親睦キャンプin裏山⑦
天気は快晴、絶好のキャンプ日和と言ったところだろうか。
俺は校内の人があまり集まらないところを探しながら転々と移動し、他の生徒たちを観察していた。一般の生徒たちの一部に俺の影響が出ているのがちらほらと見える。藻江島先生の援護もあったからかそこまで重症な人はいないのは幸いだ。
ただ……ただ俺にとって身近な見える人たちに関しては、かなり進行してしまっている。こういうイベントの中にいるとコスプレしてるようで違和感なく見えるもんで、何故か安心してはいるが。
「こんなところでなにしてるの?秋緋」
声をかけてきたのは猫男爵壱弥だった。よくこんなところにいるのがわかったなと驚きを隠せないが。
「僕もああいう人混み嫌いなんだよね、説明会始まるまでお茶でもしない?」
「おー、いいぜ」
渡り廊下にある自販機で飲み物を買い、校舎の裏手に放置しておいてある体育用具を背もたれにして並んで座った。もちろん少し距離はある。お互いに何口か飲み物に手をつけたあと、壱弥が話しかけてきた。
「夜にやる肝試しあるでしょ?あの森の奥にある古い建物の手前までいくんだけど、あそこ、噂あるの知ってる?」
「噂?聞いたことねぇな、なんかあるのか?」
予想するに、このくだりからすると怪談話なんだろう。が、不本意だがいつも周りが怪異に溢れてる俺には大したことではない。
それより、肝試し自体の方が怖いと思うぞ、俺は。
「いつも不敏な秋緋には朗報だよ?座敷わらしがいるんだって。普段は立ち入り禁止のとこだからさ、幸運を分けてもらえるチャンスだと思って行ってみなよ?ふふ」
「誰のせいだと思ってんだよ!たくっ……でも座敷わらしはみたことないから少し興味はある」
俺が少しだけ食いつくと、でしょ?っと壱弥は笑った……笑ったんだ。
ざわつく音が遠くに聞こえる中、その後はいつもの他愛ない話をした。しばらくして、説明会開始のアナウンスが流れた。
俺は目指せ公務員!の人間だ。
ここは普通に通っていれば普通の一般的なルートで就職も進学もできるところだ。今の俺の症状も考えて、結局キャンプの前には親父の特選行くことに決めていた。特選の説明会は適当に流し聞いてイベントを楽しむことにしたのだ。
休めばよかったのかもしれないが、俺にはもう一つ目的がある。
会場の教室に入るとすぐ目に入った。
そりゃそうだ、俺と壱弥、沙織里、あとは暗い感じの男女二人組。双子か?そっくりな顔してるな。と、明らかにとりあえずとっとけばよくね?というノリできたパリピ5人組だけ。
まぁ、親父の授業に興味ある人間は早々いないだろうな。隣の藻江島先生の教室なんか定員一杯で盛り上がってる……差が痛々しいくらいだ。俺たちに気付いた沙織里が駆け寄ってきた。
「あ、壱弥くん!……と、あーちゃん……こ、んにちま……」
「おふ……」
あからさまに気まずい感じを出して挨拶まで噛み、目線も合わせない。こんなことで肝試しに誘うことなんかできるのかと……気まずさが感染したようで俺まで噛んだわ。
「やぁ、古泉さん、隣いいかな?ほら、秋緋もさっさと座って?もう始まるよ?」
ふたりしてモジモジしている様子をみていた壱弥が「はいはい、仲良しでいいね。チッ」と不機嫌そうに着席を促した。間に壱弥を挟んで席につくと本鈴がなり、同時に親父が飛び込んできた。
ここからの出来事は俺はよく覚えていない……と言うか思い出したくもない、が正しいな。
なにかいわくつきのものだろう書物から出てきたナニかをお得意の毒針術で動けなくしてそのナニかを筒に閉じ込め「さぁ!あなたたちも仲間になりましょ!」と太ももをチラ見せしながら決めポーズを決めて。
パリピたちは失神してるし、沙織里は見とれてるし、双子は無表情だし……まさに地獄絵図だった。ってか学校の授業じゃなくてうちの家業の勧誘じゃねぇか!
