↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
兵士はエースを狩りに行く  作者: 曇空 鈍縒


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/7

制圧

 要塞の中には、石造りの古めかしい市街地が広がっている。

 僕は着剣した銃を構えて、その中を進んだ。


 遠くで発砲音や爆発音が聞こえるが、自分はまだ戦闘に巻き込まれていない。その静けさが、むしろ不気味だった。僕の後ろについてきている分隊の新兵たちも、緊張した表情を浮かべている。


 手の震えを感じる。

 冷えた空気が肺を刺す。


 その時だった。建物の影から、一人の兵士が飛び出してくる。


 灰色の軍服。帝国兵だ。満身創痍で、身体中に包帯を巻いている。丸みを帯びたヘルメットを目深に被っており、その表情は伺えない。僕は素早く銃を構えて、引き金を引いた。放たれた弾丸は敵兵の肩に突き刺さる。


 だがその兵士は全く動じることはなく、そのままスコップを振り下ろしてきた。僕は銃を横に構えてそれを受ける。


 ヘルメットの奥から、金色の瞳が僕を見据えた。ベリルだ。やはり現れた。


「総員、近くの建物に立てこもって友軍部隊の到着を待て!」


 僕は背後の分隊員たちに命じる。


「分隊長!」

「僕は大丈夫だ! 早く!」


 僕はそう怒鳴って、力づくでベリルを弾き飛ばすと小銃を振り下ろす。ベリルはそれをスコップで受け止めた。


 分隊員たちは小走りで近くの建物へと駆け込んでいく。

 ベリルは僕から数歩距離を取ると、引き下がっていく分隊員に拳銃を向けた。


 僕はその手に銃のストックを叩き込む。


 彼女の手から、拳銃が弾かれた。


 ベリルは僕から距離を取ると、重傷で殴られて赤くなった手をぶらぶらと振って笑う。


「さあキリ上等兵。邪魔者はいない。最後の勝負をしよう!」

「今は軍曹だ」


 僕は銃を突き出す。ベリルはそれをスコップで弾いた。


「強くなったね」


 ベリルが振るうスコップを、僕は半身になって躱す。


「随分と酷い怪我だな」

「心配してくれてありがとう」


 ふと気付く。

 以前より、ベリルが弱くなっている。苛烈な撤退戦は、彼女の戦闘能力を大幅に奪ってしまったらしい。現在、帝国は海上封鎖による食糧不足が深刻化しつつある。軍においては、他国に比べ食料事情がだいぶマシだったようだが、今回の戦線崩壊により、とうとう帝国軍の食料備蓄も尽きたらしい。


 一方、僕は圧倒的優勢の連合王国軍で栄養のある食事をして、十分な訓練を積んできた。


 その差は、僕とベリルの実力差を埋めてしまうほどに大きかった。


 僕は着剣した銃で間合いを取りつつ戦う。塹壕の中とは違い、ここではリーチの長い銃が役に立つ。一方、ベリルのスコップは銃剣よりは長くても着剣した銃よりは短い。


「ちっ」


 防戦一方となったベリルは舌打ちをする。

 彼女の瞳にあった輝きは、もうほとんど消えかかっていた。


 そして、その時は唐突に訪れる。


 僕の突き出した銃を、ベリルは受けきれなかった。

 彼女の腹部に、着剣した銃の銃剣が深々と突き刺さった。


「うぐっ」


 ベリルの唇からうめき声が漏れて、彼女はそのまま後ろに倒れる。

 僕はそれを見届けて、地面に膝をつく。肺が痛い。周囲の冷たい空気が、限界まで稼働して火照った体を冷やしてくれた。


「やられたね」


 ベリルの唇から血が流れる。


「前線に立たなければ、もう少し幸せな人生を送れたかもな」


 僕はベリルに銃の銃口を突きつけて、そう言う。


「僕は幸せだったよ? 美味しいご飯も食べたし、君にも会えた。最後まで戦えた。一片の悔いもないよ」

「そうか」


 少し迷って、銃口を下ろす。


 相手は負傷兵で無抵抗だ。殺害は連合王国軍の軍規に反する。


「撃たないの? 僕は一応、君の仲間を殺した敵なんだけど?」


 ベリルは意外そうに聞く。


「ああ」


 僕は銃を構えたままベリルに近づいて、彼女を拘束する。


「なぜ?」

「僕が軍人だからだ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。