vs.不良グループ
「うわぁぁぁぁぁぁ───ぎゃっ!」
「ほい、次」
「おおおお───ぐぼっ!?」
「はい、次」
「す、すみませんでした! もう二度とこんなことはいたしません! 警察に自首するんで、許してください!!」
「早く帰りたいんだ、そっちから来ないならこっちから行くぞ」
「や、やめっ!? ───ぎゃぁぁぁあぁあ!!」
倉庫内では惨劇が繰り広げられていた。
始めこそ勇猛果敢に挑んできた男達だったが、半数程返り討ちにしてやったところで戦意を失い、血相を変えて逃げ出すようになってしまった。
聞こえてくるのは必死に許しを請う情けない声ばかり。まるで俺のことバケモノのように扱いながら、手に持つ武器を無造作に投げつけてくる。投げつけられた武器は全て俺のものとなり、その度に男達は泣き叫びながら方々に散っていった。
……バカなのかな?
「ぐえっ!?」
追いかけまわすのも面倒なので、何人かの男達は武器を投げ返すことで処理させてもらう。体中がバキボキで辛いから、正直言ってちょっと助かる。
ていうか、この方法が一番手っ取り早くて楽だな。
「よいしょ、と」
「……へ? ──や、やめっ」
ナイスアイディアを思いついた俺は足元に転がっている男を持ち上げて、それを円盤投げの要領で逃げ回る男達にぶん投げた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」
「ぎゃっ!!」
「よし、ストラーイク!」
名付けて人間ミサイル。少し安直な気がしないでもないが、まぁただ適当に放り投げてるだけだし、技名なんてこんなもので十分だろう。
「……ふぅ」
「ば、バカな……!」
しかし、もう少し苦戦するかと思っていたが……案外楽勝だったな。
今の人間ミサイルで、あらかたの男達は動けなくなってしまった。残る犯罪者はただ一人のみ。ソイツを倒せば、罪を犯した連中への制裁も完了する。
「うん」
未だ全身の激痛加減は酷いものだが、体力とやる気だけはまだまだ余裕がある。
満身創痍の状態でどこまでやれるか少しだけ不安ではあったが、コイツらが弱すぎるということもあってか、あっさりとここまで制圧することが出来た。今はその結果を素直に喜ぶことにしよう。
これも天童との特訓の賜物だろうか。
ここ最近は毎日のように戦闘訓練と称したリンチを繰り返し受けてたからな、破壊された肉体で活動することなど慣れたものである。
おかげで一か月前とは比べ物にもならない程の化け物じみた頑強さも手に入れることが出来た。
拷問じみた日々の特訓も、決して無駄ではなかったということだ。
俺をここまで強くしてくれた天童には素直に感謝を…………は、絶対に出来ないな。
母さんの指示だかなんだか知らないが、毎度毎度死ぬ一歩手前まで徹底的に叩きのめしてきやがって──あのクソガキ、マジで許さねぇ!
「──ひっ!?」
なんて、沸々と怒りが湧き上がってきたせいか、勘違いした目の前の男が小さな悲鳴を上げた。
……いや、あながち勘違いでもないか。コイツに対するフラストレーションが溜まりまくってるのもまた、覆しようのない事実である。
天童にぶつけてもあっさりと返り討ちにされてしまう怒りは、全てコイツで発散させてもらうことにしよう。
「さてと、残りはお前だけだな」
「や、やめろ……」
握った拳をバキボキと鳴らしながら視線を向けると、最後の男である兵頭は、ビビり散らしながら一歩分の距離を俺から取った。足がガタガタと震えて動けないのか、どうやらそれが精一杯の逃避行動のようだ。
特に急ぐ必要もなく、のんびりとした足取りで近づくことが出来る。
「く、来るなっ、こっちに来るんじゃねぇ……!」
先程までの威勢の良さはどこへやら、その表情はとても弱々しく醜い。今にも泣きだしそうな顔は、まるで作るのに失敗した福笑いのようにぐちゃぐちゃに崩れていた。
少しだけ、気分が削がれる。
「おいおい、情けない声出すなよ気持ち悪いなぁ……。さっきまでの威勢はどうしたんだよ? これだけの大掛かりな準備をして俺を殺しに来たんだ。ほら、さっさと掛かってこいよ」
俺がそう挑発すると、
「来るなって言ってんだろうが!」
兵頭はそう叫びながら、手に持っていたナイフを勢いよく投げつけた。
力任せに投げつけた割には無駄にコントロールが良く、クルクルと縦回転をするナイフが真っ直ぐ俺の顔面へと迫ってくる。
「はぁ……」
が、遅い。
