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ライブ……?

 午後は時間がゆっくりと流れる。

 日差しは強くなって、動くのすらつらく感じるが、鉄板の前よりはいいかな。


 言われてた通り、海の家の手伝いから離れ、先輩の方のお手伝いだ。


「コード絡まないように上手くまとめてもらえると……うん、そんな感じで大丈夫……それが終わったらドラムのセッティングと――」


 見た目通りというか……ヤンキー先輩はバンドマンだ。


 最近までコピーバンドやってたらしいけど、メンバーの都合で解散……その後自分のやりたいことをするって、新しく正統派ロックバンドのボーカル権ギター、TALISMAN(タリスマン)のリーダーとして活動してるんだって。


 初の野外ライブが、今日。


 鮫屋も盛り上げるってことで、オープンテラスを借りてやる事になってる。そんな先輩の大舞台に俺は誘われた。


『真砂くん、前から俺のバンドに合いそうだなって思ってたんだよね。よかったら手伝ってくれないかな?』


 ってな感じなんだが……合う、とは?


 別に俺は楽器が出来る訳でもない、裏方しかできないって言ったんだけど、見学するくらいの気持ちでいいからと。

 どこでやるかって聞いたら、海でやるって言うもんだから承諾しちゃったんだよなぁ……。


 だってさ?海の家、ライブ、沈む夕日……すごいそそるシチュエーションじゃね?高校に上がるまでの夏休みなんて、ボッチ過ぎて酷いもんだったんだ。


 こんなリアルが充実してる体験ができるなら、ふたつ返事してしまうのも仕方ない。


「うん、こんな感じかな?あとは皆が来てから最終調整すればいいから、少し休憩しようか」


 とはいえ……もうすぐ夕方だけどな?どんな人たちが来るのかな?


「これから来るのは昔なじみの仲間たちなんだ。大学で周りに合わせてやってたけど、やっぱり落ち着くところに落ち着くもんだよね」

「そうなんですね?でも、たしかにそれはわかるかもしれない」


 新しい体験はしたいけど、共にするのは気のしれた仲間がいい、ってのは分かる。先輩とはバイトでしか一緒することはないけど、優しいし、頼りがいがある人だと思ってるからここに来たし、遊びも学びも、俺だってあいつらとがいいと思うから。


「あ、そろそろかな」

「え?」


 そういえば……楽器や設備を準備するためにオープンテラスに客は入れてなかったが……店内の方もいつの間にか客が引けている。

 閉店……はないよな?ライブやるもんな?バーカウンターもあるし、夜も営業あるんじゃ?


 ビーチに流れる夏メロも、海水浴を楽しむ人たちの笑い声や雑踏も消え……鮫屋を包む空気が変わっていく。


「なんや?うっわ!先輩くんが……!?」


 東雲も俺も気付かないうちに、先輩の姿が変わっていた。

 と、同時に、先輩の仲間……『昔なじみ』のメンバーがオープンテラスに大集合。


「ああ、ごめんね真砂くん、驚かして」

「……普通なら、悲鳴のひとつでも上げてるところなんでしょうけど……どうしてかこういうの、慣れちゃってるもんで」

「さすがだね?じゃあ改めて自己紹介を……俺は温羅(うら)っていうんだ、それから……」


 はいはい?それから?


「僕はキーボードで、古琴主(ふることぬし)のコトヒラ!」

「俺はドラムで太鼓(たいこ)のダイゴ」

「オレはベースで、琵琶牧々(びわぼくぼく)のワビスケ」


 出てくる出てくる……先輩だった温羅の横からぞろぞろと!


 なんだこれは?嫌がらせか?嫌がらせだろ!俺の信じてた先輩が!頼りにしていたせんぱいごぁぁぁぁぁ!


