006
異世界に転生した翌日。
地球の睡眠環境と比べると寝具(椅子)の質は天と地であったが、ギリギリ疲れを取ることは出来た筈だ。
俺は椅子から立ち上がり背伸びをする。寝返りが打てなかったぶん身体が凝り固まっており、身体中からポキポキと音が鳴るのがまた気持ちいい。
俺は辺りを見渡すと、そこには一つのベッドで寝ている二人がいた。寒かったのか身体を寄せ合い、百合百合しい空気が漂っている。
俺が発した音で目が覚めてしまったのか、もぞもぞとカナリアが起き出した。
「ん、んん……。あら? ケルニスさん。起きていたんですか。おはようございます」
「ああ。おはよう。今起きたばっかりだよ」
俺は身体を伸ばし終えてから改めて椅子に座る。
椅子に座り直し、俺が今後何をしようか考えているその間、カナリアは寝癖を整えたり服装を正したりしている。いくら相手が俺でも女性として服装の乱れが気になるのであろう。俺はチラリとカナリアを視界にいれると、カナリアがベッドの上でなにやら考え事をしているのが分かった。
事情を聞いてみるかとも考えたが、人の悩みごとに首を突っ込むものでもないし、高確率でその悩みとは俺関連であろう。
取り敢えずカナリアから視線を外す。
さて、今日は何をしようか。やりたいことが多過ぎて何から手を付けようか迷ってしまう。地下に無数にいるネズミたちを従えるか。それとも、金銭関連を何とかするか。魔石を集めるのもいいかもな。
そう言えば、ドボルガーの方はどうなったか。俺はドボルガーを監視しているカニバ・ラットと視覚を共有させる。以前見たときから場所は変わり、今度は殺風景な普通の部屋。特に飾りつけがある訳でもなく、あるのはテーブルとベッドに、床に剣が無造作に置かれているのみ。すると、近くにあるベッドでスースーと寝息が聞こえてきた。どうやら、ドボルガーの自室のようだ。
昨日のあの場所はなんだったのだろうか。色々と考えてみるが、正直魔法がある世界だ。俺の常識なんてのは当てはまらないし、考えても意味がないように思える。そこで、俺は考えるのをやめた。
今はそんなことを考えるよりも目先のことだ。現在俺に不足しているのは戦力である。一応候補として、
・魔石で付属を増やす。
・沢山使役をする。
この二択だ。魔石で付属を増やすには当然、魔石を買うための金が要る。だからといって、使役で戦力を整えるのであれば手持ちのカードが少ない。うーむ。どうしたものか。
俺はふと、気になったことをカナリアに尋ねる。ここ王都の通行料だ。聞いてみた結果、決して安くはないが出入りすることは出来ると分かった。
何故こんなことを聞いたかといえば、森の中に住まう魔物たちを使役するのはどうかと考えたからだ。現状俺が使役している魔物はカニバ・ラットのみだが、世界を見ればもっと沢山の魔物たちがいる。例を挙げればゴブリンやスケルトンなどだ。そんな連中を使役することが出来れば、戦力にもなるし地下のネズミどもを一網打尽にすることも容易いだろう。
そうと決まれば話しは早い。
俺は椅子から立ち上がった。
「少し出てくる。夕方までには帰ると思う」
「王都から出るんですか?」
「まあな。それじゃ、行ってくる」
「はい。行ってらっしゃい」
俺はカナリアの言葉を背に部屋を出る。そして歩きながら念話でラット将軍のことを呼び出した。
どうせだ。折角配下が増えたからには戦闘の感覚を試してみよう。取り敢えず二部隊ほど連れて行こうか。
* * *
カニバ・ラットたちを連れて無事に王都の外に出ることが出来た。勿論、連れ出た方法は魔王剣の【異空間作成】である。
正直、そう何度も王都の外に出たいとは思えなかった。理由として、一つは俺自身が目立つこと。門番からも訝しまれたが、こんな身なりの子供が外に出ること事態が異様だし、そもそも俺の容姿の赤い目というのはかなり珍しい……というより不吉の代名詞らしく、周りよりかなり目立つ。二つが金銭的問題だ。一回通るだけで数日分の食費が吹き飛んでしまうのは考えものだ。
