転校生と危険な社会見学?③
絢峰瑠鬼が絢倉千樹にかけた、呪法【秘術ななつぼし】
「頭、右腕、左腕、右足、左足、そして心臓。そこに縛りと共に杭を打ち付ける……後はそのまま縛りにしたがって動くだけ、最後の縛りが発動した時点で呪法を施された対象は死を迎える」
聞いただけだがすごい痛そうに感じる。
絢倉は自覚なくいるみたいだから、リアルな杭ではなく、霊力で作られた特別な杭なんだろうけど……ゾワゾワするな。
「目に見えて発動しておるのは2つじゃが、それが出る前までになんらかの形で使われておれば、夜の言っていた通り時間がないということになるのう」
「転校初日から邪気のようなものが広範囲で垂れ流されているのは確認してます。もし、それが杭の縛りひとつだとすれば、3つになるかもしれないです」
まるで人形……操り人形。夜兄も傀儡師で人形を使う時があるけれど、それとはまったく違う『人形』の利用法。
「たしかに呪法自体は人間が作ったもんだ。でも、こんなもんを使う必要のない今の時代にわざわざ使ってくるってのは、よっぽど昔に囚われ、取り残されてる古臭い脳みそ持ちの糞野郎だ」
昔、か……絢の一族ってのはいったいどんな生き方をしてきたんだろう。
絢倉千樹は、今はごく普通に、高校生として学校に通っている、ただそれだけで、俺たちと変わらない。
「……秋緋」
「ん、なに親父」
「呪法が分かった今、お前が使えるようになった防呪の精度を高めにゃならん。と、言うことで社会見学の時に俺とマンツーマンだ!いいな!」
うっわ結局か……それ思いついたから復活早かったわけね。うん、まぁ……さっきの申し訳なさもあるから受けてもいいけど……。
「その必要はないぞ紅司郎?秋緋は解放まで使えるようになっておる」
またしても空気が凍った。
あのあれ、本当に大事だったんだ…臭かったけど夜兄さまさまだったんだ。
「……そうなの?」
「あー……うん、一応」
「お父さんいらない……?」
「あ、いや、いらないわけじゃないっつうか……そんなに俺に構わなくて大丈夫……っていうか……」
結緋さんも悪びれなくサラッと言うもんだから……あーあ、茨木は笑いをこらえ……壱弥もかよ。
俺も……自分だけなんでいつもこんな目に合うんだー!とか思ってたけど、親父も割とかわいそうな扱い受けてるっぽい、さすが親子ってか?
「解放まで秋緋ができるってことは、直接絢倉千樹にかけられている秘術を解除するのは任せていいってことでしょうか?」
いじけてすみっこ親父になっている親父を余所に、壱弥が今後の話を進めようと笑いを飲み込んで口を開いた。
「夜が西の当主と話をして本家とは直接関わりがないことも分かったからの、様子見はもう終わりじゃ。厄介者の対応はこちらの好きにしてもよいという判断をしてもよいじゃろう」
結構物騒な話してる気もする、好きにしていいっていうのは……。
西の本家も手をこまねいているのは確かなんだろう。本当はどうにか和解して、統一したいって思ってるはず。でも、実害が出てしまっている。だから、最終的な方法は東の……真砂の判断に委ねるしか無くなったんだろう。
それが今回の件の、東と西の和解条件。
「秋緋様」
「なんだよ、茨木」
「今回の件は我々妖怪が関わっているものではありません。人間同士の問題です。それを踏まえて、よく考えて行動しなければなりません……利用されている者に関していえば、私ならこのまま放置し、秘術の最後の瞬きを退けて死を迎えさせる手を取ります」
妖怪らしい、いや、鬼らしい考えか。
弱い者、利用されてる者は切り捨てる……あえて俺にその考えを伝えるってのは……。
「お前、実は俺のこと結構好きだろ?」
「馬鹿言わないでください、姫子様が私の判断を秋緋様がしたら悲しむからです、好き嫌いなどどうでもいい」
「へいへい、そういうことにしとくわ」
ふんっと、そっぽを向く茨木を見て俺はにやりと笑った。
はっきりとは言ってないが、しっかり責任もってお前がやれって言ってんだろう?わかってる、そのつもりで昨日の夜、先生方にしごかれたんだから。
「珍しいね、秋緋がやる気になってるの」
「珍しいはよけいじゃ……俺はバチバチにやりあうのは苦手だし、妖怪だろうと人間だろうと、傷つけあうのは嫌いだ」
「そうじゃの、秋緋は顔は怖いが心は優しいからのう、うんうん」
ちょっと一言余計な気もするけど、
「戦って倒すんじゃなくて、手を差し伸べて助けることが俺にできるなら、俺はそれをやり遂げてやる」
俺の決意をみんなに伝える。
「なんだかちょっと変わったね、秋緋……じゃあ僕は秋緋の苦手なバチバチにやりあう方を任せてもらおうかな?ね、師匠?」
そう言って壱弥はすみっこ親父に話しかける。が、反応はない。
「まったく……いつまで落ち込んどるのじゃこの男は……デカいのは態度と図体だけじゃのう」
「同意します……僕に任せてください」
呆れ顔の結緋さん。みんなの視線が親父に向けられ、壱弥は親父に近づいてなにやら耳打ちしている……結構長いな。
「……っ!っ!!」
「ふう、これでたぶん大丈夫」
わなわなと震えながら元気いっぱいに立ち上がった親父。どうやら完全復活したようだ。
「よおおおっしあきひいいい!!」
「おわっなに!?」
叫ぶ親父にビビる俺。
ひとりひとりの肩をバシッ、バシッと叩いて俺に近づいてくる。ルージュの時とは違う妙な圧に、俺は自然に一歩引いてしまう。
「俺は嬉しいぞ!さぁ秋緋!!一緒にがんばろうな!な!」
「あ、うん……が、がんばるわ……?」
勢いに負けて了承してしまった。
「おい、壱弥、親父になに吹き込んだんだ」
「え?あぁ、それ?」
『師匠、よく聞いてくださいね。秋緋は師匠……お父さんのことを一番に思ってるんですよ?だから、お父さんにサプライズで驚かせて、喜んでもらおうとしたんです。師匠みたいな仕事をしているとはなかなか家族と一緒に楽しく過ごしたりすることがままならないでしょう?だから……甘えたかったんですよ。それに、先にできるようになることで、師匠の力になってあげたいと思ったんじゃないですかね?だから、そんな姿みせちゃってたら、秋緋も悲しんじゃいますよ、さ、立ってください。そして、秋緋にとってかっこよくて、尊敬できるお父さんしてください?』
「こんなかんじかな?」じゃないよ、なに言ってくれてるのよ君は。それじゃまるで俺が親父大好きみたいじゃないか。
「お前……なんてことしてくれたんだ」
「そんなこといって、結構好きなくせに」
啖呵を切ったものの、俺はこの先どうなるんだろうと不安に思ってはいた……元気に笑う親父を見て、少し安心したのは、本当だけど。