クルクルと縦回転しているせいで、どうしようもなくスピードが落ちている。普通の人間ならばこれでも有効なのだろうが、環や天童の人間離れした速さに慣れている俺からすれば、悲しさを感じさせるまでにぬるい攻撃にしか見えない。
「なっ!?」
首を傾けて回避しても良かったのだが、せっかくなので指で挟んでキャッチさせてもらうことにした。
「下手くそ、ナイフってのはこう投げるんだよ」
そして手の中でくるりと反転させて、手首のスナップだけで兵頭にナイフを投げ返す。
「──ぎゃっ!?」
手ほどきするように投げた俺のナイフは真っ直ぐ奴の方へと進み、瞬く間にぐさりと、兵頭の肩へと突き刺さった。
小さな悲鳴が聞こえた直後、兵頭はあっさりと膝を屈し、ドクドクと流れ出る肩の血を押さえながら苦悶の表情を浮かべる。
それから汗と涙をボロボロと垂れ流しながら、静かに呻き声を上げていた。
「う、くぅ…………いたい……ううぅ、い、いたい……!」
「……………はぁ」
大袈裟な感情表現だ。
俺の受けてきた痛みの100分の1にも達していないだろうに、この程度のことで泣き出すとは情けない。根性がないにも程がある。
なので俺は「おい、死にたくなけりゃ顔を上げろ」と言って、半ば無理矢理に顔を上げさせ、
「ぐぎゃっ!?」
気合を入れるよう、兵頭の顔面に蹴りを叩き込んだ。
もちろん本気は出しちゃいない。本気で蹴ったりなんかしたら、たぶん一撃で首の骨が折れて絶命しちゃうからね。あくまでも気合を入れさせるのが目的なので、全体の一割程度の力に留めておく。
気合いだ! 気合いだ! 気合いだぁ! 気合いがあれば、なんでも出来る! 1、2、3、ハッスルハッスル!
なんかこんな感じのことを一昔前のプロレスラーがビンタしながら言ってたような気がする。ビンタされた人達、みんな『気合入りました!』ってもの凄く喜んでたなぁ……。
おそらくこれで、兵頭もさぞかし気合が入ったことだろう。
そう思いながら、三メートル先にまで吹っ飛んでいった奴のことを確認する。
「あっ、あぁぁ!?」
「……あれ?」
しかし、兵頭は気合が入るどころか更なる恐怖心を表情に浮かび上がらせ、絶望の眼差しで俺のことを見上げていた。
おかしいな……。確かに記憶の中では、みんな喜んでたはずなんだけどなぁ……?
もしかしたら蹴りではなく、あのプロレスラーと同じようにビンタでなければ意味がないのだろうか。蹴りと違って、ビンタはパチンと大きな音を立てることが出来る。きっとその音こそが、痛みとの相乗効果によってされた側への心を昂らせる要因となっているのだろう。
そう願いを込めて、兵頭の胸倉を掴み上げる。
「あ──や、もうやめ」
バチン! という音と共に、再び兵頭が三メートルくらい吹っ飛んでいった。
が、結果は変わらず、兵頭はダンゴムシのように丸まり、ブルブルと震えながら小さく縮こまるだけだ。
ダメだこりゃ。
どうやら俺では、彼に気合を入れさせることは出来ないらしい。諦めて、素直に言葉での説得を試みることにする。
「おい、お前もういい加減にしろよ? 俺はお前らと違って弱いものイジメは嫌いなんだよ。ほら、さっさと立ち上がって死ぬ気で掛かってこい。心配しなくてもちゃんと手加減しておいてやるから、安心して殺しにこいって。……ビビり散らかしてる奴なんか殴っても嫌な気分になるだけで何も楽しくねーんだよ。ほら、早く立て」
「あ……あ……」
「…………はぁ、もういいや」
結局、兵頭の心は折れたままだった。挑発する俺に立ち向かうどころか、顔を上げる気配すら見せない。小さく蹲って、ビクビクと震えるだけ。何をしてもこの状態が変わる様子はない。
ならば、と俺は考えを改めてみる。
趣向を変えて、違う言葉を掛けてみることにした。
「誠心誠意土下座して謝ってくれたら、お前のこと許してやるよ」
「──へっ?」
そこでようやく、兵頭は丸まっている体勢から顔を覗かせた。相変わらず表情はぐしゃぐしゃに泣き崩れたものではあるが、その目からは僅かながらにも希望の光を宿している。
「チッ、気持ち悪い目で俺のこと見てんじゃねーよクソが。ほら、少しでも俺の気が変わらないうちにさっさと土下座しろ」
「は、はいっ」
兵頭はそう二つ返事で答えたかと思うと、即座に土下座の体勢を作り、床に擦りつけるような勢いで頭を下げた。
「も、申し訳ありませんでした! 本当に申し訳ありませんでした! 二度と! もう二度とこのようなことは致しません!」
「…………」
調子のいい奴だ。許してやると言っただけでこうも従順な下僕に成り下がるとは……コイツにはプライドというものはないのだろうか?
