それぞれの行く先①
なんかみんな驚いてるみたいだけど、この光景は見たことあるだろうって思う。
入学当初もそうだし、キャンプの時なんか被害者だったじゃないか……忘れちゃったのかな?
「ここまでやるとはな、大したもんだ秋緋」
驚いちゃいたけどしっかり褒めて頭を撫でてくれた親父。どうだ、息子の成長は嬉しいだろう、ふふん!
「この子が叔父さん?」
あぁ、千樹は初めてか。そうじゃなくてもさっきまで人だった叔父さんが猫になってるんだ。そんな顔にな――。
「か、かわわわわぁ……」
そんなに気にしてないみたい。ボコボコにしてたとか言ってたし、元の姿の方は身内とはいえ好きじゃなかったのかも。
「可愛いって思ってくれてよかった……で、だ、千樹、お前にお願いがある」
「え、なにかな?」
「まず、勝手なことをしたことを謝る、ごめん……人間の時の記憶も、思い出も、全部、見えなくしたこいつは、絢峰瑠鬼だ」
「……」
「俺は千樹の命を、身内の命を使ったことに一番腹が立ってる。だから殴ってやったし、相応の報いを受けてもらった……家同士の問題もあるし……でも俺は――」
「あーちゃんは、命を奪うことはできない、したくないんだもんね」
沙織里の言う通り。だから、違う形でも絢峰瑠鬼を……って。
「俺なりのやり方にはなったけど、こいつをもう一度、家族として迎え入れてくれないか?」
自分の欲の為に、弱い自分を恨みながら、ずっと暗い闇の中で生きた絢峰瑠鬼に、俺の家族みたいに、温かい記憶と思い出を与えて、もう一度、生きてほしいって。
「ほんとうに、秋緋くんは……うん、わかった」
「ありがとうな、千樹……頼む」
俺の腕の中で寝息を立て始めそうなくせっ毛の黒い子猫と俺の手を重ねて、千樹に受け渡した。
「不思議……陰険で根暗でヒジキみたいな叔父さんがこんなかわいい猫ちゃんになるなんて……ふふ、よろしくね、ルキちゃん」
やっぱり嫌いだったか……でも、猫は好きみたいだからとりあえず大丈夫かな。
「丸く収まったかしら?」
唐突に口を開いた珠ちゃん先生。なんだろ、ちょっと冷たい感じ?
「おう、珠子。ありがとうな、助かったぜ」
「珠ちゃん先生強いんだな、びっくりした。俺からも、ありが――わっちょ?!」
グンッと引っ張られる感覚。
誰かに引っ張られた、けど、それは、俺が伸ばしている東雲に繋がっている糸が突っ張ったせいでだ。
そういえば東雲、珍しく近くに来てない。
「東雲九守」
「……い、っや、っやぁぁーー!」
ぐいぐいと珠ちゃん先生の方に引っ張られていく東雲につられて俺まで引っ張られていく。できる限り近づかないように、俺と東雲をつなぐ糸の長さを、東雲が極端に短くしている。
なにが起きてんだ?く、がみ?ってなんだ?
「おい、珠子。まさかとは思うが、東雲がお前の分身のひとり……とか言わねぇだろうな?」
親父が問うと、
「見たらわかるでしょう~?やぁっとみつけたし、さっき約束もしたし、ねん?」
「俺は考えるっちゅうたんや!約束なんてしとらんやろ!!」
まてまてまて……確かに、尻尾の数がおかしかったし、俺んちで風呂入ってた時に九尾だけど今は違うのとか言っていた。
今も俺の部屋で太々しく寝ているだろう子狐ちゃんも分身だし、同じキツネの妖怪である東雲がそうであってもおかしくない。
「僕もこの展開は読めなかったな……秋緋、どうする?」
「どうするって……」
そんなの、決まってる。
「珠ちゃん先生……悪いけど、東雲と俺は切っても切り離せない関係になってる。尻尾みたいに簡単に切り離せないんだ」
「秋くん……このタイミングでそないうまい事言わんといて……嬉しいけどわろてまう」
「笑え笑え!それでこそ東雲だろうが!ってわけだから――」
直接縫い込まれた糸の力は、相手がどんな強い力を持っていても、負けないんだぜ?
「あら……あらら……やだ!【不視】なんて卑怯よぉ」
今日の俺は調子がいいんだ。なんでもできる。
珠ちゃん先生に近づくより、東雲に使った方が早い。俺の元に引き寄せて、胸に手を当て【不視】を施す。
「東雲は考えるって言ったんだろ?無理やりなんて、ダメです!」
東雲に『珠ちゃん先生は東雲を見ることができなくなる』ように。これこそ、夜兄が使った【不視】の使い方だしな、東雲もさぞ嬉しかろう。
「ふつうは戻りたがるものなのだけれど……いつの間に……九守の名に恥じぬ、守るものを見つけてしまったってことかしら……はぁ」
さすがに諦めたようだ。見えないんだから、引き寄せようもない。ため息をついて、人に化け直した珠ちゃん先生。
「ははは!……俺の息子はすげぇだろ?」
「……ただの悪知恵よ。でも、仕方ないわ、どうしようもないもの。その子は貴方に預けるしかないわね……行きましょ紅司郎ちゃん」
「あ、ああ、そうだった。一般生徒ほっとけねぇな。戌井、すまねぇが砂城グランドホテルまでそいつら送ってくれ、俺たちは先にいかにゃならん」
「ほっほっほ、無事に送り届けますよ」
拗ねてふくれている珠ちゃん先生を連れて、親父は宿泊先へ飛んで行った。一瞬抜け出しただけかもしれないけど、生徒だけで先生がいない状態が長く続くのは色々問題があるしな。
「秋くん……ありがとう」
「ん?なんだその顔、今度は泣きそうじゃんか。、もっと泣かせてやろうか?ちーとみーと一緒に、夜兄に終わったことを報告しにいってきてくれるか?」
「うん、うん!行ってくる!……案内よろしゅうな!」
「ちー!」
「みー!」
いつの間にかイケメンから鳥に戻っていたちーとみーを肩に乗せて、東雲も飛んでいく。まだ長くは持たないのかな?俺としては鳥の方がなじみがあるし、しっくりくるからそのままでいてほしいけど。
そして、残ったのは俺と壱弥と、沙織里と千樹と、戌井。
「あー!絢倉さん、猫さんもいるから、僕たちは、先に行ってようよ!さぁ、戌井さん!くるまはどこにありますか!」
「……ほっほ!そうですな、参りましょうかぁ」
「え、あ、はい……?」
明らかに棒読みで、わざとらしい言い方をして、壱弥は戌井と千樹を連れて墓地を離れていく……気を使われたな、これは。
「あーちゃん、おつかれさま」
「ん、あぁ……沙織里も……ほんとごめんな」
笑顔が眩しいぜ。なんだかんだ、立て続けに色んな力を使ったから……さすがに、疲れた。
「んじゃ、俺たちもいくか」
「そうだね、お父さんにも無事だって伝えなきゃだしね!」
……忘れてた。疲れたなんて言ってる場合じゃない、いちばんの難関が残っていたことを。
『最後までやり遂げてこそ、愛し子の伴侶として――』
うるさい!いつの間にか撤退して姿を消してたお前が言うな天使!




