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銀狼 VS サヴェージファング

「ヴォルガゥッ!! (打ち砕くッ!!)」


咆哮と共に属性魔法による土塊のガントレットで覆われた右前足を振り抜き、俺は重く硬い一撃をサヴェージファングへと繰り出す。


「ガゥウッ!」


だが、奴は体格に似合わない軽やかなバックステップで背後の樹木を避けて斜めに飛び退き、着地の瞬間に魔力を帯びた両前足で地面を砕いて石散弾を撃ち放った。


既に遠隔攻撃がある事は織込(おりこ)()みのため、即座に身体を木陰へ隠して石弾を(しの)ぎ、全身に魔力を滾らせて銀狼姿のまま土属性の金剛体を発動させる。


「フゥゥウゥウッ…… グルォオオッ!!」


一拍の後、強靭な筋肉で盛り上がった四肢を(たわ)めて迅雷の如く駆け出し、獰猛な魔獣の横側から低い軌道で(ふところ)へ飛び込む。


「ウォオオオッ!! (うぉおおおッ!!)」

「ッ!? グァアァアアッ」


想定を上回った速度の襲撃にサヴェージファングの反応が遅れ、筋線維を発条(バネ)に弧を描いて繰り出される爪撃(そうげき)が横腹を切り裂いた。


さらに血を撒き散らして後退した獲物を逃さず、俺は大顎を開けて喰らいつこうとするが、その刹那に魔獣の体毛で隠された両肩の器官から “骨の槍” 二本が飛び出す。


「グルォオオォアァアアァッ!!」

「ワフィッ!? グアァッ (何だとッ!? ぐあぁッ)」


咄嗟に急制動を掛け、鎖骨頸筋(さこつけいきん)僧帽筋(そうぼうきん)を引締めて突き刺さる鋭い骨槍(ほねやり)を浅い範囲で押し留め、深手を避けながらも両前足を通して地面へ魔力を流し込んでいく。


「ッ、ウォオオン、ガルゥァアァッ! (ッ、悉くを喰らえ、貪欲なる牙ッ!)」

「ウガァアァァアアァァアァッ!?」


魔獣の癖にしたり顔を浮かべて僅かに油断したサヴェージファングの直下で、土属性の人外魔法 “縛鎖の牙” が発動して次々と土塊の牙が四肢や下腹を貫いた。


「グゥ、ヴルァオゥ!!(ぐぅ、ざまぁみろ!!)」


痛みに苦痛の声を漏らす魔獣を睨み付け、至近から “音撃の咆哮(サウンドブラスター)” を浴びせてやろうと大顎を開く。


衝撃波で脳震盪(のうしんとう)を引き起こしてから止めを刺す算段の下、丹田に籠めた風属性の魔力を開放しようとした瞬間、横合いから疾風の如く孤影が飛び込んできた。


「ヴォルフッ!! (切り裂くッ!!)」


先にレッサーファングを倒して隙を窺っていたのか、妹が土塊の牙で拘束された獰猛な魔獣の下腹へ右逆手に持った機械式短剣を突き刺し、持ち前の跳躍力で斜めに飛び上がる。


「グッ、ガァアァァアァッ」


縦に腹を切り裂きつつも中空で身体の上下を入れ替え、短剣を手放した妹は両手の爪で魔獣の背を鷲掴んだ倒立状態から、掌に狐火を灯して体表を焼き焦がした。


なおも止まらず、動きを “縛鎖の牙” で封じられてもがく魔獣の背に腰を降ろして馬乗りとなり、妹は腰元に吊るした刺突短剣(スティレット)を両手で逆さに持って脳天へ突き立てる。


「…… グォオル ウォグアァウル クヴァルオォウゥ

(…… あんまり苦しませるのは趣味じゃないからね)」


「ァアァァアァ……ゥ、アァ………ッ……」


何やら良いところを持っていかれた感じがするものの、断末魔の声を上げたサヴェージファングの四肢から力が抜けて(たお)れ、瞳は光を失っていく。


それを以ってレネイドと対峙していた残りのレッサーファングが傷だらけで逃げ出すのを一瞥し、視線を戻した時には妹の姿が多少の変貌を遂げ、コボルトというよりは犬混じりの狐人になっていた。


……………

………


もう何度目かになる真っ白い闇に意識が覆われて、気が付けばいつもの眩しい白銀の螺旋階段にあたしは佇んでいた。


「ウ~、ヴォルオン? (ん~、また昇るの?)」


この場だけで思い出す事を許される記憶を辿れば、階段を昇らないと(らち)が明かない気がするし、来た道を戻るよりも前に進む方が自分らしいと考え、気負わずに一歩を踏み出す。


どうやら生命の(ことわり)は進化を求めているようで、今日も誰かの祝福と喝采が振り注ぐけれど…… 腑に落ちない部分もある。


小さな枠組みで捉えるなら進化は適性生存と繁栄であり、それは種族としての本懐であるものの、大枠で考えた場合には他種族の排除や支配に他ならない。


であれば、行きつく先はきっと増え過ぎた同種との争いと自滅だ。


「ガルゥウ、ワファヴォアウゥ…… (それって、なんか(うつ)だよね……)」


似たような歴史が悠久の中で連綿と繰り返され、無様に()()の輪舞を踊っているように思えても、実際は()()を描きながら高次に至り、やがて終局に辿り着くのだろうか。


(ま、此処の事は全部綺麗に忘れるし…… どうでも良いかな?)


進化と言う現象が無機的な仕組みなのか、有機的な意思が関わっているのかなど疑問は尽きないにしても、その枠組みの中で生きている以上は従うしかない。


持ち前の気楽さで割り切って階段を踏みしめ、軽い足取りで生命の樹を昇っていくと少々開けた踊り場に到着し、意識が光に包まれて浮上していく。



通称:ダガー(雌:妹)

種族:妖狐

階級:フォックス・エヴォーカー

技能:跳躍強化(大 / 効果は一瞬) 聴覚強化(小 / 常時)

   中級幻術 狐火

   転写眼 (一個体分の姿を魂に刻み込む)

   姿形模写 (転写眼で記憶した姿に変化)

   空踏み (空中に魔力場を形成 ※連続不可)

称号:虎の威を狩る狐娘

武器:刺突短剣(スティレット)(主) 機械式短剣(補)

武装:小綺麗に磨かれたレザーアーマー


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