出来れば、今日だけで戦力を整えたい。
だがまあ、RTAをやってる訳でもないし、自分の身を第一に考えていこう。
* * *
城門を出てから見えるのは広い畑と農夫の小屋が十数棟。馬や牛などの家畜が耕し機を引きながら畑を耕しているのが見える。
城壁の外には東北南西それぞれの城門の前に農村がある。王都へのアクセスも良く、土地も城壁内に比べれば安い。当然、冒険者もよく通るため魔物による心配も少ない。農夫たちにとっては一等地である。
俺はそれを横目で物珍しそうに見ながら、街道を歩く。街道といっても日本のコンクリートの道路のように特別整備されているわけではない。土が人や馬車などで踏まれ固くなり、草が生えなくなったのだ。
一時間ほど歩いて漸く森の中に入ることが出来た。城壁の周りが開拓されていたため、森に入るのにかなり歩いてしまった。
だが、加護の効果からかあまり疲れはない。
取り敢えず俺は街道から森の中に入る。
「『来い。魔王剣』」
俺は手元に魔王剣を出し、異空間のゲートをその場に展開させた。すると、ゲートの中からチューチューとカニバ・ラットたちがわらわらと出てくる。
チューチューとうるさいカニバ・ラットたちにゴホンと咳払いをすると、カニバ・ラットたちは一斉にこちらへと顔を向けた。
「これから森の中を探索する。あー……森の中に何がいるかは分からないが、各自、何かを見つけたら各隊長に連絡をいれること。いいか」
「「「チュー!」」」
約200匹のカニバ・ラットたちはチューチューと鳴きながら森の中へと散っていった。
……今更だが、森の中の情報収集を怠ったな。
寝起きで頭が回らなかったか? なんにせよ、気を引き締めないとな。
* * *
カニバ・ラットを放ってから数分。すぐ近くにいた隊長(名前ではない)へと連絡が入った。
隊長に先導されながらその場所へと向かうと同時に、散っていったカニバ・ラットたちを呼び寄せる。
その間に、何かを見つけたカニバ・ラットと視覚を共有させて何がいたのかを見てみる。
そこに居たのは、五体の子供ほどの大きさの生き物。どこか筋肉質に見える身体は濁った緑。身体にはボロボロの布切れを巻き付けている。顔は酷く歪み、口からはダラーっとよだれが垂れているその生き物の手には、軽く布を巻かれた棍棒を持っている。
RPGモノでの定番。ゴブリンである。
取り敢えずカニバ・ラット越しに鑑定を掛ける。
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種族名:ゴブリン
Lv.8
〔能力値〕
魔力 142/142
攻撃 174
魔攻 23
防御 146
魔防 143
速度 87
《種族技能》
【繁殖Lv.1】
《技能》
〔武〕
【棍棒術Lv.1】
〔技〕
【痛ぶるLv.1】
《備考》
どこにでもいる人形の雑食モンスター。知能が恐ろしく低く、食う・寝る・ヤるの三拍子で生きている。上下関係が厳しく、格上相手には強く出ることはない。学者的には面白い存在のようで、本能的に環境適応能力が高く人類が滅んだ後はゴブリンがディアレスを統治すると言われている。
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ステータス的には王都で絡まれた……あー。
そう。ホブゾウ。アイツより少し弱いくらいか。
因みに、他四体もステータスにほとんど変わりはなかった。
俺は森を歩きながら対策を考える。と、言っても対したことはないだろう。強いて言えば数が問題だが、俺には無数のカニバ・ラットたちの目がある。背後を取られることもないだろう。
やがて、俺はゴブリンの近くの草むらまで来れた。
俺はカニバ・ラットたちに指示を出す。一つの部隊は周りの警備。もう一部隊の半分は俺の目の役に。半分はもしもの時のための保険だ。
俺は警戒をしながらゴブリンたちの前に出た。
ガサガサという音に引き付けられたのか、ゴブリンたちは一斉にこちらを見た。その瞬間、ゴブリンたちは癇癪でも起こしたのかと見間違えるほどに騒ぎだし、こちらへと向かってきた。
