転校生と危険な社会見学?②
パックに残った牛乳をズゴゴゴと飲み干し、結緋さんが来るのを待つ。
まぁもちろん、静かに待っている、なんてことは無いわけだけど。
「だーっはははははははっははは!!た、たしかに!お前たしかにそうだな!はぁーっ!けっさくだぁぁっははは!!」
「大丈夫だよ、秋緋、僕は、なにも変わらないから、ね?」
防呪の修行の件は黙ったまま、襲われた後に温泉に連れて行ってもらった、ってことにして昨日の話をした。
だって、漫画やアニメじゃかわいらしい女の子がヒロインとしているだろ?俺がその対象になるっておかしいじゃん!って思って……そしたらどうだ、この反応。
親父は涙出るまで笑ってやがるし、壱弥はさっきまでの心配の表情そのまま、俺の肩を叩いてくる。
「そんなに笑わなくてもいいじゃん……」
そんなことないよ、って誰一人言わない。背中までさすってくる。
「はぁぁ……ふぅ、久々にこんなに笑ったわ、ありがとうなぁ」
こんなにうれしくないお礼は初めてかも。
「それはそれとして、今度の社会見学の話を聞きたくてきたんですけど、いいですか?」
えぇ?俺の話置いとくの?あれ?もしかして俺の心を読んで気を使ったの?そういうこと?優しさだとでもいうの壱弥くん?
「ん?ああそのことか……一応、明日正式に生徒に連絡ってなってんだけど、まぁ隠し事でもねぇし言ってもいいか」
なんかもったいぶって俺を見てる……ほっといてくれ、さっさと進めてくれ。
「珠子とのクラスと一緒なのは、俺が受け持つ生徒が少なく、それぞれ別れてしまうと費用がかさむからってのが理由だ、学校側のな」
【特選】は親父と珠ちゃん先生のところだけじゃない、人数も多いところ、少ないところでまちまちだ。
それを考慮して、学校は方向性が近いクラス同士を合わせて目的地を考えたりする。
入場料のかかる施設に行く行程があるなら、団体割とかの利用もしたいだろうし、出向く先の宿泊施設の関係もある。
方向性ってなると、親父と珠ちゃん先生のところは……似てない気もするんだけど。
「場所は、聖ファンテーヌ教会だ」
……は?
「思いっきり地元じゃないですか……でも確かに、外国語の特選と、名目上歴史ってなってる師匠の【特選】を絡ませるとするなら、ありですね」
「そういうこった!長期旅行でもない、さほど遠くでもない……結構な大所帯になっても、地元なら宿泊施設の融通も利く。そして、ある程度歴史のある場所でもあるし、神父も外国人で珠子の生徒も直接言葉に触れられるいい機会になる……だろ?」
にやりと笑う親父。さすがだろ?みたいにキラキラした目で俺を見るなと。まぁでも、これで沙織里が実家に帰った理由が分かった。
そう、沙織里の父親は聖ファンテーヌ教会の神父だ。
場所がすでに決まっているってことは、許可は得ているってことだから、もちろん沙織里にも連絡がいっているのは当たり前だ。お父さんが沙織里を呼び出した理由まではわからないけど、大人数だしなにかしら準備があるんだろう。
「僕はもう少し珍しいところが良かったけど……わかりました、せっかくだし僕も合間をみて実家に顔を出そうかな」
壱弥の言ってることも分かる。せっかくなら、こういう機会でしか行けないようなところに行きたい……まあ、他の生徒にとっちゃ珍しい場所になるんだろうけど。
「それに秋緋の防呪の指導もしやすいからな!覚悟しとけよ〜?ふふふふ!」
「あれ?秋緋、それもうできてるよね?」
あ、まずい。
「へ?」
「あ、いや……」
まさかここでサプライズ発動。
こんな気まずい空気は喧嘩した時以来、一気に場が凍り付く。
じーーっと俺を見る親父……壱弥でも気づいたんだ、さっきは試験管のことで気を向けてなかったけど今は……気付いてしまうだろう。
