不視
さて……こっちは無事に済んだが…絢峰瑠鬼の妖怪たちはどうなったかな?
主の力が途絶えているはずだから、契約で縛られていたのであれば、解放されているはず。あとは千樹にかけられてた秘術の方も確認しなきゃな。
一応、完全に【不視】になるように、ぶっ叩いてやったから、絢峰瑠鬼は絢峰瑠鬼ではなくなってる。
うっかり触って猫っぽいへんなのになったり、俺だけが何故か猫に見えていて、触っても猫だったりはもうしていない。
夜兄がやった【不視】の利用法もちょっと応用したりしてみた。やったことは、人を人で無くし、本人が持っていた今までの記憶も、思いですらも『見えなく』して……そう考えると、俺は一人の人間を殺したも同然なんだろう。
「……やりすぎた、かな。でも……それでも、これからのこいつの――」
ドーーーン!
いや、なんだ?自分のした事に向き合って心を痛めている時に……あ。
そういえば周辺の様子は変わってないな?未だ妖怪大戦争の真っ最中……?
「…っ!秋緋!なに突っ立ってるの!避けて!!」
「え?」
壱弥が慌てた様子で俺に向かって叫んだ。その声に、俺は気付いたのだけど、見覚えのある色の火の玉が飛んできていて……。
「ほっほっほ……周辺にもう少し気をかけませんと、いけませんなっ……!」
上空から白い閃光と一緒に、戌井が降ってきて、火の玉が細切れになって地面に落ちてくすぶる。
「鼻が利くのも考え物ですな……例の人物の残り香にあてられてしまいまして、遅れてしまいました。申し訳ございません」
「そんなこと……来てくれて助かったよ、ありがとう、戌井」
「ほっほっほ……紅司郎様も間もなく参ります。それで、この黒い煙なのですが……」
相変わらず、凄腕の剣士だ。ここ最近は本当に家を守っているくらいらしいけど、小さい頃はその剣術を演武として見たことがある。全然衰えなんて感じない……俺もこんなかっこいいじいさんになりたいもんだ。
絢峰瑠鬼が妖怪を出した時、一緒に溢れた黒い煙……そいつが西洋墓地全体に、まとわりつくように『いる』らしい。
いる、って言ったってことは、この煙自体が妖怪だって意味になる。来るもの拒まず、去る者逃がさず……絢峰瑠鬼みたいにやな感じのことしてくるなぁ。
「あまり吸い込んではなりませんぞ?我々にも毒になりますが、霊力のある人間が吸い込むのもよろしくはないでしょう……秋緋坊ちゃんは防ぐ力がお強いようですので軽く済んでいるのでしょうが……」
おーけい、戌井。
ちーとみーは神鬼だから浄化の力も強そうだし大丈夫だろう。
沙織里と千樹には天使がついてて……うん、ちょっと離れたところで明るく光ってるから、結界で守られてるって感じだな。
壱弥はさとりの子だし、当然わかって行動してるはず。さっき叫んだ時も平然としてたし、こっちも大丈夫。
残った東雲は……走りまわってたから息が上がってる。だけじゃないな、きっと、相当な毒の煙を吸い込んでいる。いつもより早くバテてる感じか?
「ヒロインらしく、癒しの力で救ってやるとしますかねぇ?」
糸を通して、悪いものを浄化する。
ま、これも防呪の力からできる解放と、同じことだろ?
遠目でもわかるくらいキラキラした表情と声で「秋くんありがとぉ♡んっま♡」ってさ。
「なんだろう、急激に力を送るのがめんどくさくなった」
「秋緋坊っちゃん、成長なさいましたなぁ……おや?」
戌井が気づいたのは、誰かが走ってくる音。誰だかもうわかる、さぁ、俺たちをこの黒い煙の中から出してもらおうじゃないか。
「かっこいいところ見せてくれよ、親父っ!!」
ヒェァァァァァァ……ッ!
と、上空から声がして、ザァッと音がするくらいの勢いで煙が渦を巻いて消えていく。上を見上げると、どうやって滞空してるのかわからない親父と、針で串刺しにされた黒い煙と布の体をもつ妖怪が、グネグネと痛みで叫びながら、消えていくのが確認できた。
スッと、一見天女の如く下りてきているが、黒い煙より毒なんじゃないかと思うほど化粧が崩れたルージュこと、俺の親父が地上に足を降ろした。
「すまねぇ、生徒たちをホテルまで送って待機させて……遅れた、無事か?」
「一応先生だしな、大丈夫、俺も千樹も、みんなも無事だよ」
煙が晴れると、それぞれと対峙していた妖怪たちの動きが止まって、戸惑い、困った表情でおろおろとしだした。
「絢峰瑠鬼のちゃんとした契約妖怪は俺が消した奴だけだったようだな……煙の毒気を使って意識を操って、正気を失わせてたんだろう」
「うん、そうだよ……叔父さん弱いから、頑張ってあの子だけと仲良くしてた」
絢峰瑠鬼自体の力は、妖怪ひとり使役する力しか持ってなくて、そいつと深くつながって、自分ではなくて妖怪の方を強化していたかんじか。
今みたいに、俺たちの妨害があるだろうことを見越して、なんでもいいからとっ捕まえて、妖怪を操らせてたってことか。
そりゃ表立ってドンパチやらないわけだ。親父の仕事先に現れたのは準備ができたぞー!って調子に乗ってただけかなこりゃ。
「ふう……」
【不視】の力の影響力が強いのはわかってきていたけど、こうも簡単に、俺の望む形で打ち込めたのは、相手の力量が下回っていたせいもあったのかな。
「んなぁぅ~」
「秋緋くん?その子猫は……?」
散り散りになって逃げていく妖怪たちを見送りながら、俺が抱えていた黒い毛玉に気付いた千樹が聞いてきた。
ので、お答えしよう。
「ん?あぁ、絢峰瑠鬼」
「「「えっ」」」
俺の周りに集まってきたみんなが驚いて声を上げた。
ま、そりゃそうだよな。




