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御令嬢の名馬と腕黒巨躯の狼犬人

近しい種族と酒を酌み交わして二十日(はつか)足らず経過した頃、先の勝利に勢いづいた王国軍は国境沿いの城塞都市ジャルル及びチェルケの町を占領下から開放し、留まる事無く共和国領内へと進軍していた。


因みに東部へ進むほど砂漠化する傾向や東西文化を繋ぐ地理的な要因のため、旧アトス王国の中心地でもあった首都コンスタンティアは共和国の西端に位置する。


つまり、そこまでアルメディアの王都エディルと距離が開いている訳ではないのだが…… 少なく無い物資を置き去りに撤退した共和国軍が途上の城塞都市で略奪行為をしており、困窮した市民への対処で先の戦利品を吐き出させられた上、想定外の時間まで喰わされてしまった。


(…… いい加減に帰りたくなってきたな、やはり()()()()()()()の故郷か)


姿を(いつわ)ったまま馬上で揺られつつ、ぼんやりとイーステリアの森に残してきたコボルト達を思い浮かべていると、不意に二人乗りの騎馬が少しだけ早い並足(なみあし)歩行で通り過ぎていく。


その手綱を握っているのは黒髪の大男に化けた我が友であり、(たくま)しい背中には幸せそうに頬を緩めたアイシャが抱き付いていた。


「ふふっ、上手いではないか、バスター殿」

「あぁ、何となくコツが掴めてきたぜ」


などと適当なことを言っているものの、矢鱈(やたら)と風格を感じさせる騎士令嬢の愛馬に並ならぬ胆力があって、野獣の気配を隠すのが下手な相手にも動じないだけだ。


もし、娘を(おもんばか)った領主ウィアドが用意した一級品では無く、単なる騎兵に宛がわれるような軍馬なら、以前同様に本能的な恐怖で暴れ出してしまうだろう。 


「わぅ、がおふぁるう…… (まぁ、言わぬが華だ……)」

「わぉう~♪ (だよね~♪)」


少々得意げなバスターの後方にいたマリル(偽)が騎馬を隣に並ばせ、不慣れな手綱捌きに苦戦する幼馴染を見つめながら微笑む。


若干、いちゃつきたいアイシャの策略にバスターが()められている構図でも、本人が楽しそうだから俺も放っておく事にして、明日には辿り着くであろう()()コンスタンティアに想いを馳せた。


「懐かしくて嬉しい限りだが……」


傭兵団 “砂漠の狼” が長らく拠点にしていた件の都市には堅牢を誇る長大な防壁があり、引き籠った共和国軍が内部で態勢を整えてしまうと後日の再侵攻も有り得る。


この機に乗じて余力を削ぎ、数年間の地域的な安寧を確保するためには未だ一手が必要となるものの、首尾よくいけば他国に嫁いだ従姉と従姪(じゅうてつ)の無事を想う依頼主(アレクシウス王)の期待に応えられる筈だ。


何処か甘さが抜けない思考に呆れつつも、黙々と荒野を進んだ翌日…… 遠くに共和国首都の防壁を(うかが)える位置まで到達した王国軍は移動陣形から戦闘陣形となり、左翼へ鞍替えされたザトラス領軍はデミル領軍の隣に陣取って深夜を迎える。


その少し前に支度を済ませて大天幕へ(おもむ)いた俺たちに対し、先程から不満げなアイシャが鋭い視線を投げ続けていた。


「…… 右翼から左翼への配置変更は些事(さじ)として、弓兵(アーチャー)殿らを他領に貸出せという指示は受け入れ難い。なにせ経験豊富な将兵は貴重だからな」


「一度は軍議で首を縦に振っただろう」

「むぅ、幾ら私とてダウド将軍の勅命(ちょくめい)は断れない」


やや横柄な態度で不貞腐れた御令嬢だが、ここ数日の乗馬訓練で仲良くなったバスターが頭を撫でると高身長のため余りされた事が無いのか、顔を朱色に染めて押し黙ってしまう。


「うぅ、自分から迫るのは良いが…… 逆は照れる」

「はッ、可愛らしいところもあるじゃねぇか」


にやりと笑って片刃の大剣を肩に担いだ幼馴染を半眼で見遣(みや)り、何やら深みに(はま)りそうな迂闊(うかつ)さを危惧すれども、当の本人は無自覚な様子だ。


此方(こちら)の意図に気付かないままアイシャとじゃれ合った後、奴は飄々(ひょうひょう)とした態度で肩を並べてきた。


「さて、暫くは別行動だ。俺達が居ない間に無理はしてくれるなよ?」

弓兵(アーチャー)殿こそな、こっちは適当に暴れさせてもらうさ」


自然体で気負いなく言い放った騎士令嬢の笑顔に見送られ、彼女の座所(ざしょ)である大天幕の外に踏み出す。


近くの草むらで伏せていた大型犬姿のランサーも伴い、銀毛の狼犬人たちがデミル領軍の陣地を訪ねて暫く…… これから始まるアルメディア王国軍の夜襲に先んじて、人の皮を被った精兵(せいびょう)らが動き出そうとしていた。


群長(むれおさ)、手筈通り暗がりに紛れてきます」

「慎重に頼む、しくじるでないぞ?」


「大丈夫ですよ、ディウブ様。私がちゃんと目を光らせておきます。では皆様方、少し出掛けましょうか」


(ほの)明るい半月の下、黄金色の瞳を煌々(こうこう)と輝かせたウルドに率いられ、同じく僅かな光でも視野を確保できる人狼族の戦士たちが松明も持たずに暗がりへ消えていく。


一度陣地の斜め後方へ抜け、ザトラス及びデミル領軍を含む王国軍左翼が攻撃目標としている第三都市門とは違う方角に離脱し、程よく離れた草原地帯まで密かに移動した彼らは所持する荷物を次々と下ろしていった。


さらに数人以外は武装を解除して草陰に隠しており、若手を(まと)めていた戦士長などは上着まで脱ぎ始めて、筋骨隆々な裸身を惜しげもなく晒し始める。

日々、読んでくれる皆様に心からの感謝を!

誰かに楽しんで貰えるような物語を目指していきます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です!(`・ω・´)ゞバスター、、アイシャの好感度を無意識に上げていってる それにしても馬に乗れた理由がバスター以外みんな知ってたとはw いよいよ夜戦ですね 一体どうなるのか、…
[一言] バスターさんはもう現地の群れとの連絡員兼務で 令嬢のところに残っちゃえばいい気がしてきましたが 多分本人にその気はさらさら無いですよね 夜の戦場ですっぽんぽん HENTAI!ではなくアレで…
[一言] 更新ありがとうございます。 ウルドたちがどれだけの働きを見せるのか楽しみです。
2020/02/27 14:49 退会済み
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