過ぎたるは猶及ばざるが如し
食糧などの備蓄が十分では無いアルメディア王国軍を勝利に導くため、火計を試みる人狼達の前には歴史ある二重の首都防壁が立ちはだかる。
『ウォルグルァウゥ、オウァアオン (此処は俺がやろう、温存しておけ)』
『ワゥ 、ガルヴァウォオン (では、お言葉に甘えます)』
『グァオゥ アオウァアン (余力も必要ですからね)』
元々が肉体派であり、群れの序列争いでは拳で語り合う大神の眷属である故か、保有魔力量が多いとは言えない白狼の魔術師らが頷いて素直に下がる。
彼らに代わって片膝と両掌を地面に突き、近頃は余裕が出てきた自身の魔力を浸透させ、命を育む大地に内包された万物の根源たる力と干渉させた。
『ッ、ウォフ…… (ッ、これは……)』
『ヴォルォオオン (凄まじいですね)』
連鎖的な反応で励起して周囲を満たしていく土属性の魔力に魔術師二匹が驚き、人狼戦士たちの一部も動揺する気配を察しつつ、“土塊錬成” の魔法を発動させる。
至極、初歩的な属性魔法ではあるが…… 相応に実力のある魔導士が扱えば様々な構造物を一瞬で作り出すことが可能な事もあり、次々と隆起する膨大な土の塊がアーチ状に延びて硬質化し、外堀を越えるための堅牢な石橋となった。
一応、両端での水平反力や荷重に対する圧縮力なども大まかに考慮しているため、橋桁が無くとも大丈夫だろう。
我ながら良い仕事をしたものだと思い、くるりと背後を振り返れば狼少女のウルドやアイマンたちは少々引いていた。
『…… ワファ ガルウァ、アヴォルオ (…… 何やら豪快ですね、銀狼殿は)』
『ウォル ガルアァオオン? (いつもこんな感じなのか?)』
『オォン、ガゥルグルァオオウ (当然だ、群れの大将だからな)』
『ウァ ガォオアアァオオウゥ (少しやりすぎた感はあるけど)』
何故か得意げな腕黒巨躯の幼馴染は放置して、やや呆れた表情のランサーからも視線を外した先、きらきらとした瞳で此方を見つめる妹狐が一匹。
(兄ちゃん、かっけー♪)
生まれた時からの付き合いなので思考など筒抜けだが、下手に構って時間を浪費するのも微妙なので、敢えて触れずに踵を返す。
眼前の石橋を造った手前、安全性の証明も兼ねて幅20m程度の外堀を越えれば、気心の知れた仲間に続いて人狼たちも即席の架け橋を渡り始めた。
やがて全員が渡河を済ませて外壁まで到達したものの…… 平均的な人狼族の垂直跳躍力は4m前後だとミュリエルが話していた事もあり、恐らく身長を考慮しても伸ばした手は壁面の縁に届かないだろう。
どうするのかと興味深く観察していたら、数匹の人狼が “鉤爪付きの麻製ロープ” を取り出し、外壁天端の内側へ器用に投擲する。
各々が鉤爪の掛かり具合を確かめる中、念の為に身軽な妹狐を先行させておくべきかと思い至り、俺は立てた親指で斜めに壁面を示した。
「ウォアゥ? (壁の上?)」
可愛らしく小首を傾げた身内に頷き、持ち前の跳躍力で飛び上がっていく姿を追う。
身体部位の強化系能力に加え、狐人族が得意とする “空踏み” も発動させた妹狐は虚空を踏み抜き、再度の飛躍で難なく外壁天端に着地した。
その光景に気勢を削がれたのか、人狼達は皆で壁面をよじ登った後…… 続けて立ち塞がる内壁を前にして、鉤爪付きロープを全て預け、壁際から垂らしてくれと頼んだ。
なお、調子に乗った狐娘が壁面を利用した三角飛びも織り交ぜ、空踏み含めて三段階に及ぶ大跳躍を披露した結果…… 図らずも、内壁を飛び越えて市街地へ単独突入したのは愛嬌としておこう。
ともあれ、頭上より降ろされたロープ数本にて壁面を踏破すれば、遠くには牽制し合う王国軍と共和国軍が掲げる松明の明かり、眼下には静まり返った街並みを眺望する事ができた。
「ウォアゥ…… グォオゥ ガゥフ (集積場は…… 情報通り中央区か)」
「ガォル クァアオオォファウゥ (広場を流用しているようですね)」
澄まし顔でウルドが隣に並び、俺と一緒に篝火などが複数設置された首都中心部を黄金色の瞳で見遣る。
相応に離れているため明確に視認できなくとも、炎の明かりが照らす広い範囲には各都市や町村から届いた軍需物資が積まれているのだろう。
「ウォン クァオォ ヴォルウゥ (確かに分れた方が効率的だな)」
「ワフ、オアゥ ヴルァアウォン (あぁ、北側と東側から攻める)」
呟きに応じた赤狼の戦士長アイマンと内壁の歩廊で仔細を詰める事暫し、“ご武運を……” という狼少女の声に片手を挙げ、東側の担当になった分隊を率いて市街へ降り立つ。
移動に時間の掛かる此方が先発し、仮に存在が露見したならば陽動に徹して別動隊を支援する手筈だ。
(…… まぁ、下手をするつもりは無いけどな)
傾注しつつも遮蔽物が意図的に排除された内壁付近を疾走し、道幅が狭い路地に身を隠してから、両端に並ぶ建物の壁面を交互に蹴って跳ね上がる。
極力音を鳴らさず一連の動作で屋根に降り立ち、追随してくる後続の場所を空けるため、すぐさま路地を挟んだ斜め前方にある建物の屋根上まで跳躍した。
(よっとッ)
着地して数歩進んでから踵を返せば、久々の犬人姿で活動している事が理由なのか、機嫌良さげなランサーが傍へ飛び込んでくる。
(~~♪)
僅かに遅れて軽快な妹狐、さらに足の速い人狼三匹が乗り移ってきた時点で片手を突き出し、まだ向い側の屋根上にいるバスターや白狼らの残り六匹を制した。
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