俺的に、なるべくゴブリンに傷を付けたくない。使役したときに傷があると動きが鈍るし、最悪そのまま事切れてしまうかもしれないからだ。折角使役したというのに死んでしまっては意味がないだろう。
故に、使うのはこれだ。
「ーー魔王覇気」
俺を中心に、紅いオーラが周りに拡がる。
意気揚々とこちらに向かってくるゴブリンだったが、そのオーラに少しでも触れるとバタりとその場で倒れてしまった。
「グギャァ!」
その後も、愚直に俺へと向かってくるゴブリンたち。仲間が倒れたところから見てもなにも学ばなかったようで、他の四体もバタバタと倒れてしまった。
「……マジかよ。こんなすぐに終わるのか」
俺は倒れたゴブリンへと近づく。どうやら、本当に気絶しているようだ。
「まさか、こんなに早く終わるとは……。まあ、なにはともあれ……使役」
俺は使役を掛ける。すると、いつも通り無機質な機械音が俺の頭に響いた。
『使役に成功しました。ゴブリンが使役モンスターになります』
『使役に成功しました。ゴブリンが使役モンスターになります』
『使役に成功しました。ゴブリンが使役モンスターになります』
・
・
・
『使役に成功しました。ゴブリンが使役モンスターになります』
よし。成功だ。
取り敢えず、鑑定。
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本名:ケルニス
年齢:5歳
Lv.21
〔能力値〕
魔力 3.733/3.741
攻撃 1.787(+723)
魔攻 1.156
防御 805(+5)
魔防 800
速度 501
《獲得魂技》
【魔王Lv.5】
【使役Lv.3(+728)】
【空間魔法Lv1】
【魔眼Lv.2】
【黒魔法Lv.1】
《技能》
〔武〕
【風圧剣Lv.1】【身体硬化Lv.1】
《加護》
【魔神の加護】
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お。防御が上がってる。だがレベルは上がらなかったみたいだな。まあ、あれで上がってもな。
取り敢えず、この調子ならもっと戦力を増やせそうだ。……だが、ゴブリンを捕まえて戦力になるかが不安になってきたな。
* * *
ケルニスが出たあと。カナリアは一人、椅子に座りボーッとしてどこか上の空だった。
先ほど起床したエレンはそれに珍しさを覚えつつも、カナリアに声をかけた。
「どうしたんだ、カナリア。そんなボーッとして。珍しいな」
「ああ、エレン。ふむ。そうですね。実は……」
カナリアはエレンに悩みの種を吐露する。
その原因は、昨日知り合い協力関係となったケルニスである。
今日の今朝ーーついさっきの出来事。一年半の逃亡生活のなかで身に染み込んだ僅かな物音で起きるという特技が、ケルニスには効かなかったのだ。
ケルニスはあの時、自身の立てたの物音でカナリアが起きたのだと勘違いしていたが、あれは単にカナリアが普段起きる時間があの時間だっためで、あのタイミングで起きたのは完全な偶然である。
しかも、既にケルニスが起きていることに対して焦ったり、驚いたりすることがなかったことも悩みの種の一つだ。
それを聞いたエレンは目を開かせながら、驚いたように口を開く。
「も、もうアイツに心を許したのか!?」
「まさか。警戒出来るときは勿論しますよ? ただもしかしたら、無意識レベルで彼のことを信頼しているのかもしれませんね」
「はぁ? 昨日会ったばかりなのに?」
「ええ。ほら、あそこを見てください」
エレンは指を指されたほうを見る。そこには、二、三匹ほどのカニバ・ラットたちが群れていた。
「ありゃ、カニバ・ラットか?」
「はい。彼が使役している、カニバ・ラットですね。彼、私たちが何かあってもいいように、監視役を置いていってるんですよ?」
「それって単に、オレたちが余計なことをしないように見張っているだけなんじゃ?」
「余計なことですか? 例えば?」
「ええ? ええっと……」
