表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/80

第52話 俺は追いつく

モブのいちゃつき回


この小説は、主人公よりもモブの方が主人公しています。

「今日は模擬戦をしてもらう。適当に2人組を作れ」


先日、クラスメイトから死者が出た。だが、そんな事は無かったかのように、いつも通り訓練は行われる。今日は、ヒーラーとかではない直接戦闘力を持つ者同士で模擬戦をする。


「誰と組もっかなー」


俺、佐藤拓郎は、いつもアキラとつるんでいたせいで周りから距離を置かれている。その事自体は問題じゃないが、こういう時には非常に困る。どうしよう、アキラがいないと俺ぼっちじゃん。


「佐藤、僕と組んでくれないか?」


「え?」


そんな声が聞こえ振り返ってみると、


「白河、いつもお前の周りにいる女子達はいいのか?」


白河だった。白河は大体いつも取り巻きの女子達と組んでいるんだが。


「たまには他の人とも組んでみたいからね。どうかな?」


「まあ、良いけど」


俺はアキラと違って特に白河を嫌っていないし、アキラを除けば異世界人最強である白河とも戦ってみたい。組んでみよう。


「じゃあ、少し移動しようか」


「おう」


周りに人がいない場所へと移動する。


そういえば、桐生さんはどうしているんだろう。この訓練には桐生さんも参加しているはずだけど。


「桐生さん!俺と組んでくれませんか!?」


「いや、俺と組んでください!」


男子生徒から猛アタックを受けていた。気になる桐生さんの反応は?


「・・・・・」


相変わらずのガン無視である。桐生さんが流石すぎる。桐生さんってアキラ以外にはあんな態度だからな。至っていつも通りだ。


「白河、この辺で良いか?」


ある程度周りと距離をとったから、白河に声をかける。


「・・・」


だが白河はさっき俺が見ていた場所を見つめていた。


「白河?」


「・・・ああ、そうだね。この辺にしよう」


白河は俺に目線を合わせ、俺と少し距離をとった。・・・白河は、桐生さんを見ていたのか?もしかして桐生さんに気があるんだろうか。無理だと思うけど。


「開始の合図はどうする?」


「佐藤がしてくれ」


「じゃあ、この石が落ちたら開始にしよう」


落ちていた石を拾い、刀の柄に手を置く。俺の天職は『侍』。数少ない、刀を使う天職だ。


「分かった。僕は準備出来た。開始のタイミングは佐藤に任せる」


白河は、鞘から聖剣をを抜く。そう聖剣だ。あの聖剣は、最強と謳われる『聖剣レイルノート』。聖剣には特殊な能力があるらしいが、俺はまだ見た事ない。


そういえば、前に誰かが聖剣が1本無くなったって言ってたな・・・。大事な聖剣を簡単になくすなよ。


「白河、行くぞ」


「ああ」


石を投げる。石は放物線を描きーーー


「ッ!」


地面に着いた瞬間、俺はスキルを使う。スキル名は言わない。別に言わなくても使えるし、相手に使うスキルを教える必要もないからだ。


使ったスキルは、『身体能力強化』、『武器強化』、『心眼』。


『身体能力強化』は文字通り身体能力を強化し、『武器強化』も文字通り武器を強化する。


そして『心眼』は、相手の次の動きが見えるスキル。一種の未来予知のスキルだ。強力だが、その分体力の消耗が激しい。だから、一気に勝負をつけに行く!


「ふっ!」


白河が接近してくる。その動きは速く、鋭い。恐らく白河もスキルを使ったんだろう。


残りの距離は3メートル、2メートル、1メートルーーー


「『居合!』」


スキル、『居合』を発動。俺のステータスではあり得ないスピードで刀を抜き、白河へと斬りこむ。


「くぅっ!」


だが、白河はそれをいなした。まあ、これで決まるとは思っていない。そもそもこれは模擬戦だから、寸止めしなきゃ駄目だし。防がれると思っていたからスキルを使ったんだ。白河はバランスを崩した。この隙に、一気に攻め込む!


