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第二話 潜水艦(ダットラ横倒し事件)

笠間と内原の間に朝房山という山がある。標高も低く山というにはおこがましい感じだが、昔話のダイダラ坊が日差しの関係で農作物が育たなくて困っている地元の人達の為にこの場所に移動したという逸話の残る山だ。


朝房山の周りは、林道になっていて、そこそこ長いダートになってる。

地元でも舗装化がどんどん進んでいて当時でもダートは貴重だったので、よくこの道を走っていた。


この頃の俺の愛車はダットラD21のダブルキャビンだった。

遊びのモトクロスを始めていたので、バイクが載せられて、仲間と遠出しても5人乗れて、車のクロカンもやってみたくて、これを選んだ。

この車は、ダブルキャビンで荷台が狭いのでバイクは工夫して斜めに載せないと乗らず、クロカンを意識しているので車高も高くバイクは載せにくい。

キャビンは5人乗りだが所せんはトラックなのでクッション性がいまいちで長距離ではケツが痛く、リアは背もたれの角度も変えられないので腰も痛くなる。

クロカンをやろうにも、リアは荷台なので荷重がかからずトラクションしない。車重があるのにエンジンは非力で走りは鈍重。

と、まさに「帯に短し襷に長し」ってやつだった。


H氏という先輩は、車もバイクも詳しく実際に走らせると速い人だ。

大学でダートラのサークルに入っていたそうで、車の遊び方を教えてくれたのはこの先輩だ。

この人がいなければ、きっと俺たちが走りに目覚めることはなかっただろう。


ある金曜日の夜。


「林道にいこうぜ」

「どこかいい山がありますか?」

「この前、七会村にいい林道を見つけたんだよ」

「いいっすねぇ。行きましょう」


この頃から同級生の09に乗る奴とはいつもつるんでいた。


周りの友人は峠を走るためにスポーツ系の車に乗っていたが、俺だけはこのクロカン系のトラックだったので、林道に行く際は俺のダットラの出番だ。


林道の入り口に着くと、H先輩が言った。

「俺に運転させて」

「どうぞどうぞ」

と運転を変わる。


H先輩の運転は豪快だ。ほとんど回転の上の方を使う。

「六千以下は使えねーな、二速でもトルクがありすぎて三速か迷うな」

「そんな上の方は普段使ってないですよ」

俺はそう返したものの、いまいち言っている事がわかっていない。


また、段差でのハンドルさばきも上手い。ハンドルを素早く切って戻したりする。

「段差を超えるときはハンドルをこじって斜めに当てるんだよ」

「曲がるわけじゃないのに、そんなハンドルを切るんですね」

助手席の俺から見ると、ハンドルを左右に激しく動かしているが、何をしているのかはさっぱりわかっていない。


さらに、クラッチワークが異様に速い。シフトノブの動きは「シュタッ」って感じだ。

「なるべく駆動は切っちゃダメなんだよ」

「そんなに早くギヤを動かすんだ」

そんな速いシフトは、Hの形に動かないだろ。


などと、金曜日の夜を満喫した。


次の日の土曜日。

「よし、昨日のH先輩の運転のイメージが残っているうちに朝坊山で試してみよう」


朝坊山で六千回転を試してみる。

リアタイヤがズルズル滑りながら走り出す。少し路面が荒れてくると荷台がピョコピョコ跳ねだす。

「段差はハンドルをこじる、と」

H先輩の真似をして、段差でハンドルを素早く揺するが、車体が左右に揺れて安定しない。

「おかしいなぁ、昨夜はこんな動きじゃなかったなぁ」

それでも、勢いは殺さず走り回る。


「クラッチを踏んだら、シフトはシュタッと」

クラッチを切った後、シフトに気を取られて繋いでいない。

「おっと、クラッチ踏んだままだ。危ねー危ねー」

などといろいろ試してみるが、やっぱり上手く行かない。


右コーナーが見えてきたので、少しだけ減速。クラッチを切ってギアは2速に切り替えて進入。コーナーの直前、そこに段差があった。

ボンと段差に乗ってハンドルが軽くなった。フロントタイヤが浮いた。そのまま接地感がないまま一瞬の間。

次に強いキックバックがハンドルに返ってきた。それと同時に林道脇の空き地へ、斜めにダットラの左フロントが突き刺さった。

勢いがついていたダットラは、そのまま林道脇の空き地で助手席を下にして横倒しになった。


俺はシートベルトをしていたので落ちることなく運転席に固定されていた。横倒しの運転席は意外に高い位置だった。

「やっちまった、どうしたもんかな」と思いながらベルトを外して、とりあえず運転席のドアを開ける。

上に開けるドアは「潜水艦から出てきたみたいだ」などと緊張感のない事を思った。


とりあえず、一通り横倒しのダットラを眺めてみるが、起こす手段が見つからない。

「まぁ、とりあえずJAFか」と考えたが、公衆電話をどうするか探さなければならなかった。


思いつくのは、池野辺の火の見やぐらの下の公衆電話しかなかったので、歩いてそこまで行くことにした。

JAFが来てくれることになったので、池野辺 of 火の見やぐらで待ち合わせて、現場まで道案内をしながら乗せてもらう。

一応、家に電話して親父にも「自爆して横倒しになった」事を伝える。

JAFが手際よくウインチで車体を起こして、林道まで引っ張ってくれた。

ダットラのエンジンをかけるとエンジンはすぐに始動した。白煙が沢山出たが2~3分で普通に戻った。

JAFによぉくお礼を言って、自分のダットラに戻る。


助手席側はボコボコだったが、エンジンに異常はないようだ。

「ほっ」とため息をついて、帰路についた。


俺がそんな事をしている間に、奴は俺の家に遊びに来たらしく、親父から俺が朝坊山で横倒しになったことを聞いて、86で朝坊山の林道に来ていたらしい。出会うことはなかったが、あの林道を86では奥には行けないだろう。


今なら、ハンドルをこじって斜めに段差に入ることでフロント二輪が同時に浮くのを抑えていた事もわかるし、コーナー前でH先輩はエンブレ+ブレーキでフロントに荷重をかけて浮くのを抑えていたこともわかるようになった。


あの頃はバカだった。いや、きっといまでもバカは治っていないが。


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