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よし、ひと肌脱ぐか



なお、敵対する共和国軍とは日暮れ頃に数キロの距離まで近接したが、双方が行軍で疲れたまま夜戦に突入するという事も無く…… 明日の衝突に備えて英気を養うため、戦陣に移行した状態での野営となる。


そんな中で俺や妹たちは領軍の騎兵中隊に混じり、王都近郊なので戦地とは思えない豊富な食材で作られた野菜スープや、炭火焼きラム肉が挟まったパンなどの夕食を取っていた。


「きゅあ~ん♪ (うまー♪)」


「ワフ、グゥッ、ガゥアゥ ワゥオウァアオン

(あぁ、もうッ、口端から肉汁が垂れてるわよ)」


豪快に肉料理(ケバブ)へ齧り付いていた村娘(偽)こと、マリルに扮した妹の口元を隣に座る大型犬が見遣(みや)り、ひょいと掲げた前肢(まえあし)で拭う。


一見すると優しい姉のような感じだが…… マザーから聞いた話だと、数日の僅差で俺たち兄妹の方がランサーよりも生まれは早かったりする。


(まぁ、ほとんど変わらないけどな)


それでも、“頼れるお姉さん” としてコボルトの集落で彼女が親愛を集めているのは、ひとえに面倒見が良い性格のためだろう。


何気ない日々の暮らしに()いて、群れの絆を深めてくれる幼馴染に密かな謝意を捧げ、俺もアトス王国時代からの郷土料理に舌鼓を打った。


下拵(したごしら)えしたラム肉を幾重(いくえ)にも固め、回転させながらじっくりと炭火で焼き、()ぎ切りにしてパンに挟んだ肉料理(ケバブ)の味が心に染みる。


(昔も傭兵部隊の連中と焚火を囲んで食ったな、旨いを通り越して懐かしい)

 

などと銀髪の弓兵が過去を想起していた同時刻…… 自らが指揮する事になった歩兵中隊の皆に馴染むため、夕餉(ゆうげ)を共にしている黒髪の大男は少し不機嫌そうな唸り声を上げていた。


「…… 食べ(がた)い、好きにさせてもらえないか?」

「ふふっ、バスター殿は照れ屋さんだな、遠慮は無用だぞ」


敢えて兵士らが誰も触れずに見守る最中、ふらりと現れたアイシャが寄り添いながら、甲斐甲斐しくラム肉入りのパンを食べさせる。


高身長なために異性と並んでも微妙な印象となる騎士令嬢も、鍛え上げた巨躯を誇る大男との組み合わせならば(さま)になっており、(はた)から見える分には良い雰囲気だ。


「ほら、あーん♪」

「ぐッ、判断を誤ったか」


今更、幼馴染たちと食事をしていれば良かったと思えども既に時遅く、群長(むれおさ)から揉めごとを起こさないように念押しされている現状もあり、バスターは衆人環視の下で渋々と口を開いた。


(料理自体は旨いんだけどな……)


黙して咀嚼(そしゃく)する相手を嬉しそうに眺めていたザトラス領軍の司令官に向け、歩兵中隊の一同を代表して副隊長のハムザが話し掛ける。


「御嬢様、これはもしや…… 次期ハーディ家の当主が決まる流れでしょうか?」

「うむ、私に惚れさせるべく善処している」


「「「うぉおおおおッ!!」」」


聞き耳を立てていた兵士たちが盛り上がり、健康的な小麦肌を持つ金髪碧眼の美人であっても高身長と戦場に立つ剛毅さ故、嫁の貰い手が無いと噂されている領主の娘を祝い出した。


渦中のバスターは少々不吉な予感を覚えたものの、“士気高揚に繋がるなら構わないか” とだんまりを決め込む。


王国の興亡を賭けた共和国との一戦を控え、護国のために集った兵士らが思い思いに過ごしている内に、賑やかな食事の時間も終わり……



犬姿の幼馴染(ランサー)に抱き付いて(たわむ)れる妹を眺めていた俺は護衛の名目で拉致られ、アイシャたちと一緒にダウド将軍の大天幕まで(おもむ)いていた。


そこで招集された諸侯に伝えられた敵勢の数は三万前後、自軍の倍近いザガート共和国に対してどう動くか、斥候兵が持ち帰った最新の情報を頼りに議論が交わされていく。


(まぁ、奇を(てら)うのは常道だな)


軍議での発言権は領軍の司令官と大隊長にしか無いため、元より興味が無いバスターと並んで観察する事暫(ことしば)し、両翼の陽動で相手の包囲を誘ってから敵本陣に全軍突撃するという大筋が(まと)まった。


ただし、戦場での流れ次第ではその限りに非ず、臨機応変に行動して欲しいとの補足が将軍殿より成され、騎士令嬢がにやりと口端を歪めたので注意しておく。


「戦時の “臨機応変” は成功したら不問だが、失敗なら責任を問われるぞ?」

「分かっているよ、弓兵(アーチャー)殿…… 要は我らが勝てば良いのだろう」


確信犯的な笑みを見せるアイシャに溜息して視線を()らすと、先程から熱心かつ常識的な献策を連発して、此方(こちら)に評価の上方修正を余儀なくさせたマイラスが側近に何やら呟いている。


「陽動からの一点突破は奇策足りえるが…… 厳しいな」

「と言っても、取り得る選択肢がありません」


弱気含みな言葉が人化していても鋭いコボルト由来の聴覚に届き、思わず頷いてしまう。


古今東西、兵力に劣る側は局所的優位性を求める傾向があり、大軍の指揮者は奇策や機動戦術に惑わされぬよう慎重になるものだ。(くだん)の共和国軍が安易に釣られてくれるとも思えない。


(…… ならば警戒心を利用するのもありだな、ひと肌脱ぐとするか)


前世の傭兵経験と狼犬人の本能が幸先(さいさき)の悪さを訴える中、俺は領軍内での()り合わせの場に於いてアイシャを(そそのか)した後、土産の酒瓶片手にふらりとマイラスの陣幕を(おとず)れた。


意外と堅物だったおっさんに酒を勧めて不謹慎だとキレられたが…… 根気よく説得して協力を取り付ける事に成功した翌日、互いに朝駆(あさが)けの奇襲を意図していた両軍はナイア平原で相対(あいたい)する。


日々、読んでくれる皆様に心からの感謝を!

誰かに楽しんで貰えるような物語を目指していきます。

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― 新着の感想 ―
[一言] ああやめてぇ・・・! ってな色仕掛け・・・ 「カミさん」と地元だけでいっぱいいっぱいですね・・・
[一言] しっかりしてるかどうかと生まれの遅い早いってあんまり関係ないよね・・・ ケバブ(゜∀゜)ウマウマ バスターさんが攻略され中 防衛に関して援護なし で、まずは朝駆け合戦
[一言] 更新お疲れ様です!(`・ω・´)ゞ まさかランサーがお姉さんじゃ無くて妹だったとは、、あんなに面倒見がいいからビックリですw それにしてもアーラシュとバスターのラブラブぶりが、、そのままバス…
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