさんと渡り合っているぜ」とか「嬢ちゃんもヤベえが、何よりヤバイのは嬢ちゃんを強化している付与属性の魔術師だろうが」、「だが、ギグさんの攻撃を食らっちまったらもう終わりよ」などと言い合っている。

 確かに、ギグはやり手の魔術師だ。才能もあるし、研鑽もきちんと積み、本物のダンジョンを攻略してきた経験がある。

 しかし、経験の差は才能で埋めてしまうのが黒の一族。べらぼうに高い身体能力は、生まれてから戦闘などしたことのないカエデにもきちんと息づいているらしく、銃座を第三の足に後ろへ飛び下がった。


「その動き……付与属性――身体強化を施されたか」


「ちが……違わないよ!」


「……どっちだ?」


 この攻防で両者とも魔術を使った痕跡はない。カエデの魔術は、彼女の合図に合わせて俺が遠隔操作で起動させるので、厳密には痕跡も残らないのであるが……兎に角、今の攻防は両者とも小手調べの挨拶だった。


「お、おじさんこそ魔術は使わないの?」


「恐らく使うことになりそう……だ――!」


 言い終わるや否や、ギグは開いた距離をたった一歩で詰め、巨大な鉄球のような拳を横薙ぎに振るった。

 カエデはそれをライフルで受け流そうとしていたが、急に慌てたようにギグの脇へ潜るとカウンターも与えずに大きく距離を取る。

 ギグは更に追撃するべく何度も拳を振るい、何故かカエデは一度も反撃せずにそのすべてを避けた。

 エリシャとキキョウの顔が険しくなる。俺はギグの体を望遠機能を用いて隈無く観察した。

 魔符が持つ微弱な魔力が胴体、両足といった体幹の要となる部位から発生している。拳に発生しているのはまた違った種類の魔力だ。

 なるほど、ギグは創造属性の魔術師か。

 創造属性は文字通り無から有を創造する魔術である。例えば、魔法陣から氷を発現させたり、火を発現させたり出来る。更に研鑽を積めば、二種類同時に魔術を展開できる。

 このことからギグは相当の使い手だということがわかった。恐らく集中すれば、より大きくて複雑なものを発現させることが出来るだろう。例えば……銃とか。

 そうしないのは、単にカエデに手加減をしているからだ。


「やっぱりカエデちゃん……魔術を使うことを忘れているわ」


「うん、未だあの体になってから時間が経っていないからね」


「何を暢気に言っているんですか! どうしてカエデは攻撃を避けてばかりなのですか!?」


 そういえば、キキョウに説明するのを忘れていた。


「今、ギグは両手と身体中に別々の魔術を発現させているんだ。身体中には、触れた箇所へ重力を創り出す魔術を……両手には――触れた箇所に岩石を創り出す魔術を展開している」


「それって……」


「ああ、まともに組手なんてしたら、重さでカエデが潰れてしまう。いくら黒の一族とはいえ無限の体力があるわけじゃあない」


「あのマスケット銃と足も相当な重さになっているはずよ」


「…………」


 キキョウは指を咥えて黙り込んでしまった。

 試合に視点を戻す。

 カエデは防戦一方だった。彼女の本能でギグには触れてはいけないと気がついているのか、紙一重のところで全ての攻撃を躱わしている。

 が、それは長く持たない。やはり重さの増したマスケット銃は扱い辛いらしく、遂にギグの拳がカエデの側頭部を捉えた。

 鈍い音と共に体重の軽いカエデは吹き飛ばされ闘技場の端まで届いた。


「はぁっ……! はぁっ……! なんて嬢ちゃんだ……! 俺がここまで苦戦するとはな……」


 ギグは大きく肩で息をして、既に立っているのもやっとの状態である。本来ならばギグはこのように乱打などしないはずだ。それを、こうして強いられたのは、カエデの実力を見誤っていたからに他ならない。

 無尽蔵にも思えるカエデの体力と無謀にも正面から勝負したのだ。もし、マスケット銃に触れていなければ、高確率でギグが体力切れを起こしていただろう。

 長く沈黙を守っていた野次馬たちも感嘆の溜め息を漏らしている。起き上がらないカエデを客席から身を乗り出して確認しようとしていた。


「ちっこい嬢ちゃんは、また大きくなってからここに来な――」


 と、ギグが言い終わるかどうかの瀬戸際であった。カエデが倒れた状態から背筋だけの力で跳ね起きた。


「――おじさんはとっても強いんだね!」


「……う、嘘だろ……?」


 カエデの顔は左半分を岩石に覆われている。ギグの魔術で頭部に岩石を創り出されたのだ。

 無事……とは言い難い。カエデが魔術を使う合図をくれれば、すぐに取り去ることは出来る。勿論銃の重力もだ。しかし、カエデはそれを使おうとしない。

 別に、自身の魔術を使わないからといって、黒の一族の変装だとは疑われないが、だからといって疑念を持たせるのは良くない。俺としては早く魔術を欲しかった。


「じゃあ、次は僕の番だね!」


 カエデが術式の書かれた札を遂に持った――これが合図だ。彼女はそれを左半分を覆う岩石に当てる。俺はタイミングを合わせて魔法を発現させ、岩石を破壊し、立て続けにマスケット銃と足の重力も破壊した。

 ギグは苦い顔をした。それもそうだ。彼は今応戦できる体力がない。カエデが起き上がってから努めて体力を回復していたが、果たしてどれくらい回復したのだろうか。

 俺は計り知れないが、到底先程の戦闘が出来るとは思えない。カエデが魔術を使ったことから、戦闘スタイルも変えざるを得ない筈だ。

 カエデはマスケット銃の銃床を地面に立て、取り出した早合を銃口に入れる。カルカを使って奥まで押し込み、チップ状の雷管を撃鉄に挟み込んだ。

 その間、ギグが動くことはなかった。というよりも、動けなかったのだろう。何故ならば、カエデは札をギグとの間に設置していたからだ。

 下手に突っ込めば迎撃され、かといって横から回り込めば、満足な攻撃を与えられない。

 カエデが銃を構えた。逆にギグが構えを解いた。そして、


「くっ……! 降参だ……。俺の敗けだよ……! 嬢ちゃんの入団を認めよう!」


 と苦々しく宣言した。

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