表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/3

第3話 はじめてのダンジョン攻略

 セレナとアズモの二人は草原の小高い丘のふもとに来ていた。

 目の前には風がひゅうぅぅと鳴る洞窟が空いている。

 ここが【風の洞窟】だ。

 アズモの魔王の力の一部がこの洞窟に眠っているという。

 

「よし。我と貴様、魔王と勇者の二人で迷宮攻略だ」

「そうだね。陣形を確認しよう」

「たわけ、陣形も何もあるか。我と貴様の二人きりだろうが」

 

 つまりどちらが先行するかだ。

 

「勇者の貴様が後衛。魔王の我が前衛だ。良いな」

「いや、逆の方がいいと思うよ」

「なんだと?」

「わたしはいい囮になれる」

 

 セレナは封印によって暴力行為を禁止された身だ。

 しかし丈夫な体は残っている。戦力にならないから罠にかかっても痛くない。つまり良質なデコイとなりうるのだ。回復魔法は禁止されたが、傷つき倒れるまでは魔王を守れるだろう。

 とセレナが提案すると。

 

「たわけーーーーーーーー!!」

 

 アズモがなぜかブチ切れた。

 

「うわ、びっくりした」

「魔王が無力な部下を囮の盾にしたなど、知られたら天下の笑いものだっ!!」

「でも効率的」

「誇り高き魔王に囮などいらぬ! 卑怯なる勇者パーティーとは違うのだ!!」

「魔王はわがままだなあ」

 

 くすくすと笑うセレナだった。

 どうもこの魔王は純粋すぎる気がする。

 

「我が前衛で決定だ。いいな」

「大丈夫? ここのガーディアンはけっこう強かった記憶がある」

「魔力を失ったとはいえ我は魔王ぞ。簡単に蹴散らしてくれるわ」

 

 そして五分後。

 

「ぎゃーー!!」

「はいはい。撤退てったーい」

 

 セレナはボコボコにされたアズモをおぶっていた。

 全力で逃げていた。

 アズモはアタマじゅうにたんこぶを作っている。

 

「魔王だから魔物に攻撃されないかと思ったけど。ダメだったね」

 

 よいしょっと入口でアズモをおろしてセレナは言った。

 普通に入口を入ったガーゴイルに通常攻撃でボコボコにされた。幸い今でもセレナの身体能力はそのままなので、アズモを背負って逃げてきたのだ。勇者の逃げ足は世界一早い。

 

「ぐ……ま、魔物の支配権も魔力によるものだからな……」

「ほんとに何も残ってないんだね。ふふふふ」

「なぜ嬉しそうなのだ!?」

 

 だってセレナは無力な民が大好きだからだ。

 

「わたし治療もできないから、傷は自分でなんとかしてね」

「暴力禁止なのに治療もできないのか」

「アンデッド相手だと治療も攻撃になるからって理屈らしいよ」

「徹底的だな」

 

 暴力禁止は死刑より重い罪とされている。あらゆる人間の玩具、慰み者になることを義務付けられるものだからだ。誰にでも仕える奴隷のようなものだ。セレナの罪はそれだけ重い罪なのだ。

 セレナに心当たりはないけれど。

 

「ひどい有り様だ。だから貴様は復讐の炎を燃やすのだな」

「いや別に」

 

 セレナはアズモと違って別に元仲間を恨んだりはしていない。

 ひどいことをされたとは思う。

 だけど恨むとか憎むとか、そういう感情はなぜか出てこないのだ。

 きっと感情が欠落しているのだろう。

 昔からそうだった。

 

「ただ、なぜ裏切られたのかは知りたい」

 

 自分の何がいけなかったのか。

 それを知らないと、また同じ過ちを繰り返してしまうだろう。

 

「傲慢だな」

 

 アズモがずばりと言った。

 

「……傲慢?」

「ふん」

 

 なぜか表情は不満げだ。

 

「憎悪も怨恨もプラスの感情の裏返しだ。貴様は周囲の人間になにも期待していなかったのであろう。自分が勇者として圧倒的な力を持っていたから、周囲のものを守るべき人間としか見ていないから、恨みも憎みもしない。なんと傲慢な人間よ」

「………………おお」

 

 セレナはぽんと手を叩いた。

 なるほどアズモの理屈には納得がいく。

 

「わたしは傲慢な女だったんだ」

 

 裏切られたのもそれが理由なのだろうか?