ぐっと唇を噛み、途端に悲しい顔になる。
「結緋に……教えてもらった、のか……?」
「あ、あぁ~……うん、夜兄も一緒に、だけど……」
「俺と……約束したのに?」
いや、別に約束はしてなかったはずだが……どこかでそう変換されてしまったらしい。それくらい、楽しみにしていたんだってこ……だと、思う。
「僕、まずいこと言っちゃったかな?」
「いや、これは俺も悪い……ちょっと驚かそうって思ってたんだけど、ここまで親父がダメージ受けるとは思わなかった」
どこを見つめているのか、親父は完全にフリーズして魂が抜けたように立ち尽くし、手に持っていたコーヒーの缶がするっと落ち、カランカランと音を立てて床に転がった。
ガラッ……
と、扉が開いた。なんというタイミング。
「な、なんじゃ?どうしたのじゃ?紅司郎が真っ白じゃぞ…?」
「おや、本当ですね、これは面白いことに」
結緋さんの、ご到着だ。
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「むむむ……そういうことか、それであんなことになっておるのじゃな?」
固まって動かなくなった親父を茨木に頼みベッドまで運んでもらい、壱弥から事情を聞いた結緋さん。
申し訳なさそうに、親父がいるベットに視線を送る。
「さぷらいずと言い出したのは私じゃから、秋緋は気にすることはないぞ、後でしっかり謝っておくから」
よしよしされた。俺がしょげた顔をしているのは、親父に申し訳ないというより、結緋さんが自分のせいでって思って落ち込んでる方が心配なのだ。
親父に対して冷たいと思うだろうが、大丈夫、親父は強い……一応あとで、フォローするつもりだし。
「しばらくすれば意識も戻ってくるでしょう、姫子様もそんなに気にすることはございませんよ?それより、情報が手に入ったのか?の、方が大事ではないかと」
茨木は本当に男はどうでもいいらしい。扱いが俺と同じだ。
「えっと、じゃあ、僕からで申し訳ないですが、さっき師匠から聞いたことをお話しても?」
壱弥がゆっくりと話始める。
「あの物体から出た妖怪言語から読み取れたのは、絢倉千樹の力を利用している呪法と、その術師、絢峰瑠鬼という人物の簡単な情報だそうです。詳しい呪法は師匠に聞かないと、僕には読み取れなかったので申し訳ないですが」
絢峰……苗字が違うのか。一族の人間同士とはいえ、勝手に人の命を利用する奴なんか、ろくな奴じゃないだろうな。
「絢峰……絢峰……あやみね?はて?どこかで……」
結緋さんは腕を組んで、うーんうーんと唸ってなにか思い出そうとしているみたい。
「結緋さん、この間の依頼覚えてますか?一緒に行った時の……その時邪魔してきた、アイツですよ」
あ、親父起きてきた。思いのほか早かった。
「壱弥ぃぃ~俺の仕事奪ってんじゃないぞ~……本当に泣くぞっ」
「もう少しメンタル鍛えてから言ってください師匠。意識飛ばさなければスムーズに進んでいたんですから、あと泣くのはご勝手に」
壱弥もなかなか言うな、親父ほんとに泣きそうだぞ、かわいそうに。
「この間……?あーーー!あいつか!あのもじゃもじゃか!!なんじゃなんじゃああ!そんなに近くいたのか!んんん~~なんだか悔しいのう!してやられたかんじじゃああ!」
悔しそうな顔でほっぺたを膨らませて地団太を踏む結緋さん。
「でも、おかしいですよね?こんな卑怯な手を使ってくるような人間が、あんな簡単に自分の姿を晒すものでしょうか?」
「バレようがなんだろうが構わねぇ理由ができた……その理由っつうのがおそらく――」
壱弥が読み取れなかったっていう呪法ってこと、か?