 鬼だなんて。


 でもキレイな赤い髪の鬼だなって、少し見とれちゃったのは内緒。


「先輩くん……俺らにもわからへんくらい人間になりきってたんヤバない?ひとっつも霊力漏らさへんとかどんだけなん」

「俺、もう暴力とか悪行とかそういうのから足を洗って長いから……きっと徳を積んでたきた成果なのかもしれないね?」


 そういうもんなのか?


「ウラー!はやく合わせよー!」


 コトヒラに呼ばれ、呆けている俺を置いて先輩はギターを持ってリハーサルに行ってしまった。


「徳かぁ……確かにこの仲間や言う奴ら付喪神やし、あながち嘘でもなさそうやけど」


 昔なじみが過ぎるわ!数百年の付き合いかよ!


「はは……もう笑うしかねぇわ……」

「秋くんはほんまに妖怪と縁が深いんやなあ?普通の暮らしっちゅうのは、諦めたほうがええんちゃう?」


 諦めてたまるかい!そこは曲げないし譲らないぞ。


 まぁね?もう人間不信というか妖怪不信レベルにはなってきてるけどな?幸い、先輩は悪い事する感じではなさそうだから、気を張る事にはならなそうだけど……いったいここでなにをするんだろうか?ライブはライブなんだろうけど……面子から見て、人間向きでは……ないよな?


「リハーサル始まるみたいやから聴いてみたらええんちゃう?」

「東雲……お前もうわかってんだろ」


 てへぺろしてるんじゃないよ!


『……〜〜〜♪』


 聞こえてきた音楽はロックとは真逆だった。


 雅楽の……まるで神事をとり行う時のような曲調だ。

 すごく不思議な気分になるんだが……これはなんだ?


「あれやな、月の道ができる時にやる儀式用やろ?」

「月の道……ムーンロードで儀式?そんなことするのか?なんのために?」


 通しを終えた先輩が戻ってきた。なにかを持って。


「本番はちゃんと人に化けて他の曲と組み合わせた形でやるんだけど、この曲だけは一度合わせて間違えないようにしなきゃと思ってね。それと……真砂くんはこれを拍子毎に鳴らしてもらいたいんだ……それで完成する」


 リーン……と、厳かな音が鳴る。

 俺たちに馴染みがある表現にすると、チーンだな。


「これは鈴(りん)。仏具として馴染みはあると思うんだけど、これは特別製なんだ……いいかな?」


 いいかなって、よくはないよ先輩?よく考えよう?誰が喜んでバンド演奏の横でチーンって鈴(りん)鳴らすんだよ!絵面がシュールすぎんだろ!

 そもそも、ぶっつけ本番でやれってのもおかしな話だし、曲を完成させる最後のピースをど素人の俺に任せるとか……まさかとは思うけど……


「それは……俺が真砂の家の人間だからですか?先輩」

「う、ぅん……まぁ、そうなってしまうのかな?騙して連れてきたみたいになってしまってごめんね?というか、紅司郎さんが協力する、やるなら息子が適任って言ってて……」


 クソ親父かっ!!結局手のひらの上で踊らされてたのか俺わぁ!!昼間の岩場での会話はフリか!


「それに舞を沙織里さん?って人がやるからって伝え――」

「やるます」

「ぶっ!!」


 思わず食い気味に謎に返事をしてしまった。


「あれです、先輩、先輩たちにとって大事な儀式に参加させてもらえるなら、俺、協力します」


 キリッ!


「ありがとう、助かる……よろしくね」

「か、カッコつけとるぅ!さすがむっつり秋くん!ぶははは!!」


 やかましいわ!巻き込まれたなら巻き込まれたで、楽しみを見つけてやったるしかないだろう!間近で沙織里の舞を拝んだるわ!


「安請け合いもええとこやけど……なんの儀式がちゃんと聞いといたほうがええと思うねんけどなぁ……ま、ええか!おもろそうやし!」


 東雲がボソリと言ったことをちゃんと聞いておけば良かったが、沙織里が舞う姿を妄想していたこの時の俺には、そんな考えも耳も持ってなかったのだ。

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