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全国大会予選
颯人は監督の声に押されるように、予選に向かった。
スタートブロックに足をかけて、セットと言われるのを待った。
緊張の瞬間だ。
セットと言われた。
なると思った。
雷管の音が競技場に鳴り響いた。
スタートをした。
颯人はあっという間に駆け抜けていく。
最後は少し抜いた。
タイムは10秒60当然組の中で1着だった。
颯人は準決勝に進めてホッとした。
監督も「よし、準決勝は午後の5時からあるから、頑張れよ!」と言われた。
監督の言葉を聞いた後に浩二のレースを見た。
浩二も一着でくるかと思ったら、三着だった。
タイムは10秒95だった。
ギリギリで浩二も準決勝に進んだ。
颯人は浩二にどこか調子が悪いのかと聞いた。
すると言われたのは意外な言葉だった。
「少し緊張してしまった、気をつけないと…」というものだった。
今まで浩二から緊張して遅くなったなど聞いたことがなかった。
颯人は改めて痛感した。
全国大会というのは独特の雰囲気を持っている。
どんなに強い選手でも飲み込まれてしまうことがあるのだと…