表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
215/274

早朝の襲撃とバルベラの小鬼

そこから多少の時間が経過して、微かな陽光を(まぶた)の裏に感じ始めた早朝、微睡(まどろ)んでいた俺のケモ耳に緊張感を含む静かな声が届く。


「グルォ、ガルグ…… (皆、敵襲だ……)」

「ガゥッ (ちッ)」


眠気を払って飛び起きれば、寝転がるアックスの脇腹を軽く蹴り飛ばして目覚めさせながら、長盾の持ち手を掴むブレイザーの姿が視界に入った。


「グゥッ、クァアゥ ガルウオゥ! (もうッ、ちゃんと起きてるよぅ!)」


やや切れ気味に起き上がる親友の苦情を聞き流して、奴が借り物の長盾で飛来した矢を弾くのとほぼ同時に、此方も地面に右掌を突いて “地雷” の魔法を前方へ発動させる。


轟音を響かせて吹き上がる土砂で追撃の矢二本を凌ぎ、頭を低くしたところで木陰に身を寄せたセリカが反撃に転じて、(しゃ)に構えたエルフィンボウから矢を放った。


「ギアァッ!? (ぎあぁッ!?)」


前方50mほど先の茂みから()()()()()悲鳴が上がり、当たり所が良かったのかドサッと重い物が倒れ込む音が鳴った。


「あ、小鬼(カヴァル)……」

「ヴォフォウァク ガォオウゥ (奴らどこにでも居やがるな)」


若干辟易しながらも、木々に紛れるのを止めて三方から走り込んできた小鬼どもの内、最も初動が早かった左側へと逆に駆け出す。


「ッ、ギャオァ! (ッ、喰らえや!)」

「クォンッ (穿(うが)つッ)」


先駆けのゴブリン・ファイターが鉄剣を脇へ構えて飛び掛かろうとする機先を制し、右手で剣柄を掴んで左手は鞘へ添えた状態から、(たぎ)る魔力を籠めた右足で地面を踏み抜く。


「ウッ、グブ…… ァア…… (うッ、ぐぶ…… ぁあ……)」


大地より生じさせた土塊の牙で無防備な相手の下腹を貫き、そのまま刃を鞘走らせて躍り出た後続のゴブリンも一閃の下に切り捨てた。


「ヴァドッ! (畜生ッ!)」

「ガルヴァッ (犬如きがッ)」


何やら失礼な感じの言葉を吐き捨て、左右からショートソードで切り込んできた二匹の斬撃を後ろに躱し、振り下ろした刃を戻す前に右側へ踏み入って片方の首を跳ねる。


「ウ、ウワァアッ! (う、うわぁあッ!)」

「クッ!? (くッ!?)」


恐怖を顔に張り付かせた残り一匹の刺突が思いの(ほか)鋭く、何とか身体を捻って回避するも、革鎧に覆われていない脇腹の薄皮一枚を切り裂かれてしまう。


内心ひやりとしつつ、組討ちの間合いとなったゴブリンの顔面を左掌で掴み、属性魔力を収束させた。


「ヒッ (ひッ)」

「ヴォルオ、ガルファ (切り裂け、風刃)」


爪を喰い込ませて撃ち放った魔法にて、苦しませる事無く一瞬でその命脈を絶った後、軽く脇腹の血を(ぬぐ)う。


なお、暫時の攻防にて銀毛の狼犬人が左側の小鬼たちを仕留めていた頃、初撃を防いだブレイザーも身を低くして右側へと駆けていた。


躊躇(ためら)う事無く速度を活かした踏み込みで視認し難い黒剣を振り抜き、僅かに反応が遅れたゴブリン・ファイターの白刃を弾き退け、革鎧ごと胸を深く切り裂いて致命傷を刻む。


「グアッ、ウァア……ッ (ぐあッ、うぁあ……ッ)」

「ギャオゥッ! (くそがッ!)」


(たお)れていく大柄な小鬼戦士の側方から飛び掛かってきたゴブリンの斬撃を剣身でいなし、一歩退いて半身で躱しながら、剣柄より離した左手の爪で眉間を穿った。


「…… クルァア (…… 燃えろ)」

「ギ… ァァアァッ (ぎ… ぁぁあぁッ)」


頭蓋を貫通させた爪先に獄炎を灯し、瞬時に内側を焼き尽くしたブレイザーは一旦飛び退いて距離を稼ぐが、逃がすまいと別の一匹が武器を手に後を追う。


軽く舌打ちして意識を集中させた刹那、風切り音を鳴らして二本の矢が左方より飛来し、対峙する相手の右肩と心臓付近を射抜いた。


「グゥ…… ウゥッ (ぐぅ…… うぅッ)」


よろけつつも振り降ろされたショートソードを小弓付ガントレットで打ち払うと、追随してきたゴブリンは力なく地面に倒れ込んでいく。


(ッ!?)


だが、敵方にも弓兵はいる訳で…… セリカの的確な狙撃に賞賛を送る暇もなく、夜明けの薄昏い中で(たわ)んだ弦が鳴らす音を獣耳に捉える。


咄嗟に長身痩躯の猟犬が片手を地に突いて、両脚を広げる格好でしゃがみ込んだ隙を狙い、右側で最後に残ったゴブリン・ファイターが顔面へと強烈な蹴りを見舞う。


「ウォオオォオッ!(うぉおおぉおッ!)」

「グゥッ (ぐぅッ)」


交差させた腕を蹴り飛ばされたブレイザーは自ら後方へ転がって片膝を突き、間断なく振り下ろされたサーベルに即応して、刃の腹に左手を添えた黒剣で受け止めた。


「デスラゥッ (押し切るッ)」


気勢を上げた小鬼族の戦士が片刃の峰に左掌を当て、全体重を乗せて首元を跳ねようとするのに(あらが)い、左指が巻き込まれないように黒い剣身を傾かせて、(とど)めた刀身との均衡を意図的に崩す。


「フッ (ふッ)」


短く呼気を吐き、相手の刃を斜め下方へ受け流すと同時に立ち上がり、その頸動脈を撫で斬りにする。


「グゥウッ! (ぐぅうッ!)」


吹き出す血を左手で押さえてふらついた小鬼族の戦士はサーベルを取り落とし、ゆっくりと(くずお)れていった。


その様子を最後まで確認する事無く木陰にブレイザーが身を隠せば、密接状態が解消されて誤射の可能性が無くなった故か、再び飛来した矢が木肌を削ぐ。


(ッ、厄介だな)


付着する毒物を猟犬の嗅覚で捉え、薬師ミアが持たせてくれた汎用解毒薬とエルフ巫女の存在に感謝を捧げるも…… 即座に応射されたセリカの矢が樹上へ潜むゴブリン・アーチャーを射落とした。


彼女がここまで自由に動けるのは正面から襲い来る小鬼三匹に向け、薄闇の中でリスティが放った属性魔法 “炸裂曳光弾” の賜物である。


白銀の光源へ中型盾を(かざ)したゴブリン・ヘビィウォリアーは兎も角、随伴する二匹の一般種は視界を奪われ、閃光魔法と連動して飛び出したアックスの長盾と戦斧で早々に(たお)されていた。


現状では奇しくも、互いに筋骨隆々な犬人族の聖騎士と小鬼族の重闘士が牙を剥き、同じような盾と戦斧で殴り合っている。

読んでくださる皆様の応援で日々更新できております、本当に感謝です!

ブクマや評価などで応援してもらえると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