16. 笑顔の下にいろんなものを隠す
何やら剣技大会があるようで、レイアはとりあえず見に行くことになった。ゲオルクもちょっと顔を出すらしく、デーテに行きましょう!やりましょう!と目を輝かされたので、行くしかなかったのだ。
「ゲオルク様はお強いのでうんぬんかんぬん」
馬車にがらがらがらと揺られながら、デーテは語っていた。要約すると、ゲオルクはこんなに素晴らしい!強い!らしい。他のことも言っていたかもしれないが、レイアの頭には入らなかった。レイアは大人しい笑みを浮かべながら聞き役に回っていた。80%くらいはちゃんと聞いていた。
そうこうしている間に馬車が止まった。どうやら着いたらしい。
「その……」
馬車から降りると、レイアの元に申し訳なさそうな顔をしたニコラスがやってきた。
「どうしたの?ニコラスさん」
レイアは何でも言っていいですよと穏やかな笑みを浮かべた。
「あの……、メラ様がいらしておりまして」
歯切れが悪そうにニコラスは話した。つまりは、メラがゲオルクの妻の席にいるのでレイアの居場所はないそうだ。
「何てこと!」
デーテは素っ頓狂な声を上げ、あんたがいながら何してんのよ!とニコラスに掴み掛かった。
「レイアさん、こんにちは」
ちょっとした修羅場になっていたため、気になったらしいヘルマンがレイア達に声をかけてきた。
「ヘルマン様、どうなっているのですか?」
デーテはヘルマンに食ってかかった。
「何かあったの?」
ヘルマンは上手くデーテを落ち着かせながら聞いた。手慣れているようだ。
「メラがゲオルク様の奥方席に座っているのですよ!」
「……それはそれは」
顎に手を置いて、ヘルマンは神妙そうに呟いた。
「デーテさん、私は事を荒立てたくないわ」
レイアはにこっと話を切り出した。
「ですが!」
「デーテさん、ニコラスさん。あなた達はゲオルク様と一緒の馬車で帰ってもらってもいいかしら?」
「え、レイア様は?」
きょとんとデーテは目を丸くした。
「私は帰ります。席がありませんから」
すたすたとレイアは来た道を引き返した。
「ですから、デーテさん、ニコラスさん。ゲオルク様をよろしくお願いしますね」
ふっと振り返って、レイアはにこりと笑った。有無を言わさぬ笑みであった。
「……か、かしこまりました」
そして、がらがらがらと馬車に揺られて、レイアは屋敷に帰っていった。
「見た目よりブチギレてたかな……?」
「そうですね……」
ヘルマン達はレイアは静かに怒るタイプなのだなぁと思った。
しかし、そうではない。この時のレイアは全く怒ってはいなかった。また、怒るとしてもレイアは激しく暴れるタイプだ。レイアが帰った理由はこの方が面白そうだから、もうひとアレンジいこうと思ったからである。
「あら、レイアさん、どうなすったの?」
屋敷に帰ると、メラの母・サブリナがニタリと出迎えてくれた。
「サブリナさん、行きましょう」
お目当ての人物がいてよかったとレイアはサブリナの腕を掴んだ。
「は???」
サブリナは何この子という表情を見せた。
そして、あれよあれよという間に、今から、サブリナはレイアと一緒にシーフナという都市へ小旅行することになっていた。