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形あるものはいずれ壊れるが定め

大方(おおかた)、育ち盛りの仔ボルトらを養うため、この界隈に棲む草原種の犬人達(ステッペンコボルト)が家畜に手を出したのだろう。


(時期的に珍しくもない話だが……)


豊かな土地で暮らす森林種の俺達(フォレストコボルト)には余り関係ない話だと、冒険者連中の勘違いを正そうと思案した瞬間、それを好機と見做(みな)した軽装戦士が切り込んできた!


「うらぁあああぁッ!!」

「グァ、クゥッ!?『ちょ、危なッ!?』」


咄嗟(とっさ)に飛び退いて袈裟に振り抜かれた長剣を躱せば、漏れ聞こえた念話に相手が一瞬だけ面喰ったものの、さらに鋭く踏み込んで切り上げてくる。


「グッ、ヴォルア!『ぐッ、鬱陶(うっとう)しい!』」


此方(こちら)も左掌で剣帯に吊るした鞘を掴むと同時、右掌で素早く曲刀の柄を握り込み、低い姿勢から神速の抜き打ちを放つ!


「ぐぉおッ!?」


狼犬人の膂力(りょりょく)と速度を乗せた一閃が(きら)めき、迫る凶刃を弾くに留まらず、襲撃者の体勢すらも崩す。


丁度、良い具合に隙だらけなので右膝を突きだし、その状態から繰り出した上段蹴りで無防備な顎先を穿った。


「ぐぶぁッ」

「クゥファオゥ……『少し寝てろ……』」


僅かな攻防の末に血気盛んな相手の意識を奪いつつも、やや遅れて仕掛けてきたもう一人の前衛戦士とバスターが切り結んでいる様子を(うかが)う。


それにより意識が逸れた刹那、倒れていく軽装戦士の背後から弓使いの女が斜めに飛び出し、皮鎧ごと貫通する距離で俺の腹部に(やじり)を向けた。


「喰らいなさい、獣ッ(けだものッ)

「ガゥウオゥア『失礼な奴だな』」


矢が放たれる間際に身を引かせて射線より逃れ、そのまま右側方へ飛び込んで彼女の頭部へ裏拳を叩き込む。


「きゃあぁッ、う……ッぅ…」


「ワォゥ!『よっと!』」

「あうぅ~」


拳撃を喰らって朦朧となった相手の首筋目掛け、狙いすました手刀を容赦なく叩き込んで昏倒させた直後、不意にケモ耳へ鈍い破砕音とバスターの動揺した声が届く。


「グル、ォオアッ!? (なん、だとッ!?)」


未だ健在な魔術師を視野に収めたまま、立ち位置を変えて状況を確認すれば、奴は打ち倒した前衛戦士の前で愕然と立ち竦んでいた。


なお、その手に握られた愛用の大剣は見事なまでに根本からポッキリと折れている。


「ガゥアッ、グォオ! ウォフゥ…… ガゥオ

(くそがッ、最悪だ! 許せねぇ…… 殺そう)」


静かな怒りを秘め、ぼそりと呟いた腕黒巨躯の幼馴染みが左掌を掲げて、体内で生成される麻痺毒に塗れた狼犬の爪を伸ばす。


ここ最近はヴィエル村の者達と交流があるので、人族にも慣れてきたとは思っていたが、本来の荒々しい気性は変わらないようだ。


半ば無意識の内に、中核都市のギルド併設酒場で一緒に騒いだ冒険者らの顔が脳裏を過り、思わず口を挟んでしまう。


「ヴォファル グルァアゥ、グゥ キュウァアォオウ

『不毛だから止めておけ、もう限界だったんだろう』」


「グウゥ、アオゥ…… グオオゥ ガル?

(ぐうぅ、けどよ…… どうすんだコレ?)」


不服そうに唸りつつもバスターは麻痺爪を収め、折れた大剣の柄を握ってプラプラと左右に振る。


「グゥウォルアウゥ、ウォオン…… クゥグゥオァアアン

『後で新調してやる、ところで…… お前はもう良いのか』」


「無駄な事はしない主義でね、降参だ。察するに仮面の効果か何かで、言葉は理解できるんだろ」


先程から錫杖を降ろして魔力も霧散させた魔術師の男が引き攣った顔で答え、ようやく真っ当な意思疎通が可能となった時点で、既に偶発的な小競り合いは粗方(あらかた)終わっていた。


「ウォオガゥ、グルォ グゥガォル『今更だが、俺達は旅のコボルトだ』」

「いや、あんたらほとんど人狼化した変異種じゃねぇかよ!」


「ガォフアァウオオォ、ガォアァン『否定はしないけどな、犬違いだぞ』」


「依頼書の情報では体格の良いウォリアー型の変異種が数匹を率いていた筈なんだが…… リゼット村の家畜を襲ったのはあんたらじゃないと?」


問い掛けに辟易(へきえき)した表情で頷いて、リアスティーゼ王国から旅をしてきた事を伝えると、バスターに(いぶか)しげな視線を投げていた魔術師が項垂(うなだ)れた。


それから周囲の草場に倒れた三人の冒険者仲間を一瞥し、重い溜息を吐く。


「いきなり仕掛けてすまなかった、今回は因果応報だ」


「ガゥアウァオン…… ウオォ、グルァア

『本当にそうだな…… 行くぞ、バスター』」


「グォルゥウ、ウルォ ガルウゥ クルァオフ?

(待ってくれ、得物を貰っても構わないか?)」


おもむろに指差されたのは意識を手放した軽装戦士が取り落とした長剣だ…… 確かに何処かで購入するまでとは言え、徒手では心許ない事に加えて、そもそも大剣が折れた原因も連中にある。


「グゥヴォガゥ…… 『あの長剣だが……』」

「好きにしてくれ、俺のじゃないけどな」


投げやりな言葉を理解したバスターが情けなく転がった相手の傍へ歩み寄り、腰元の剣帯から鞘を引き抜く。


そこに拾い上げた得物の剣身を納めて、ゆらりと立ち上がるのを見届け、俺は聴覚や魔力探知に傾注(けいちゅう)しながら踵を返した。


念のために即応できる状態で歩み去れども…… 言葉通りに白旗を上げたらしく、魔術師に此方の背中を狙う意図は感じられない。


「ガゥ、ガゥルウオオゥ ヴァオル

『さて、昼飯を探す作業に戻ろう』」


「グォルォファウ、グアォ ヴォオルォオオン?

(余り待たせると、ダガーが煩いんじゃないか?)」


冷やかしてくる腕黒巨躯の幼馴染みに肩を竦めつつも、折れた大剣の代わりを調達するため、現在地から港町への経路を脳内で辿っていく。


その過程には先ほどの冒険者連中も拠点にしている可能性が高い、鍛冶と闘技場の都市ヴェロナがあった。

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