かみなりさま
「どこがよいかのう、夜?」
流石に俺の部屋で始めるわけではないのは良かったが、結緋さんと夜兄はふたりでこそこそ相談している。そこのサプライズはいらないので、俺も仲間に入れてほしいんだけど。
「急にいなくなると怪しまれるし、近場でわたしたちがなにかしても怪しまれるから慎重にしなければならない……ということで、まずはここに身代わりを置くことにするよ」
振り返ってそう言った夜兄は懐から筒を取り出した。
「出ておいで、傀儡師」
ドロンっと煙の中から現れたのは木でできているであろう人形……からくり人形かな?鮮やかな着物を掛け、顔面は面をしているようだが美しい女性の顔をしている妖怪だ。
「夜様、ご命令をどうぞ」
なんとも機械的なしゃべり方だ。もちろん意志はあるようだけど、感情はあまりない感じだ。けど、夜兄は彼女の手を優しく取って、語り掛けるように伝える。
「案山子でいいのだけど朝まで持つ程度の身代わり人形を3体お願いしたんだ。わたしと結緋、そして秋緋の型を取ってね」
「かしこまりました、媒体をお願いします」
返答も機械的。なのにちょっと嬉しそうな雰囲気が出てる。妖怪に対してもこんなに優しいんだ。ますますもって夜兄のことを洗脳した奴のことが許せなくなってきたぞ。
「これでよいかの?」
っと、髪の毛を一本。結緋さんが渡したので俺も真似して一本抜いて渡す。そこから傀儡子は木の人型に赤い飾り紐で髪の毛を縛り付け、墨のついた筆で一体一体に名前を入れていく。
すると人型が風船のように膨れ上がり、ボフンっと俺たちの姿になって転がった。
「すげ〜そっくりだ」
「ふふ、すごいでしょ?たまに身代わりを作ってもらって抜けだしたりするんだけど、バレないくらい精巧だよ?あっ……」
「ずるいぞ夜~私も普段使いでお願いしてもよいかの?せっかくなら、一緒に出かけたりしたいしのう」
夜兄も、実はおサボりしてたことが判明。いっつも真面目してたわけじゃなかったんだねぇ。それに乗っかろうとしてる結緋さんも可愛らしい。
今回は俺の部屋に存在があればいい、という理由で形だけにしたようだけど、本人と間違うくらいに動く人形も作れるってことだよな?相当力のある妖怪だろうし、使い方によってはマジで恐ろしいことになるんじゃなかろうか。さすが夜兄、使役妖怪も優秀である……。
「このまま転がしておくのはよろしくないですよね?」
「せやよね?俺らがうまーくやっとくから安心してや♡」
わかるぞ……お前たちは精巧に作られた結緋さんと夜兄の人形に触りたいだけだろう。
こういう時だけ息が合ってる……まじで変なことするんじゃないぞ?
あと、俺の人形を雑にベットに投げるんじゃない。子狐ちゃんが威嚇して頭嚙んでるでしょうが。ちゃんとバレないようにしなさい。
「わたしたちの人形も寝ているようにしておけば問題なさそうだね、よろしくね、東雲」
「そうじゃな!頼むぞ茨木」
一瞬動きが止まったふたり。
「も、もちろんそのつもりやで!」と、慌てて東雲は布団を敷いて準備し、茨木はため息をついて手伝っている……これはいかん、ここにロリショタ妖怪ズ残していくと、なにをしでかすかわからないから絶対連れて行かねば。
「東雲」
「な、なに秋くん?」
「縫い目を増やすか、大人しくするか選んでおくように」
やったことないけど今の俺なら多分できそうな気がする。俺の怒りが伝わったのか、東雲は力なく返事をし、丁寧に夜兄人形を布団に寝かせる。
「ふふ、それじゃちょっとだけ移動しようかな?結緋、お願いね」
「おっけーなのじゃ!」
俺が東雲を再教育している間に行き先は決定したようだ。
茨木をしゃがませ、耳打ちをした結緋さん。一瞬驚いた表情をした茨木だったが、すぐに納得したようで、部屋の真ん中に紫炎で輪を作り、鬼道を開いた。
「足元にきをつけるのじゃぞ秋緋」
「お行儀よくするんだよ?」
意味ありげなことを口にして、鬼道に入っていくふたり。
ちょっと警戒しながらも、東雲に背中を押されたのでついていく。
一瞬の暗闇……通常地に根付いている鬼道は出口までそこそこな距離を歩いていたが、その場に作られた鬼道はほんの数秒、パッと眩しい光に包まれたかと思うと、すぐに開けた場所にでた。寒くもなく、暑くもなく。心地よい風が吹く……どこだここは。
「ここは神様がおるところじゃ~」
「かみさまぁ?!」
いくらなんでもぶっ飛び過ぎではなかろうか?俺ごときがこんな場所に踏み入っていいのかと。
「そこまでかしこまらなくても大丈夫ですよ?秋緋様にもなじみのある者の住処ですので」
「そうなのかい?わたしですら1、2度挨拶した程度なのだけれど」
妖怪の知り合いは多々いれど、神様の知り合いなんて俺にはいないぞ?受験の合格祈願で神頼みはしたけど、それでなじみもなにもないはず……いったいここは?