まぁなんにせよ、これで俺の望むような形にはなってくれた。
土下座の体勢を取るため自然と伸ばされた兵頭の右手。
──それを、全力で踏み潰す。
「ぐっ、ぎゃぁあぁああああああああああ!!!??? なんでぇっ!? なんでぇぇ!!!」
直後、兵頭から耳障りな絶叫が響いてきた。
間近で聞こえてくるその騒音。それを俺は必死に我慢して聞きながら、ぐりぐりぐりと、念入りに磨り潰すよう足裏に体重を掛ける。
「あああああああああああああああああああああああああああ!!! やめてぇぇぇ!!! もう!! もうっ、やめっ!! ごめんなさい!! いだい! いだいいいいいいいいいい!!!」
「うるせーなぁ……」
更なる絶叫が俺の鼓膜をイジメてくるが、しばらくはこれを続けなくてはいかないので仕方ない。
もう二度と同じ過ちを犯さないようするためには、利き手を奪うついでに、こうして強烈な痛みと恐怖心を植え付けなくてはいけないのだ。
「もう二度とこんなことはしないって言ってもなぁ、そう簡単に信じられる訳ねーだろうがボケ。初犯ならともかく、お前もうこれで二度目なんだぞ? 刑務所から出てきて速攻で俺を殺しにくるような奴なんか、危なっかし過ぎて放置できるかっつーの。悪いことする手はこうしてしっかりと潰しておかないとな」
実際助かりたくて嘘を吐いている可能性はある。心からの謝罪を述べていたとしても、拘留されている間に心変わりする可能性だってある。
人間の心なんてものは意外なきっかけであっさりと変わったりするものだ。決して、生半可な仕打ちで済ませてはいけない。心身共に徹底的に叩き潰す必要がある。
仮に下手な復讐心を抱いてまた外に出て来られたりなんかしたら、それこそ新たな被害者を生みかねないからな。
今回はたまたま環が早めに駆けつけてくれたおかげで無事に済んだ訳だが、状況的に熊谷が酷い目に合わされる可能性は大いにあった。また同じようなことが起きた場合、そのたまたまが繰り返されるとは限らない。
そうならないためにも、最低限利き手くらいはちゃんと奪っておかないといけないのだ。
俺を殺しに来ること自体は別に構わないが、関係のない人達が危険な目に合わされるのは、ちょっと嫌だ。
「あああああああああああああああああああああああああああ!!!」
「……よし、まぁこんなもんかな」
バキボキと骨を踏み砕き、ずちゃずちゃと肉を一通り磨り潰した辺りで足を上げる。
にちゃりと赤い糸を引きながら上がる靴に下には、もはや原型を留めていない、ぐちゃぐちゃに変形した肉の塊があった。
ここまでしっかりと潰しておけば、もう二度と完治することはないだろう。少なくとも、両手で凶器を振り回すことは出来ないはずだ。
「あぁああっ!!?? 手がぁ! 俺の手がぁぁ!!」
グロテスクな己の手を直視してしまったためか、兵頭が悲痛な叫びを上げる。ただの肉の塊と化してしまったそれは、荒れ狂う持ち主に反してピクリとも動かない。
これでようやく、俺の受けたダメージの一割といったところだろうか。
ぶっちゃけ十割のお返しをしたい気持ちがない訳ではないが、流石にこれ以上の仕打ちはやり過ぎになるため我慢しておく。
「あぁぁぁぁぁぁ!!」
「おい、ちょっと静かにしろ」
「──ゴフッ!?」
泣き叫び続ける兵頭の頭を掴み上げ、無理矢理黙らせるため最後にお腹に一発だけ拳を叩き込む。
体内にある空気を吐き出させ、兵頭がまだ意識を保っていることを確認し、怯える目をしっかりと自分のものと合わせながら、俺はゆっくりと口を開いた。
「いいかよく聞け、見逃してやるのはこれで最後だ。これからは誰にも迷惑を掛けず、真っ当な社会人として生きるんだ。いいな?」
「は、はひっ」
呼吸が出来ないながらも、僅かに残った空気を使って返事をしてくれる。しっかりと俺の言葉に耳を傾けてくれて何よりだ。
安心して、話を続けさせてもらうことにしよう。
「もし仮にまた、俺以外の誰かに危害を加えるようなことがあれば……その時は反省の色なしと判断して、今度は左手と両足も今みたいに潰す」
「──!?」
「それから眼球をくり抜いて、全身の皮を剥いで、酸性の強い薬品風呂に放り込んで」
だんだんと青白くなっていく兵頭の表情。
果たして今の彼に、俺はどう映っているのだろうか。
淡々と、淡々と……話を続けていく。
「今度の今度こそ、地獄のような苦痛を与えたのち──」
そうして、
「お前を殺してやるよ」
「───────」
そんな音にもならない絶叫を最後に、兵頭は泡を吹いて気絶した。




