第一話 速い奴(クロッサーの奴)
大体、速い奴は人として大事なネジが抜けている。
俺は速くはならなかったのに、ネジが抜けている部分だけは変わらない。
昔々、茨城県の笠間市に「茨城スポーツランド」というモトクロス場があった。
ここは世にも珍しい立体交差のあるモトクロス場だった。オンロードでは鈴鹿サーキットの立体交差は有名だが、モトクロス場での立体交差は、後にも先にもここしか聞いたことがない。
入り口を入って、すぐ左に大きな駐車場があったのだが、そこはただの土でできた広場のような所だった。バイクはオフロードバイクかモトクロッサーなので全く困るような所ではないが、トランスポーターのワンボックスなんかは、雨が降ると簡単にスタックするような、本当にただの土の広場だった。
コースに出るには、その駐車場から高台に登る必要があった。高台の上は幅が広く、モトクロス特有の横一線に並んでスタートすることができるだけのスペースがあった。ざっと30mほどはあっただろうか?
そのスタート位置からストレートになっていて、最初のコーナーは左に曲がる。
曲がった直後から下り坂なのだが、その坂は下りのウォッシュボードになっている。
そして、そのウォッシュボードを下り切ると、次は180度のヘアピンになって、同じ斜面を駆け上がる急な登りになる。
このコースの構成は、初心者が走るようなレベルのコースではない難易度の高い仕掛けが、いきなり出てくるのだ。
俺達は週末になるとこのコースをよく走っていた。
友人のKGは、頭のネジが抜けている典型的な男で、信じられないくらい速い奴だった。世間一般で言う「バイクバカ」というやつだ。仲間内では「バカがバイクに乗っている」という意味だったが。
こいつは、この下りのウォッシュボードも得意で、めちゃくちゃ速かったので、ある日、走りを見せてもらおうとウォッシュボード横のコース脇で立ち会うことにした。
第一コーナーを豪快に曲がった後、俺が立っているのが目に入ったようで、KGがヘルメットをかぶった頭でうなずいた。
そして下りウォッシュボード。
すごい速さだ!と思った。頭の位置がほとんど動かず、マシンだけが上下に動いて、カッカッカッと音を立てて走り抜けた。
まるでスーパークロスの選手のような動きだった。
……が、下りきった先のヘアピンで明らかにスピードが落ちていない。
そのままバンクを超えて、林になっている崖に消えていった。コースアウトしたのだ。
「おいおい大丈夫かよ!」「やばくねーか!」と思ったが、どうすることもできず、とりあえず他の仲間もいるので、歩いて駐車場に戻ることにした。
バイクでは一瞬で走り抜けるストレートも、歩くとなると結構遠い。
小走りになって息を切らしながら駐車場に戻って、仲間達に
「KGが崖から落ちたんだよ!」と伝える。
「えっ!マジかよ!」
「とりあえず見に行くか」と、何人かは動き始める。
そんなことをしていると、まるでツーリングから帰ってきたかのようにKGがモトクロッサーで駐車場に現れた。
「いやー、落ちちゃったよー」と別に普通だろと言わんばかりに笑っている。
「俺のはモトクロッサーだから崖でも降りられたよ」
「そのまま道に出たから道を走ってきた」
と、本当にあっけらかんと言う。
「モトクロッサーだからって、崖だろ?」
「サスがいいからw」
「それで済むのか?」
「モトクロッサーで公道を走ったのかよ」
「タイヤ減っちゃったかな?」
「そういう問題じゃねーだろ」
駐車場は爆笑に包まれた。
今ではいい思い出だ。あの頃は、まだまだいろいろ緩い時代だったなぁと思う。




