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夜①

 当然のことながら外灯等は一切無く、手渡された懐中電灯一本と月明かりだけで照らされるだけの薄暗い道。

 獣道になりかけてはいるが、以前は多くの人が通っていた道だろう、そこまで悪路ではなかったので歩み事態はスムーズだ。


 しばらく進むと少し先の草影から声が。


 笑い声、なのかな?クスクス……みたいな声が聞こえてきた。俺はとうとうきたか、どんと来いや!と身構えながら進んで行った。


「きゃーーー!!」


 当然のことながらこの悲鳴は俺ではない。

 もちろん、沙織里でもない。


「秋緋様~!久しぶり~!きゃー!」

「大きくなったわねぇー?」

「あんなに小さかったのになぁ!」


 脅かす側のおばけ?は結緋さんの妖怪たちだ。


 俺は憶えてはいないが、彼らは小さい時の俺と関わっていたんだろうな。草影に隠れてたらしい妖怪たちが俺を見つけて大はしゃぎってわけです。


 ……肝試しとは?


 結緋さんはなにをしてるんだろう?こんな無法地帯にしていて大丈夫なのか?さっきまではちゃんと脅かしてたみたいだけど。


 苦笑いしながら進む俺たちの後を、かしましく会話をしながらついてきた妖怪たちだが、どうやら移動範囲を制限されていたらしく、ある程度進むとそれ以上はついてこれなかったみたいだ。


 一応措置はしてる、のかな?


 残念そうにしていたが、それは沙織里も同じだったようだ。


「もっとお話したかったぁ~!でもやっぱりおねぇさん凄いなぁ~!あんなにたくさんの妖怪さんたちと一緒って!あこがれちゃうなぁ~♪」


 なんて……目をキラキラさせて尻尾と猫耳ピコピコさせて話す。特製カレーのせいで少し腹痛がしていたが、それも吹き飛ぶかわいさ。


 それにしても、こんな和やかな肝試しがあるものなのだろうか。一定の距離に配置されている妖怪たちはとてもフレンドリーで、軽く挨拶して別れて……を繰り返して進む。

 身構えてたのがアホらしくなってくる展開だ。順調に進み、建物の前にある紙も無事にゲットした。


 帰り道はもう1本脇にある道から帰る。


 帰り道に入ってすぐのことだ。

 俺たちの行く先を塞ぐように現れたそれは、巨大な体に赤く光る目がこちらを見据えている蜘蛛……の、ようだが、明らかに好戦的だ。


 ッズ……ウゥゥン……!


 気を抜き始めるとこういう悪いことが起こるもんだ。俺にはよくあること。


「わっ!こんな大きな子もいるんだぁ!?土蜘蛛……かなぁ?わぁ!」


 沙織里さん、喜んでるところ悪いんだけど……さっきまでの妖怪たちと違うのわかる?なんて心配してたら、その土蜘蛛の巨大な足が迫ってくる。


 ドォオォォンッ!という音ともに、俺の目の前に足が振り下ろされ、地面に刺さり、地面が割れて土煙を起こす。

 間一髪、後ろに飛んで直撃を免れたがしりもちをついてしまった。


 これは、おかしい。


 沙織里もさすがに気付いたのか「あーちゃんっ!」って焦ったように叫んでいた。


「秋緋っ!!」


 音で気付いたのか壱弥が草影から走ってこちらに向かってくる。


「壱弥!なんなんだこれ!」

「わかんない……!けど、ここに集まってる妖怪の気に当てられて野良が紛れ込んだのかもしれない!」


 おいおい。こんなでかい野良がいてたまるか!それにここまで近づくまで気付かないものなのか?!ポッとわくわけじゃないだろーが!