説明会は聞くだけ無駄だった。外の屋台でおやつ食べてたらよかったわ。んでまぁ、俺達3人以外は結局親父の特選の授業はとらないと言うことになり記憶を変えられて追い出されていた。
「計画通りね!」
なにがだ……と、どうやらこのあとの肝試しの計画の説明がしたかったらしい。そもそも、親父の特選は壱弥と沙織里だけいたらよかったみたいだ。形だけでもやらないといけないのは大変だな。
「ってことで沙織里と秋緋はふたりで参加な?」
なんて考えてたら話が進んでいたらしい。待って、どういうつもりだ?
「まってくれ!俺は、良いけど……その、なぁ?」
ちらりと沙織里の方を見る。
「あ、あの……私は、あーちゃんがよければ……」
そんな俺と沙織里の様子を見て壱弥がタメ息をつきながら少しイラついた様子で、
「では師匠、また後ほど……ほら!いくよふたりとも!」
親父に言い放つと、壱弥に背中を押されながら俺たちは教室から出た。壱弥は扉を閉めようとところで、親父に引き留められていた。
「悪い、壱弥は残ってくれ、別の話がある。秋緋、お前は沙織里ちゃんと参加するだけでいいから気にすんな、じゃぁな?」
俺と沙織里を見送る親父の顔は優しかったが、壱弥を呼ぶその声は何故か恐ろしかった。
「……わかりました。じゃあ秋緋、古泉さんに失礼の無いようにね?」
教室の戸が静かに閉まる。
「お、おぅ……」
呼び止められた壱弥もまた、怖かった。
なにがどう怖いかって説明できないんだけど、俺の知ってる壱弥のようで壱弥じゃないような、そんな感じ。
不安がよぎる……後で合流したら話きいてやろーかな、うん。
それはそれとして、だ。俺も俺でこの状況をうまく切り抜けなければ、ならない。ちゃんと話が出来ないままズルズルきてしまっていたが、やっと話ができる……できる、かな?
「あのな、沙織里……あの時のあれは……その……」
ダメだ、これじゃ言い訳になる。天使のやつにしてやられた!なんて言ったらまた泣かしてしまうよな。俺が言いたいのは……。
「あーちゃん。」
「お、ぁはい?!」
困ってる俺を見かねたのか、沙織里も言いたいことがあったのか……いままでと変わらない感じで。
「他の教室も説明会終わってキャンプの準備に行くみたいだから、移動しよ?」
ね?とにっこり。
そうだな。俺たちはこんなんじゃなかったな。俺はなにを変に悩んでたんだろうか?この笑顔を見れれば俺はよかったんだ、そうだ、今まで通りに。
「沙織里あのな――……」
クラスごとに決められたキャンプ場所に向かう道すがら、ここ1週間あったことを沙織里に説明できた。天使のことはまぁ……軽く濁したけど、それでいいみたいだった。沙織里はふんわり天然だけどしっかり話は聞くし、理解もしてくれる。「うんうん」と聞いてくれる。猫の【不視】の現象の解消法はまだわからないけど、なんとなく気持ちが落ち着いた気がした。
「っと、まぁそんな感じで……わりぃ」
「ううん!大丈夫だよあーちゃん!師匠もおねぇさんもみんな頑張ってくれてるんだし、あーちゃんもなんとかしよーと考えてるし、なんとかなるっ!」
なんとかならないと俺の身が持たないからな。
「そーいえばすずめちゃんはどーしてるんだろ?あれから見てないよね?あ、あとあと――」
確かに最近見かけない。もう引っ越ししたのかな?親父もなにも言わないし……後で聞いてみよう。
「んー!肝試し楽しみ!おねぇさんの妖怪さんどんなのみれるかなぁ!」
なんて弾丸のように話す沙織里だったけど、久々に話ができて浮かれてたんだな、気にかかることは多かったけど、軽く考えてしまってた。
親父と壱弥だけが残る教室。
去っていく俺たちの後ろで小さな音がした気がした。




