守るべき者
リサリアの部屋には、今日買い物をした沢山の荷物が運ばれていた。
「荷物、運んでくださってありがとうございます」
「い、いや!こんなの簡単ですから!」
ひかりはぺこりと頭を下げて騎士達にお礼を言うと、青年達は顔を赤らめ笑顔で応じた。
だが、リサリアの方へ視線を向けた瞬間、全員がサッと青ざめて「では失礼します!」と揃って部屋を飛び出していった。
「礼儀正しい青年達だなあ」
ひかりは感心して微笑む。
ひかりちゃん、全っ然わかってないわね…!
リサリアは内心で額を押さえた。そして後ろからひかりをぎゅっと抱きしめると、真剣な声で決意表明をした。
「ママが守るから!!」
「は、はい?ありがとうございます?」
***
その夜、ひかりが眠った後。
騎士団の会議室には、団長ガルド、副団長リサリア、文官の室長、そして各部隊の隊長達が集まっていた。
議題は「国の保護対象である異世界人、ひかりをどう守るか」「若手のバカ共をどうするか」だった。
「明らかに平和な国で育ったのだろうな。警戒心が薄すぎる」
老齢の騎士が渋い声で言うと、別の者も腕を組み唸った。
「男女の機微にも疎い。成人しとるんだよな?」
「まあ、あの見た目じゃあな……若い奴らが騒ぐのも無理はない」
「騎士団で保護し続けるのは、難しいのかもしれんなあ」
「可愛いですもんね、ひかりちゃん」
三十代の騎士がへらりと笑うと、リサリアが眉を寄せた。
「でもあの子は、私達を心の支えにしているわ。
彼女……隠してはいるけど寝起きの時は怯えていたの。私達を見て安堵してるのよ」
その言葉に一同が静まり返り、ガルドが重たく息を吐いた。
「……そうか。そうだよな。知らない世界に、たった一人で放り込まれたんだ。怖くて当たり前だよな」
「守ってくれる私達に、全幅の信頼を寄せてるのよ」
リサリアは布団にくるまり、泣きそうな顔でこちらを見上げるひかりを思い出し、痛ましい表情を浮かべる。
「なるほど。だからこそ、ここでは警戒心も持てないのですね」
文官の室長が静かに頷いた。
ひかりにとって騎士団は、頼れる唯一の居場所だ。もし人を疑えば、その拠り所さえ失ってしまい、立っていられなくなるだろう。
「……じゃあ問題は、あのバカ共だけだな」
四十代の騎士が苦笑しながら締めくくり、ここにいる面々のため息と共に会議室の空気が重たく沈んでいった。