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手加減?大いにしてくれ、その隙を突く

………で、今は練兵場で銀髪の魔導士と距離を取って向き合っている。


観覧席にはアレクシウス王とその護衛達、初老の魔導士、いつもの仲間たちといつの間にか金髪の令嬢がいた。立ち位置的に王族、王の娘といったところか。


「私でいいの? 後の事もあるから、怪我をさせないように注意はするけど……」


「クルァウォオ ヴォル グルォオオゥアッ

『やられっぱなしは性に合わないんでなッ』」


それだけ言って、俺は視界を狭める純ミスリル製の仮面を外し、観覧席の近くまで歩を進めた後、アックスに向かって放り投げる。


「ワフッ!?」


予想外だったのか、慌てながらもしっかりと奴が銀色の仮面を両手でキャッチしたのを見届けて元の位置まで戻り、木剣を構えて合図を待つ。


対するエルネスタは素手だ。


大規模な風絶結界を即興で張れる事実を考えると手練れの風使いに違いない、と思っていた時期が俺にもありました……


「始めッ!!」


「グルォオオ―――ンッ!!」

【発動:バトルクライ】


合図とともに老魔導士が腕を振り上げるのと同時、コボルト族の身体能力を強化する魔力を帯びた咆哮を上げて、魔導士を相手にするときの定石どおり距離を詰める。


「ッ、シャァアッ!!」


が、その姿から想像し難い裂帛の気合と共にエルネスタが姿勢を低くし、四肢に魔法の風を纏わせて飛び出した!さながら、銀の矢の如くだ。


「ウォオオッ!? (うぉおおッ!?)」

バキィッ


風の刃を纏った彼女の右正拳突きをかろうじて木剣で叩き落とすが、その一合だけで木剣が砕け散った。


「せいッ!」


さらに、銀髪の()()()()()()が一歩を踏み込んで左のショートアッパーを繰り出す。


(躱せねぇッ!!)


咄嗟に両腕を喉元で交差させてガードを固めるが、暴風を纏った左拳が防御を打ち抜き、俺の下顎をカチ上げる。


「グアッ!(ぐあッ!)」


それでも交差防御で威力は減じているが、代わりに両腕が弾かれてボディががら空きになった。


「はッ!!」

「ガハッ…… (がはッ……)」


短い呼気を吐いたエルネスタの掌底が俺の腹を穿つ。

俺は反射的に後方へ飛び退り、レザーアーマー越しに打ち込まれた衝撃を逃がした。


そのまま、大きくもう一度バックステップをして距離を取ると同時に、右手に握る砕けた木剣の柄を投げ捨て、風刃の魔法を放つ。


「ウォ、グルァッ! (風よ、切り裂けッ!)」

「切り裂け、三連風刃ッ!」


向こうも追撃に三つの風刃を放っており、一つは俺の風刃と相殺するが、残りの刃が俺を狙う。


「クッ (くッ)」


その風刃を横に倒れながら避けて、勢いのまま地面を転がる。


「はあッ!!」


なんとか立ち上がった時点で既にエルネスタが眼前に迫り、惜しげもなく戦闘用ローブに入った深いスリットから、若く健康的な脚を晒して回し蹴りを放つ。


「オォオオッ!! (おぉおおッ!!)」


せっかく立ち上がったのに再度、俺は地面に左手を突きながら上半身を倒して回し蹴りを躱す。そして、側転の要領で後方に体を運んだ。


「あぐッ!?」


その際、俺の踵がエルネスタの顎にあたり、彼女も後方へと下がって一連の攻防が途切れるが…… これはヤバいな。


「手加減しているとはいえ、中々やるね…… 犬人族の風使い」


………… ちッ、認めようこいつが俺より格上だと。

手加減? 大いにしてくれ、その隙を突かせてもらうッ!


砂漠の都市ラウドネルで団長殿に拾われたガキの頃はどいつもこいつも俺よりも強かったじゃないか。その時と同じように足掻けばいい。


「もうちょっと、楽しませてもらうねッ!」


その言葉と共に彼女が風を纏い疾走してくる!


「ウォオオンッ、ガルゥァアァッ! (悉くを喰らえッ、貪欲なる牙ッ!)」


対して俺は素早く地に手を突き、発動段階まで組み上げていた土属性魔法“縛鎖の牙”を放つ。いつもよりも少々低めの土塊の牙が無数に生じてエルネスタの前方を塞いだ。


「つッ!?」


魔力の流れを読んだ彼女は咄嗟に跳躍して、土塊の牙を飛び越える。そのまま空中から、地面に手を突いて姿勢が低くなった俺の頭へ暴風を纏った踵落としを繰り出した。


「ッ、グルオゥッ! ウォッ!! (ッ、読んでいたぜッ! 風よッ!!)」


地面から生じる土塊の牙は布石であり、低めに調整したのは少しでも彼女が跳躍する確率を増やすためだ。加えて、身を低くすることで頭を晒し、叩き落とし系統の攻撃を誘ったのだ。


俺は両腕を交差させ、今度は弾かれないようにエルネスタを真似てそこに魔法の暴風を纏わせて相手の風を相殺する。


ゴッ!!


「グゥ! (ぐうッ!)」

「くッ!」


かなりの衝撃が俺の体を地に伏せさせようと襲ってくるが、何とか堪えて彼女の踵落としを交差させた腕の間に受け止めた。間髪容れずに勢いよく立ち上がり、左手で彼女の蹴り脚を脇に払って体勢を崩す。


「ウォルァ――ンッ!!」


【発動:ハウリングノイズ】

【効果:魔法の使用を一定時間阻害する】


「なッ!?」


さらに至近から魔力の流れを阻害する魔犬の咆哮を浴びせ、エルネスタの魔法を一瞬だけ封じて防御手段を奪う。そこから遠慮なく、渾身の右ストレートを彼女の鳩尾に打ち込んだ。


「グルォオオァッ!!」

「かはッ……」


思わず身体をくの字に曲げる彼女の晒された首筋へ、最後に意識を刈り取る手刀を撃ち込む。


トスッ

「ッ………… きゅう~」


「そこまでだッ!!」


エルネスタが頽れたところで、老魔導士の制止が入った。

読んでくださる皆様には本当に感謝です!

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― 新着の感想 ―
[良い点] モフモフにつられてつい読み込んでしまいました。いいですよね、毛(抽象的) ほのぼのとした感じから始まっていて、会話もすごく可愛いくてほっこりさせていただきました。あと、主人公の現状把握がす…
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