「うおおおお!!」


上下右左下上上ーーーーー


次々斬撃を繰り出す。だが、白河はそれを容易く防いだ。


「はぁっ!」


攻守が切り替わる。白河は聖剣を、自分の手足のように振るう。その剣速は、とても俺が対応出来る速度じゃない。


だから、その為に俺は『心眼』を発動していた。普段であれば到底対応出来ない剣戟も、読めているなら捌ける!


「ッ!」


速い。何より鋭い。防ぐ事は出来ない。防ごうと思っても、恐らく吹っ飛ばされて終わりだろう。だから避ける。躱す。隙ができるまで、躱し続ける!


5、10、15、20。続けられる剣戟を躱す。時には当たりそうにもなるが、必死にいなし、捌き続ける。


そして遂に、白河に隙が出来た。今なら、決められる!


刀を振るう。だが、この一撃は防がれる。『心眼』が、この一撃を受け止める白河を見せた。


だから、無理矢理上半身を曲げ、斬撃を曲げる。これで、決まりだーーー!


だが、そこで白河は、あり得ない動きをした(・・・・・・・・・・)


俺の斬撃より速く、動いた。それはあり得ない。幾ら速いからといって、剣速以上のスピードで動けるなんてあり得ない。


だが、それは現実。俺がまだ刀を振るっていないのに、白河は既に俺の首へ聖剣を当てていた。


「まさか、聖剣の力を使わされるとは思っていなかったよ。でも悪いね、僕の勝ちだ」


俺は、白河に負けた。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ちくしょう、勝ちたかったなあ・・・」


