お久しぶりです
外観もさることながら、礼拝堂も神聖な雰囲気を感じさせる美しい造りの聖ファンテーヌ教会。砂城市唯一で、大きな教会だ。
正面にある温かく光が差し込むステンドグラスに描かれた美しい女性、沙織里。
その下、中央に置かれている聖壇に設けられた像の女性、沙織里。
全方位の壁に描かれている壁画、描かれている天使の一部に沙織里。
あからさまにわかるような作りにはしてないようだが……付き合いの長い俺たちにはすぐわかる、ここの神父の異常さが。
「ハイ、みなサン!はじめまして、神父のウォルクといいマァス!今日と明日、しっかり学んでいってクダサーイ!困ったこととかあればなんでも言ってくださいネ!」
聖壇の前で生徒を迎えたのは、金髪オールバックのイケオジ。
ハリウッドの俳優にいてもおかしくない顔立ちに、一部の女生徒は頬を赤らめている。
沙織里の父親のウォルク・古泉・ヴァーデンロイド。
俺は知っている。この片言は嘘。実際は日本語ペラッペラ。受け狙いかなにかなのだろうか?
総勢40名ほどの生徒たちは神父の周りに集まって質問タイム。
この人数だ、俺に気付くことは無いだろうけど、一応姿勢を低くして身を潜め様子をうかがう。
「今日はよろしくおねがいしますね、ウォルク神父、さん?」
「……こちらこそデーース」
隙間から見えたルージュと神父が握手する光景。表面上はにこやかだが放っているオーラがお互い禍々しい。
沙織里が【筒師】を目指して頑張っているってことは、もちろん俺の親父とも面識があるってことだ、師匠だからな。
娘を奪っていったひとりとしてカウントされているせいで、仲は良くないのは当然だろう。
そ、親子そろって嫌われてるってわけ。
しばしの質問タイムを終え、次は施設案内へと移るようだ。少しずつ移動を始める。どうにか紛れて、しずかに移動しなきゃと思ってたのに。
「秋緋ー?なにしてるの?早く来ないとおいてかれるよー?」
壱弥の声が礼拝堂に響く。音響は最高だ。ミサの歌声もさぞ綺麗に美しく響いているんだろうな。
おかげで見ろ!神父がピクッと……止まったじゃないか。
「あ……おひさしぶりです。こんにちわ、お父さん……」
「ファッ………キュゥ……ッ!」
恐ろしく怖い声と顔で放った言葉がこれだ。一応神職だろ、いいのかこんな発言。他の生徒がいる手前、この一言だけで収まったのはいいが、俺がいるということがバレたことが恐ろしくてたまらない。
小さい頃、優しかったはずの沙織里のお父さんがなんで急に怖くなって変わったんだろうってわからなくて、その怖い顔と怖い声が植え付けられてトラウマみたいになって、委縮してしまう。まぁ、当時より精神的にも成長はしているから、少しくらい対面しても逃げだしたりはしないけれど……やっぱこえーな。
最初に案内されたのは、併設されているシスターが居住している建物。ここは入れないから外側から見学。昔ながらの厳格な生活をしている様が遠くからでも見える。
歴史を学ぶ側じゃない生徒たちも興味を示していた。
そして次は墓地。
こんなところ見せる必要なんかないだろうに……と思ったけど、西洋式の墓石と十字架が、規則正しく並んだその光景はなかなか見ごたえがあった。小さい頃より、数が増えているせいもあるんだろうけど、ここだけ本当に外国に来たかのような錯覚に陥る。丘の上だし、日当たりもよくて、天に近いその場所は神秘的だった。
しばらく来ていない間に、結構変わっていたな。
あの頃はこの教会も出来たばっかりだったし、一番デカい礼拝堂以外はそこまで整備されてなかった。木々もたくさんだったから、いい遊び場になってた……なつかしいな。
そんな思い出に浸りながらまた礼拝堂に戻る。
お昼までまだ時間あるけどなにするんだろう?珠ちゃん先生が生徒たちに席に座るように声をかけていく。
全員着席すると、シスターたちが礼拝堂の扉から整列して入室。
聖壇の前に並んで……、
「皆さんを歓迎して、シスターたちの歌をプレゼントシマース!オキキクダサーイ!」
日本人にはあまりなじみがないだろう、ミサで歌う曲を披露するらしい。これには外国語の【特選】の生徒は大喜びだろう。
オルガンの伴奏と、シスターたちの美しい歌声が礼拝堂に響く。俺もまともに聴いたことがなかったから、これには感動した。沙織里も歌えるんだろうか?だとしたら、本当に綺麗だろうな。
あれ?
そういえばどこにも沙織里の姿がない。見学は始まっているし、ここにいないはずはない。この後なにかサプライズでもあるんだろうか?
「なぁ壱弥」
歌の邪魔にならないように、隣に座っている壱弥の耳元に小声で話しかける。
「沙織里が見当たらないんだけど、なにかきいてるか?」
「古泉さん?そういえばそうだね……僕もなにも聞いてないけど……」
壱弥もなにも知らない?と、すれば親父に聞くか、お父さんに直接聞くかになる。
考え事をしていたら拍手の音がけたたましく響きハッとする……終わったみたいだが、余韻に浸っている場合じゃない。
「おや……ルージュ先生!沙織里は今どこにいるんだ?」
「え?しばらく休みだって連絡もらっているけど、どうしたの?」
おいおい、まじかよ。俺には昨日、連絡あったぞ。
「待ってる」って……仕方ねぇ。怖いなんて言ってる場合じゃない、呼び出した本人に聞くしかねぇ。
ちょうど昼の時間になる……今日、ここで自由に動けるのは今しかない。席を離れ、各々昼食に向かう生徒たちをかき分けて聖壇の隅でシスターと話をしている神父の元へ急ぐ。
「お父さん!!聞きたいことがあります!!」
俺の声に反応した神父ウォルクが睨みを利かせて俺を見る。
「貴様と話すことなぞない。とっとと消えろ、クソガキが!」
ひぃ……こわい!こわい、けど……!
「沙織里……さんは、今どこにいらっしゃいますでしょうか……っ」
目を閉じて精一杯の勇気を振り絞って大きな声で……その言葉を聞いた神父は怪訝な顔をする。
「沙織里はこの間の週末の祭事の手伝いをした後、そちらに戻っただろう?なにを言っている」
「お父さん、それは本当ですか……」
「……なぜ嘘をつく必要がある?」
血管の浮き出ている神父の顔を見て噴き出る汗もあるが……いやな汗がでる。
「秋緋……もしかして、僕ら油断してたみたいだね……」
「あぁ、やらかしたってもんじゃねぇ」
自分のことに精一杯すぎたんだ。
絢峰瑠鬼……こいつは親父の仕事の場にも現れていた。ってことはこっちのことをある程度監視していて、把握しているってことだ。
「なんだ?どうした?沙織里も来ているのか?」
「お父さん……大事な話があります」
聞いてしまったから、こちらの事情も話さざるを得ないだろう。もってくれよ、俺のメンタル……!