考えてみるが、ケルニスにとっての『余計なこと』という行為が出てこない。
強いて言えば魂技をバラすくらいだが、それが直接的な弱点になるとも考えずらい。
「私たちがここから出ようが逃げようが、魂技のことをバラそうが、彼にとっては大した問題ではない。正直、彼にとって私たちは幾らでも替えの効く存在です。むしろ、貴族関係も相まって邪魔な存在になりえるかもしれないですね」
「なら、なんでアイツはオレたちを?」
カナリアはふふっと微笑む。
「彼曰く、情が移った。と言っていましたね」
「情? アイツが?」
「ええ。でも、その情がなくなったら大変ですね。もしかしたら、帰ってきたときには別の人を侍らせて帰ってくるかもしれませんよ」
「ハハッ。流石にないだろ」
エレンはそれを笑い飛ばした。
どうやらカナリアも場を和ませる冗談で言ったものらしく、本気にはしていないようだ。
その後も、二人は談笑を続けた。ーーまさか近い未来、二人のこの言葉が現実になろうとは知らずに。
* * *
初めてゴブリンを使役してからどれ程経ったか。あれからカニバ・ラットたちの目を使い何体かのゴブリンを探しだし、気が付けばゴブリンを使役した数は30を越えていた。
意外だったのが、どのゴブリンも野良のゴブリンだったということだ。俺の予想では数十匹単位で集落でも作ってると考えていたため、拍子抜けだし、予想より数が集まらなかった。
そろそろ帰ろうかと考えていたその時、偵察から帰ってきたカニバ・ラットの一匹がとあるものを見つけたと報告があった。それが……
「盗賊のアジトか……」
盗賊。街道を進む商人やら冒険者を拐い、物資と命と貞操を奪うならず者の集団だ。
盗賊団の人数は19人。カニバ・ラットを通してその場で鑑定を発動させ、ある程度の情報収集を行う。その中で、一番強い奴のステータスがこんな感じであった。
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本名:ガストフィッシュ
年齢:39歳
Lv.43
〔能力値〕
魔力 1.646/1.646
攻撃 2.053
魔攻 654
防御 1.239
魔防 862
速度 643
《技能》
〔武〕
【剣術Lv.3】【剣技Lv.1】
【身体強化Lv.2】【体術Lv.1】
〔技〕
【盗賊Lv.1】【悪食Lv.3】
【統率Lv.2】
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シンプルだが強い。ドボルガー辺りと比べても、レベル的にも多分こっちのが強いだろう。だがドボルガーに比べると魔の技能がなかったり攻撃の数値が高かったりと、こいつは剣に特化しているタイプなのだろう。
盗賊団全体の平均レベルは大体20とそこら。今回魔王覇気は対して役に立ちそうにない。
しかし、そうなって来ると少し不安を覚えてしまう。今までの戦いはほとんど魔王覇気に頼ってきた。それが今回は使えないのか……選択肢として、今回はスルーするというのもありかもしれないな。次は準備を万端にして、ラット将軍を始めとしたカニバ・ラット軍団全員を連れてくるのもいいかもしれない。
……うん。やっぱり、今回は保留としよう。格上相手と戦うには戦力が足りないし、一つ考えているゴブリンの面白い活用方法も試してみたい。
今回はやめて、もう少し戦力を整えてから挑むとしようか。
俺は異空間にカニバ・ラットたちを仕舞い、王都へと踵を返した。
因みに、一応盗賊団には数体のカニバ・ラットを放してある。盗賊団のアジトは洞窟内にあり若干道が分かれたりしているため、暇なときに道を覚えたいからだ。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。ブックマーク登録や評価、感想をいただけるとモチベが爆上がりします。また、「ここおかしくない?」、「ストーリー矛盾してない?」ということがありましたら感想で指摘していただければ幸いです。




