21. あの雲多分食べられる
ゴロゴロゴロゴロとレイアは退屈していた。しばらくの間、レイアは刺繍を楽しんでいたが、やり過ぎるよくないと手を置いていた。やり込み過ぎると疲れる。そして、刺繍は一生分やったからもうやらなくていいかと妙な境地に辿り着いてしまうのだ。レイアは決して飽きっぽいわけではないが、何事も少しずつやったほうがいいよねという思考の持ち主であった。
何はともあれ、レイアは暇を持て余していた。散歩でもするかと、レイアはのっそりと立ち上がり、一人中庭に出た。この屋敷の中庭は中々に立派で、よく整えられた花や木、謎にこんもりとした丘があった。噂によると、あの丘はゲオルクのお気に入りスペースらしい。今日は日差しもあたたかく、日向ぼっこ日和だとレイアはごろんと丘に寝っ転がって、動いていく雲を眺めた。あの雲は何の形だろうか、魚かな。遠くの方に薄く広がっている雲がある。温泉の湯気ってあんな感じかなとレイアは想像を膨らませていた。
ボーッとしているうちに、レイアはザーカナへの旅行を思いの外楽しみにしている自分に気がついた。仕方ないものは仕方ない。そうやって、スパッて諦めるのは得意な筈だったのにとレイアは自分の心情を持て余した。もういっそのことゲオルクを置いてザーカナに行こうかな、いやそれはさすがに不義理かな、下見とか言えばいいかなとレイアは色の薄い空を眺めた。
「大変です!」
すると、デーテが血相を変えてレイアの元にやって来た。
「どうしたの……」
レイアは不安そうにデーテを見た。レイアはとりあえずデーテのテンションに合わせることにした。ちなみに、ゲオルクの前以外では、レイアは猫被りをそれとなく続けていた。いきなり猫を失くすと心持たないし、デーテ達も驚くだろう。親しき仲にも礼儀ありという言葉もある。ゆっくりゆっくり歩み寄り、適切な距離感を探りたいとレイアは考えていた。
「その、ゲオルク様が……」
「うん」
レイアはデーテを落ち着かせるように相槌を打った。
「ふ、負傷されたそうで」
先程急ぎの使者がやってきて、ゲオルクは討伐相手の盗賊にちょっとやられたとの報せがきたそうだ。命に別条はないらしいが、デーテはとても心配そうだ。それもそうだなとレイアは思った。盗賊討伐に出立したのはゲオルク一人だけではない。ニコラスもお供をしているため、デーテは心配でたまらないのかもしれない。また、他にも知人がいる可能性もあるかとレイアはデーテを慮った。
「行きましょう」
そして、レイアはすくっと立ち上がった。
「どこにですか」
デーテは呆然としたようにレイアを見上げた。
「ゲオルク様がいらっしゃるヤゴナへ」
レイアが準備をしましょうと言うと、デーテは我に返り、ビュンッと行動を始めた。早い、早過ぎる。
百聞は一見に如かずと言うのだ。幸い、ヤゴナの盗賊は一網打尽にできたようで、主だった危険はないらしいため、デーテは心配ならばゲオルク達の元に行った方がいい。レイアはゲオルクの怪我が心配な気持ちも少なからずあったが、生きているみたいだし、行ったところでなぁ〜と気乗りしない性分ではあった。
だが、デーテが安堵を得られ、そして、レイアは暇を潰せる、お出掛けができる、まさに一石二鳥……、最高じゃないか!レイアは短い間に自分にとってハッピーな算段をつけた。レイアは自分のこのような頭の回り方を浅はかで浅ましいと感じていた。
レイアは空を見上げた。いい天気だとふんわりとしたと雲を眺めた。