白河に負けた後、俺は王城にある庭に居た。


「あれが、聖剣の力か」


あり得ない程の速度を出す能力。とてもじゃないが、到底俺にはあの速度に対応出来ない。相手の次の動きが見えていたとしても、あの速度には追いつけない。


「まあ、仕方ないか」


俺は勇者じゃない。確かに最初この世界に来た時は勇者って言われたけど、今ではその呼称は2人にしか使われていない。


白河と宮野。あの2人は天職が『勇者』で、本物の『勇者』だ。


アキラは『罠師』なのに白河より強かったけど、あれは例外だ。奇抜な発想と、それを実行する強い意思があるから、アキラは強くなれたんだ。


俺にはその両方が無い。言われた通りの訓練しか出来ないし、だからと言ってそれで強くなれるような才能も無い。


「アキラの言う通り、俺は確かにモブだな・・・」


「あの、佐藤さん?」


「はい?」


背後から声をかけられた。振り返って、誰か見てみると、


「王女様・・・」


王女様だった。


「佐藤さん?王女様じゃないですよ?」


王女様が少し頬を膨らませる。


「ああ、すみません。ミルフィさん。俺に何か用ですか?」


「はい!その・・・佐藤さんの模擬戦、見ていました」


「見ていたんですか・・・」


格好悪いとこ見られたなあ・・・


「凄く格好良かったです!勇者様に対して、あそこまで戦える人は他にいませんよ?」


「そうですか?」


格好良かった、か。ミルフィさんの笑顔を見るに、心からそう思っているんだろう。


「それでも負けましたけどね。俺じゃ勇者には勝てないんですよ」


「そんなこと無いですよ!きっと、佐藤さんならいつか勝てます!」


いつか、ね・・・。無理だな。俺も強くはなる。必死になって努力するさ。でも、勇者はそれ以上に強くなるだろう。俺が勝てる日は、来ない。


「私、知っているんですよ?他の方がパーティに参加している時でも、佐藤さんだけはずっと訓練をしてるのを」


「・・・見ていたんですか?」


周りに人はいなかったと思っていたんだけどな・・・。俺は気配を察する能力も無いらしい。


「覗き見するつもりはなかったんですけど・・・。パーティを抜け出して、外を眺めていたら、刀を振るっている佐藤さんがいたんです」


「パーティというのは、性に合わなかったので・・・」


パーティなんかしてる暇があったら、刀を振るい、走り込みでもしている方がずっと気が楽だ。


「その時の佐藤さんは、凄く綺麗でした」


「綺麗、ですか?」


俺はそんなに容姿が良い方じゃないんだが・・・。白河とかの方がずっと綺麗、という言葉が似合うだろう。


「綺麗と言っても、容姿のことじゃないですよ?あ、でも、別に佐藤さんが不細工ってわけでは・・・」


失言だと思ったのか、ミルフィさんが慌てている。


「俺の容姿のことは自分がよく分かっているので大丈夫ですよ。それで、俺が綺麗っていうのは?」


「その、刀を振るっている佐藤さんからは、何かに憧れているようで、それをひたすらに追いかけているような、そんな印象を受けました」


憧れている、か。・・・確かに、俺は憧れている。あの、強い水瀬明に。俺が恐れたあいつらに、笑って向かって行った水瀬明に。そして、非戦闘職というハンデを負いながらも、俺よりもずっと強くなった水瀬明に、強く憧れている。だが、それがどうかしたのか?


「私には、佐藤さんの気持ちは分かりません。憧れているように見えたのも、何かの勘違いだったのかもしれません」


ですが、と、ミルフィさんは言い、


「何かに憧れていて、それを愚直に追いかけている佐藤さんに、私は強く憧れたんです」


俺に、憧れた?この弱い俺に?


「私は王女です。幼い頃から、願った事は大抵叶いました。お父様が叶えてくれましたから。ですが、叶わなかったことが一つあります」


叶わなかったことが一つ?それは一体なんだ?


「それは自由になることです。当然ですよね。私は王女です。自由なんて、許されるわけありません」


「私は、外の世界を見てみたかったんです。侍女が外の世界の事を教えてくれますけど、それは飽くまで話です。恐らくですけど、誇張や婉曲的表現もされていると思います」


「だから私は、外の世界を見てみたかった。ですが私は、諦めました。見てみたいけれど、叶うはずがないと思ってしまったんです」


「そんな時に、ずっと訓練をしている佐藤さんを見かけたんです」


「私は、何故そんなに頑張れるのか不思議でした。騎士の人達に聞きましたけど、佐藤さんはほとんど休みもせず、ダンジョンに行き、戦い続けているんですよね?」


「他の人は遊んでいる時でも、佐藤さんだけは訓練をしていました。怪我をして訓練出来なくなっても、図書館へ行き、知識を深め続けていました」


「佐藤さんは、何かに憧れているようでした。どんな時でも諦めずに、一心不乱に追い続けていました」


「私は、そんな一生懸命な佐藤さんに、憧れたんです」


・・・憧れ続けている俺に憧れた、か。


「佐藤さんなら、きっとその憧れに追いつけます。佐藤さんの努力が、無駄になるわけありません。私が保証します」


・・・そうか。


「・・・ミルフィさんって、意外と饒舌なんですね」


「あっ、すみません。私ばかり喋っていて・・・」


申し訳そうな顔になるミルフィさん。


「いえ、大丈夫ですよ。ミルフィさんの話を聞いて、元気が出ましたから」


「元気、ですか?」


「はい」


腰に下げた刀を引き抜く。


「俺はこれからも、憧れ続けようと思います。ミルフィさんに、綺麗な俺を見て欲しいですしね」


「・・・あの、綺麗だと言ったのは、忘れてもらえませんか?」


ミルフィさんは少し恥ずかしそうにしている。


「嫌です。俺はずっと、その言葉を大切にしますよ。なんなら、もう一度言ってもらいたいです」


「もう!佐藤さん!」


「あはは、すみません」


怒った様子のミルフィさんも、中々綺麗で可愛らしい。アキラじゃないけど、女性をからかってみるのも良いかもしれない。


アキラ、俺はいつか必ずお前に追いついてみせる。その時まで、待っていてくれ。

この小説は、『憧れ』というのが一つのテーマでもあります。だからなんだという話かもしれませんけど。


あ、そのうち小説タイトル変えます。


アンケートの結果、アイデートはヒロイン化しないことになりました。ヒロイン化希望だった皆様、申し訳ありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