「誰かと思えば灯慈ではないか、珍しく大所帯だな?」
……そういう、ことか。
夜兄は真砂家代表かなんかで挨拶に来たとかだろうが……茨木のいうなじみっていうのは、小さい頃から俺に局所的な大雨を起して遊んでた、あいつのことを言ってる。
「突然お邪魔して申し訳ない、雷……朝までこの庭をお借りできればと」
「そりゃあ構わないがよ、真砂のお偉い勢ぞろいでなにしようってんだ?なんか揉め事か?面白い事か!?」
イメージ通りのトラ柄の着物を羽織り、ひと片の雲に乗って、そこに寝転がったまま茨木と嬉しそうに話をしている。
雷神の、名は雷々だってさ……言っとくけど、俺は、会ったことは、無い。
「【神域】なんて俺も初めてきたで……えらい居心地ええところやなぁ」
単純に神様の住まう場所ってことで【神域】だそうだ。
空気も違うし、踏みしめている地面というか床というか。雲の上のようで歩いている感覚はあるものの、土を踏みしめているのとはまた違う不可思議な感触……際限なく、遠くまで続いている。
物珍しくて、きょろきょろウロウロしていたら、結緋さんが話しかけてきた。
「東だ西だと荒れることなく、関係なく全域を把握しておる。私たちを一時隠しておける場所としても最適なのじゃが、西の『雲行き』をついでに聞けるかもしれないと思っての……茨木の友人でもあるゆえ、信用に足りる一番身近な神なのじゃ」
「空からは地上がよく見えるから、ね」
あの世とこの世の間みたいな特別な場所で、簡単に干渉ができない場所。茨木は友人なので特別に出入りできるらしい……謎の神脈である。
結緋さんが言うことはわかるんだけど、俺にとってはいじめっ子の家に無理やり連れてこられた気分。
「おぉ?おぉ!気づかなんだ!」
ヤバい気付かれた。
「オレの雨が大好きな小僧ではないか!やっと顔を見せてくれたな!」
誰が好きだって?
小学校の帰り道にバケツの水かぶったような雨を俺のところだけ浴びせ、中学校の入学式の帰りには横なぶりの大雨を降らせて制服を台無しにして……この間茨木が来た時も散々だったのだが、どこをどう捉えたら好きになるんじゃ!
「すべて清められた美しい水ですし、ありがたいものだったんですよ」
「そうだぞぉ?ありがたーーい水だ!あの時の顔はなかなか……わははははは!」
わっるい顔して笑ってるわ。本当に神様なのか疑問に思うほどに……どうして茨木の友人なのかが、よくわかる。
場所を借りる側だし、一応相手は神様だ。文句は言いたいが、ぐっと我慢。
いつまでもいじめっ子にかまってなんぞいられない……そんなことより、俺にはやらなければいけないことがある。
「結緋さん、夜兄、なにからはじめる?」
限られたわずかな時間しかない。どこまで仕上げられるかは、俺次第なんだ。