 

「ああ傲慢だ。それでこそ我が新魔王軍の部下に相応しい」

「……なんで?」

「魔王とはこの世の善も悪を全て飲み込むもの。貴様は極上の善なる勇者にして傲慢の化身だ。これほど魔王の手下に相応しいものは他におるまい。余が貴様をスカウトしたのもそのためなのだ、はっはっはっは!」

 

 セレナはじーっとアズモを見つめた。

 しばらくの時間の後。

 

「それは今適当につけた理屈だね」

 

 セレナは笑顔で言った。

 

「な!?」

「追放されたわたし以外に候補者がいなかったからでしょ」

「う、うるさい。理屈など我の行動の後に付いてくるものだ!」

 

 人、それを行き当たりばったりという。

 でもセレナは笑った。

 こんな風に自分の欠点を指摘してくれる人間ははじめてだった。

 近づいてくる人間は、みんな愛想笑いか、信仰の眼差しを浮かべるだけだった。

 

「ええいそんなことより洞窟探索だ! 対策を練るぞ!」

「対策といってもねえ」

「まずは現状を確認するぞ。洞窟にはガーゴイルがいる。こちら側の戦力は我一人。我は火の魔法を使える。何度も魔法を撃てばガーゴイルを倒せるはずだ。全盛期であれば一撃だが、今の魔力放出量では三◯回は必要だな」

「今のアズモが三◯回も魔法を撃てるの?」

「ふふん。大地の魔力を吸い上げればその程度は可能だ」

 

 奪われたのは魔王の体を巡る【魔王の魔力】である。

 そのため外部の魔力を吸い上げること自体は可能だという。ただし魔力の一度の放出量、魔力の蛇口のようなものの半径が今は狭い。そのため初心者以下の威力になってしまっているのだ、とアズモは説明した。

 

「要するに燃費はいいが威力はクソだということだ」

 

 なるほどとセレナはうなずいた。

 

「つまり時間さえ稼げば今のアズモでもガーゴイルは倒せると?」

「うむ。あ、囮作戦はダメだぞ我の誇りが許さん」

 

 つくづくわがまま魔王である。

 

「だったら――」

 

 セレナは少し考えて。

 

「――合体作戦でいこうか」

「合体作戦だと?」

「うん」

 

 そして十分後。

 二人はふたたび【風の洞窟】に突入した。

 そして通路の行き当たりにいる石像の魔物【ガーゴイル】と相対すると。

 

「てりゃ、合体!」

 

 しゃきーん!

 セレナはアズモを肩車した。

 

「はあ!?」

「ガアアアアアアアッ!!」

 

 爪を振り上げて迫りくるガーゴイル。

 ひょいっと肩車したままセレナは楽にその攻撃を避けた。

 

「ほら、ぼさっとしてないで、魔法撃って」

「ぐぬっ……! ほ、【炎の矢】!」

 

 ボウンッ!

 小さな火の矢がアズモの指先から放たれガーゴイルを襲った。

 石像の腕のあたりが小さく欠けた。

 

「よし。このまま回避するからアズモは魔法をたくさん撃ってね」

 

 つまり砲台作戦だ。

 フィジカルに優れた勇者セレナがアズモを肩車して逃げ回る。

 その間にへっぽこだが継続攻撃が可能な魔王アズモが魔法を相手に撃つ。

 

「かっこわるすぎるわあああああああっ!?」

 

 砲台魔王・アズモが肩車の上で絶叫した。

 

「でも効率的」

「しかし!」

「それに他に良い方法ある? 囮作戦は駄目なんでしょう?」

「ぐうっ!」

 

 アズモは足をジタバタするがびくともしない。

 勇者セレナのフィジカルは圧倒的だった。

 

「き、貴様はこれで良いのか! 魔王様の馬扱いされてるのだぞ!」

「嫌じゃない。これけっこう楽しい」

「だーっ!!」

 

 セレナはガーゴイルの爪を避けながらふふふと笑った。

 

「ほら撃って撃って」

「だーくそ! 炎の矢! 炎の矢ーっ!!」

 

 ずがーんずがーん。

 炎の矢が次々とガーゴイルの体を削っていく。

 

「調子いいね。あ、次のガーゴイルも出てきた。アズモ、次は右ー」

「我に指図するんじゃなーいっ!」

「わたしは傲慢だから仕方ないね」

「関係ないわー!!」

 

 勇者と魔王。

 二人の初の連携攻撃は息ぴったりであった。

ちょっとでも気に入っていただけた場合、ブックマークとか★評価とかいただけると作者が泣いてよろこびますです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