あるが侭が一番
「見事なものだな、銀狼殿」
「くぉん、がるぅお~ん♪ (兄ちゃん、格好良い~♪)」
「やるじゃねぇか、大将」
景気よく爆発した事もあり、ディウブや仲間たちが興奮気味に褒めてきたので、此処は運よく火矢が命中したに過ぎない事実から目を逸らして頷く。
人狼犬の姿なら兎も角、人の皮を被った状態だと感覚的に鈍るため、実際の成功率は五割に満たない程度だったかもしれない。
内心で安堵した瞬間、轟音と爆炎に一瞬だけ意識を奪われていた周囲の兵士たちが俄かに喊声を上げた。
「「「うぉおおぉおおおぉお――ッ!!」」」
「よしッ、この機に攻めるぞ!」
「「「応ッ!!」」」
王国軍左翼の約四千人を任された老領主の号令で銅鑼が打ち鳴らされ、麾下の各領軍が可動式の破城槌を携えて再び漸進する。
なお、アイシャ・ハーディ率いるザトラス領軍は中衛に位置しているものの…… 猪突猛進な騎士令嬢の性格なら、状況次第で強引な突撃も辞さないため一抹の不安が残った。
「じゃじゃ馬娘の面倒は任せておけ、代わりにウルドたちを頼む。儂は指揮を執らねばならん故、離れる事などできんからな」
「分かった、予定通りに行動しよう」
ひらひらと片手を振るディウブに見送られ、黒髪の大男や村娘(偽)と共にデミル領軍から離脱して月夜の原野を疾駆する。
然程の間を空ける事無く、久し振りの犬人に戻って武装を整えたランサーも合流して、愛用の斬撃槍片手に肩を並べてきた。
「ウォルクァオオウゥ、ウォオオァオウゥ?
(解放感が堪らないわ、遠吠えしても良い?)」
「うぉるぅ、わるぁあぅ (隠密中だ、後にしてくれ)」
「ワフッ、ガルォアン (ふふっ、つれないわね)」
上機嫌な彼女の様子を見ていると人の姿で居続けるのが馬鹿らしくなり、徐々に減速して足を止めた。
仲間たちの訝しげな視線を受けながらも、垂れ耳コボルトのスミスに製作して貰った革鎧の調整用金具を緩め、ボキバキと骨鳴りの音を響かせて馴染んだ狼犬人の肉体に転じる。
「うぅ、ぐわぅ~ッ (うぅ、ずるい~ッ)」
「…… もう取り繕わなくても構わないのか?」
此方を見ていた妹狐が不平の声を上げ、透かさずバスターも確認してきたので首肯してやれば、二匹とも同じく集落の垂れ耳たちが用意した特製革鎧の留め具を緩ませ、それぞれに体毛や爪牙を伸ばしてモフモフ尻尾の狐人と腕黒巨躯の狼犬人に戻ったのだが……
久々過ぎて骨格や筋肉繊維、内臓の位置が変容する感覚に耐えられなかったようで、揃って気持ち悪そうな様子でよろけた。
「クォアゥ ガォアファオオウゥ…… (長いこと人間の振りしてたから……)」
「ワフ、クォファウゥ (あぁ、気持ち悪いな)」
「クゥアウ、ルォワン? (ランサー、頼めるか?)」
「ワゥ、ガルァアァオオン♪ (もう、しょうがないなぁ♪)」
此処に至るまで只の大型犬として振る舞っていた反動なのか、先っぽだけ白い尻尾を嬉しそうにフリフリしつつ、世話焼きな犬人族の聖槍使いが両掌に淡く暖かい燐光を宿す。
彼女は両掌を二匹の胸元に押し当て、着込んだ革鎧越しに聖属性の魔力を浸透させていった。
「ウォオルファウガァルグ、ウルォオン
(あらゆる不浄を拒絶せよ、清廉なる光)」
祝詞だけ聞くと凄そうな体調を整える初級魔法 “クリアライト” により、気持ち悪そうだった妹たちの表情が和らぐ。
これだけで聖堂教会を訪れた元気のない信徒が快復して、満足そうに寄進して帰るだけの事もあり、汎用性と効果は折り紙付きだ。
「ン、ワォアンッ (ん、ありがとッ)」
「クァアオン (助かったぜ)」
どうやら不快感が収まった妹たちを見遣りつつ、一緒に革鎧の金具を手早く締め直してから、夜風に紛れている同系種族の匂いを辿って再び駆け出す。
先んじて工作を仕掛けた彼らの待機場所は風上であるため、迷うこと無く進めば暗がりに溶け込んだ人狼たちの姿を確認できた。
……………
………
…
丁度その頃、件の第三首都門では共和国軍を率いるアルファズ将軍の指示により、馳せ参じた側近のセラムが陣頭に立っていた。
「まだ外壁の門扉を破られたのみッ、たかが数千の兵で二重の防壁は落とせん! アルメディアの雑兵どもを蹴散らしてやれ!」
「「「おおぉおおおッ!!」」」
怒声と共に防壁上より幾つもの弓矢が撃ち込まれ、車輪付きの破城槌を護るように進んできた王国軍の前衛隊を足止めする。
降り注ぐ矢の大半は紛れ込んでいた風使いの魔術師が “ウィンドプロテクション” を発動したので、空高く舞い上げられてしまったものの…… 術式の効果が途切れた隙を狙い、弓騎士セラムの放ったクロスボウの矢が目障りな相手の右肩を射抜いた。
「流石にローブ姿は迂闊だろ、目に留まるッ」
「ぐぅッ、だ、だから嫌だったのよ、前線なんて……」
激痛に呻いた女魔術師を背後から掴み、屈強な兵士が大盾の内側に引き込んだ直後、間断なく共和国の守備隊が第二射を一斉に放つ。
中型盾しか持たない領兵の一部が矢傷を受ける最中、次射も凌いだ中核たる猛者たちが再び風の加護を受け、破城槌を押しながら吶喊して内壁側の落とし格子に先端を衝突させた。
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