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砂漠の国のコボルト

謁見の間には俺たちが入ってきた扉とは別に奥の玉座の脇にも入り口がある。そこからリアスティーゼ王が謁見の間に出入りするのだろう。


暫し待つとその扉が開く音が響き、人の気配が玉座から見て下段の左側の手前あたりまで移動して止まり、声が上がる。


「アレクシウス陛下の御入来である」


軽く頭を下げているため、目視ではないがプレートアーマーの軋む音から判断すると近衛兵たちが臣下の礼を取ったようだ。


そして、正面の玉座に進む足音が暫し聞こえた。


「苦労をかけたな、エルネスタ」

「はッ、フェリアス領よりただいま戻りました」


エルネスタは頭を下げたまま王の言葉に応える。


「卿より嘆願のあったイーステリア中部の聖域化の件、準備をしておいた」

「ありがとう御座います」


彼女は現状でも下げている頭をさらに低くして、謝意を示す。


「戻ってよいぞ」

「はい」


そのやり取りの後、彼女は流麗な動作で身を起こし、歩を進めて臣下の列に加わる。


「で、其方がフェリアス領イーステリアの森に棲むコボルトの長か…… おもてを上げよ」


「…………」


一度目のこの言葉に対し、俺は頭を僅かに上げるのみに留めた。傭兵時代の記憶ではここで素直に顔を上げて後で団長殿にこっぴどく叱られたのさ……


「…… おもてを上げよ」


2度目のその言葉で頭を上げるが、まだ視線は合わせない。


「クルォオ ワゥアォオン、グルァ『初めてお目に掛かります、陛下』」


その一連の所作に対して、列席する臣下からどよめきが起こる中、最初の返答を済ませた後に王の姿を視界に収める。人の良さそうな、それでいて威厳も確かにある壮年の男が不思議そうな表情を浮かべていた。


「…… 貴公、東方諸国の出身か? その所作は砂漠の国々のものだな。あの辺りは砂コボルトたちの棲まう地であったと記憶しているが……」


「…… グゥ、グゥガァウオ ウォルフォウア ウォアン

『…… いえ、旅の人間から聞き齧った作法に過ぎません』」


「ふむ…… 貴公にきてもらったのは他でもない、黒雨のアルヴェスタ討伐への協力をしてもらうためだ、グレイオ」


静々と王から見て右列の直近に立つ白髪初老の魔導士が傍にきて、俺に三通の書状を見せる。それは司祭枢機卿の聖域指定書とフェリアス公、リアスティーゼ国王の聖域認定書だ。


「銀色の犬人殿、現時点で既にイーステリア中央部の森は聖域と成っている。ただし、フェリアス公の付帯事項により、ヴィエル村の住民の立ち入りは認められているが……」


ヴィエル村か…… 何とはなしに亜麻色の長い髪の少女を思い出す。あの村は地理的に木材加工と狩猟により生計を立てているからな。


それを排除するのも気が引けるし、長期的に考えればルクア村のように交流が持てないわけじゃない。


「クルゥオァン、グァオル『構いませんよ、魔導士殿』」


「では、この三通の書状は聖都ヴェリタス・クウェダムの教皇へ送ろう。そこの教皇府で保管されることになる」


さらに老魔導士は“誓約書”を取り出す。


「貴殿の要望に従い新たに用意したものだ。確認なさると良い」


そこには聖域に関する書状を教皇へ届けること、臣民への広布、相互の不可侵などのこちらが出した条件が記載されている。加えて、誓いを破った場合の対価と王の署名が書かれてあった。


「この“誓約書”の承認を以って、貴殿がエルネスタと交わした黒雨討伐の誓約の前提が満たされ、有効となる」


俺は頷いて“誓約書”を老魔導士に戻した。

その御仁はそれを王の下まで持参して手渡す。


「アレクシウスの名を以って、ここに誓約する」


確実に自身の魂に誓約の魔法がかかるように王自身がその内容を朗読し、最後に誓約を立てると“誓約書”が淡い青の光に包まれる。この色は誓約の成立を示しており、ここに誓約は成った。


「さて、これで当初の用件は済んだわけだが…… 私はコボルトを見るのが初めてでな、貴公に些か興味がある」


アレクシウス王の雰囲気が気安いものとなり、好奇の視線を向けてくる。

…… おかしいな、何だか嫌な予感がするぞ。


「コボルトは小柄で力の弱い魔物だと聞いていたが、其方は全く違う印象ではないか」


「アレクシウス王、この者はハイ・コボルト…… いや、さらにその先に進んでおるようですので、そのような印象となるに過ぎませぬ」


俺と同じく何か嫌な予感を感じた老魔導士が王の話の腰を折ろうとするが、その主は止まらない。


「なればこそ、その力を見たいのだッ!」


「恐れながら…… その内容は私が彼と交わした誓約に含まれておりません」


エルネスタのその言葉に王は暫く瞑目する。


「では、御前試合の褒賞として、“世界樹の種”を与えよう」


思わずピクリと耳が動いてしまう。


世界樹の種といえばかなりの貴重品だ。種そのものに霊薬としての効能はないが、世界樹の葉はありとあらゆる薬の代替となるし、森そのものを育てる効果もある。


「……よろしいのですかな、それを与えても」


「グレイオ…… 卿も散々試した結果、芽吹かせる事ができなかったではないか。まだ未練があるのか?」


確かに、世界樹の種を人族が芽吹かせた事例は無いに等しい、皆無ではないが…… 元来、世界樹を育てるのは森人族、所謂エルフ達だ。


俺たちの棲むイーステリアの南部の国境をまたぐ森にもエルフたちの領域がある。


どういう経緯で王国に世界樹の種があるのかは知らないが、これはエルフたちにとっても貴重な物だ。所持していれば何かしらの交渉材料にもなり得る。


ふむ…… 貰えるならば貰っておこう。


「グルヴォルファ、ガルォアァオン『その御前試合、引き受けましょう』」


俺は老魔導士が王を諫める前にそう切り出した。


読んでくださる皆様には本当に感謝です!!

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― 新着の感想 ―
[一言] 自身もコボルトの王だから下手に出るのはなんか違う 王同士は対等でなければいけないし 礼儀なのは分かってるが違和感半端ないし、一度下手に出てれば舐められそこにつけ込む輩が居ないとも限らないか…
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