仲直りのち…①
「あーちゃんの、ばかあっ!!」
沙織里が叫ぶと、俺は保健室の前の廊下を勢いよく、かつ見事に一直線にぶっ飛び、突き当たりの壁にぶつかる寸前で辺りの空間が反転し、停止した。
停止したのは俺だけではなく、その瞬間を見ていた生徒たちも、だ。まるで、時間が止まったかのように。
目の前に光のかたまりが現れると、人の形に……こいつは、あの天使だ。
「貴様、またこのような事態を引き起こして……どういうつもりだ!」
沙織里にとり憑いている天使。出てきたと思えばいきなり俺に向かって怒鳴ってくる。またって、なんの事だよ?わからねぇよ。
くそ、どうしてこんなことに……あぁ、もしかして始まりは。
遡ること1週間前――。
季節は7月に入り、夏らしさが増してきた。
梅雨明けはまだされていないが、あの雨女が姿を消した後からまとまった雨はほとんど降っていない。なにかしらの影響があったのだろう、とりあえず変な妖怪が増えることがなくて安心……したはずだったんだが。
「それでお前は誰なんだよ……」
俺はいつも通り、朝の日課の修業を滞りなく終えて自分の部屋に帰る。すると、そこには知らない女の子が小鬼と一緒に朝食を食べていた。
「あ、おかえり秋!ごはん、冷めんうちに食べっ!」
いや、だから誰なのよ?小鬼は何故か歓迎ムードで気にしないで食事を続けてるし。壱弥がいるならまだわかるんだけど……しかもこの子、距離が近い。
俺に挨拶したかと思ったら腕を組んでくっついてくる。上目使いで見てくるし。
「えへへ、秋~秋~!」
名前を呼んで、笑顔でくっついて……胸がぁ……と、とりあえず自己紹介してもらえますでしょうか?
「この人は垢嘗のすずめさんです」
「二月前くらいから風呂場を綺麗にしてくれていたんだ」
は?ずっとうちにいたってこと?
話を聞くと、どうやら風呂場の天井裏に住み込んで、俺がいない時に出てきて毎日風呂場を磨き上げていてくれたらしい。うん、確かに風呂に入る時カビも水垢もなく、新築ぐらいの輝きを放っていたのは知っていたさ。
「あんな……うち、人見知りしぃだから今まで出てこれんかったんけど、やっぱり秋のそばにいたいとおもって!きゃっ!言っちゃった!」
どこの方言とも言いがたい独特の話し方が癖になるなぁ。って、ちがうちがう!馴染むな、俺!慣れるな、俺っ!
「どんな理由でいるか知らんが小鬼だけで手一杯なんだよ!うちには住まわせません!」
すずめが絡んできた腕をほどき、仁王立ちで3人?に訴える。
ショックを受けたすずめは、しょんぼりと肩を落として俯いてしまった。
その様子を見て、何故か立ち上がるちー。
「すずめは掃除のプロだ。人に危害を加えるような妖怪でもない。なぜ拒むんだ?」
お前……フォローしてるつもりなんだろうが、掃除のプロってところ強調し過ぎだ。自分の仕事がはかどるからいてほしいだけだろう?いつのまにそんな主婦じみてしまったんだ。
俺は普通に生活をしたいだけなのに……ただでさえ最近、やたら絡んでくる妖怪が増えたんだ、これ以上は本当に勘弁してくれ。
それに、こいつは……。
「その、一応女の子、だろ……」
「照れてるです」「照れてるな」とハモる小鬼。
ほっとけ!
いくら妖怪でも見た目は同年代の女の子だ。しかも服装がタンクトップにショートパンツと露出が高すぎる。目のやり場に困る!
「……やっぱり秋は、その辺の輩とちゃうね!すてきやよ!」
赤らめた顔、潤んだ瞳で俺を見るすずめ。
なんでそうなるんだよ!あーもー!ごちゃごちゃしてたら朝飯食べる時間もないじゃないか……急いで制服に着替えなければ。
くっ!自分の部屋なのになんでトイレで着替えなきゃならんのだ。「恥ずかしがりなんやね、うふふ」じゃないわ!
「あー!秋まってぇ!」
「っ!ふりゅひゃい!ふいへふんあ!」
速攻で着替えを済ませて、朝食のトーストを口にくわえて玄関を出た。
すずめ、お前のせいで暖かい飯なんか食えなかったぞ!
そんなすずめは俺を追いかけてきて、またくっついてくる。何度も振りほどこうとするが、めげない……どこまでついてくる気なんだ。
「これは……」
「な、なんだか修羅場な予感ですですっ!」
玄関から覗いていた小鬼がワクワクした顔で呟いた。
まさにこれから……本当に修羅場へと俺は足を踏み入れて行くことになるとは……はぁ、鵺みたいに丸く収まらないものかな。