 俺の前に出発していたクラスメイトたちは無事なのか?壱弥はともかく、なんで結緋さんも気付かなかった?それに……。


「クソ親父っ!なにしてやがんだこらぁっ!」


 空に向かって俺が叫ぶと月明かりを背にして人影が飛び込んできた。


「さぼってたわけじゃないわよぉぉぉ!!」


 よくまぁタイミングよくくるもんだなと。

 空から舞い降りたおや……ルージュは俺の目の前に刺さっている足に向かって青白く光る長い針を何本か打ち込んだ。


 見事に突き刺さった針の痛みが堪えたのか土蜘蛛はわずかだが後退した。


 その隙に立ち上がった俺は沙織里の側に駆け寄る。

 壱弥と俺たちの間に綺麗に着地した親父に、俺は文句を言ってやった。


「遅れるってレベルじゃねぇぞ親父!それでも教師か!」

「仕方ないじゃない!ちょーっとばかし……トラブってちゃって、ねぇ?」


 ちらりと壱弥を見る親父。

 目があった壱弥も難しい顔をしてる……気がした。

 所々破けたルージュの服がなにかを物語っていたが、俺にはただただ目に毒なだけだった。


「壱弥……あとで……」


 と、親父が言いかけていた所で空から結緋さんの声がした。


「これはどうしたことにゃぁぁ!」


 なんか羽の生えた妖怪に抱えられて結緋さんも舞い降りた。着地先の親父に見事に蹴りをいれて。


「事前に結界張ってあったであろう!にゃんでこんな危ないのが入り込んでるのにゃ!」


 間髪いれずに結緋さんは親父に説教を始めたが、土蜘蛛はお構いなしでこちらに攻撃を仕掛けてきた。刺さった針が相当痛かったのか、かなりお怒りのようだ。


「えぇい!話はあとじゃにゃ!押さえ込むにゃっ!紅司朗……とそこの少女!手を貸せぃ!」

「僕は秋緋を安全なところに逃がしますね」


 よろしく頼む!と結緋さんは壱弥に俺を任せた。


 沙織里は突然結緋さんに言われて慌てていたが、すぐに自分の【筒】を取り出し、妖怪を呼び出して結緋さんと親父の補助に回っていた。


「秋緋、こっちに!」

「あ、ああ」

「ちょっ……まてっ!……っちぃ!」


 何故か親父は壱弥と俺がこの場から離れるのを止めようとしているようだったが、土蜘蛛の攻撃に妨げられ追いかけることは叶わなかったようだ。

 俺としてもこのまま妖怪バトルを見ていてもよかったのだが、俺に直接害をなすように現れたのだとしたら、安全な場所に避難していた方がいいだろう。俺は壱弥の後を追い、来た道を戻る形で走っていく。


 ほどなくして、先ほど通過した折り返し地点の旧校舎の建物にたどり着いた。


「秋緋、僕が結界を張るから建物の中に入って!その方が安全だから」


 壱弥に言われるがままに建物の中に入った。

 中はボロボロになっているものだと思ったが、案外綺麗にしているようだ。さすがに電気は通っていないようだったが窓から差し込む月明かりでまっ暗闇というわけではなく少し安心した。


 閉じられた入り口の扉越しに壱弥が俺に話かける。


「そうだ。ここ噂の座敷わらしがいるところだから、師匠たちがくるまでの間、一緒に探索してみよ?ふふ」

「結構のんきなもんだな?」

「だってあの3人だし、すぐどうにかなると思うよ?万全を期してここは結界を張るけどね。そこまですること無いのが本音だけど、なにかあったら結緋さんがやかましそうだしね?」


 確かに。親父に対してあの剣幕でお説教してるし、俺に対しての過保護ぶりは中々のもんだし。こういう面倒なのは壱弥嫌いだしな。


「ちょっと待て、お前、中にはいれるんだよな?」

「あっ」


 あっ。ってなに。


「僕としたことがうっかりしてたよ。結界用のお札外から貼り付けちゃった、中入れないや」


「てへ」じゃないわ!

 しかも一枚しか無いとか用意しっかりしとけよ!


「まぁーこうなったら仕方ないし、探索楽しんで、ね!」


 ……絶対これは、わざとだな。

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