第52話 俺は追いつく
モブのいちゃつき回
この小説は、主人公よりもモブの方が主人公しています。
「今日は模擬戦をしてもらう。適当に2人組を作れ」
先日、クラスメイトから死者が出た。だが、そんな事は無かったかのように、いつも通り訓練は行われる。今日は、ヒーラーとかではない直接戦闘力を持つ者同士で模擬戦をする。
「誰と組もっかなー」
俺、佐藤拓郎は、いつもアキラとつるんでいたせいで周りから距離を置かれている。その事自体は問題じゃないが、こういう時には非常に困る。どうしよう、アキラがいないと俺ぼっちじゃん。
「佐藤、僕と組んでくれないか?」
「え?」
そんな声が聞こえ振り返ってみると、
「白河、いつもお前の周りにいる女子達はいいのか?」
白河だった。白河は大体いつも取り巻きの女子達と組んでいるんだが。
「たまには他の人とも組んでみたいからね。どうかな?」
「まあ、良いけど」
俺はアキラと違って特に白河を嫌っていないし、アキラを除けば異世界人最強である白河とも戦ってみたい。組んでみよう。
「じゃあ、少し移動しようか」
「おう」
周りに人がいない場所へと移動する。
そういえば、桐生さんはどうしているんだろう。この訓練には桐生さんも参加しているはずだけど。
「桐生さん!俺と組んでくれませんか!?」
「いや、俺と組んでください!」
男子生徒から猛アタックを受けていた。気になる桐生さんの反応は?
「・・・・・」
相変わらずのガン無視である。桐生さんが流石すぎる。桐生さんってアキラ以外にはあんな態度だからな。至っていつも通りだ。
「白河、この辺で良いか?」
ある程度周りと距離をとったから、白河に声をかける。
「・・・」
だが白河はさっき俺が見ていた場所を見つめていた。
「白河?」
「・・・ああ、そうだね。この辺にしよう」
白河は俺に目線を合わせ、俺と少し距離をとった。・・・白河は、桐生さんを見ていたのか?もしかして桐生さんに気があるんだろうか。無理だと思うけど。
「開始の合図はどうする?」
「佐藤がしてくれ」
「じゃあ、この石が落ちたら開始にしよう」
落ちていた石を拾い、刀の柄に手を置く。俺の天職は『侍』。数少ない、刀を使う天職だ。
「分かった。僕は準備出来た。開始のタイミングは佐藤に任せる」
白河は、鞘から聖剣をを抜く。そう聖剣だ。あの聖剣は、最強と謳われる『聖剣レイルノート』。聖剣には特殊な能力があるらしいが、俺はまだ見た事ない。
そういえば、前に誰かが聖剣が1本無くなったって言ってたな・・・。大事な聖剣を簡単になくすなよ。
「白河、行くぞ」
「ああ」
石を投げる。石は放物線を描きーーー
「ッ!」
地面に着いた瞬間、俺はスキルを使う。スキル名は言わない。別に言わなくても使えるし、相手に使うスキルを教える必要もないからだ。
使ったスキルは、『身体能力強化』、『武器強化』、『心眼』。
『身体能力強化』は文字通り身体能力を強化し、『武器強化』も文字通り武器を強化する。
そして『心眼』は、相手の次の動きが見えるスキル。一種の未来予知のスキルだ。強力だが、その分体力の消耗が激しい。だから、一気に勝負をつけに行く!
「ふっ!」
白河が接近してくる。その動きは速く、鋭い。恐らく白河もスキルを使ったんだろう。
残りの距離は3メートル、2メートル、1メートルーーー
「『居合!』」
スキル、『居合』を発動。俺のステータスではあり得ないスピードで刀を抜き、白河へと斬りこむ。
「くぅっ!」
だが、白河はそれをいなした。まあ、これで決まるとは思っていない。そもそもこれは模擬戦だから、寸止めしなきゃ駄目だし。防がれると思っていたからスキルを使ったんだ。白河はバランスを崩した。この隙に、一気に攻め込む!
「うおおおお!!」
上下右左下上上ーーーーー
次々斬撃を繰り出す。だが、白河はそれを容易く防いだ。
「はぁっ!」
攻守が切り替わる。白河は聖剣を、自分の手足のように振るう。その剣速は、とても俺が対応出来る速度じゃない。
だから、その為に俺は『心眼』を発動していた。普段であれば到底対応出来ない剣戟も、読めているなら捌ける!
「ッ!」
速い。何より鋭い。防ぐ事は出来ない。防ごうと思っても、恐らく吹っ飛ばされて終わりだろう。だから避ける。躱す。隙ができるまで、躱し続ける!
5、10、15、20。続けられる剣戟を躱す。時には当たりそうにもなるが、必死にいなし、捌き続ける。
そして遂に、白河に隙が出来た。今なら、決められる!
刀を振るう。だが、この一撃は防がれる。『心眼』が、この一撃を受け止める白河を見せた。
だから、無理矢理上半身を曲げ、斬撃を曲げる。これで、決まりだーーー!
だが、そこで白河は、あり得ない動きをした。
俺の斬撃より速く、動いた。それはあり得ない。幾ら速いからといって、剣速以上のスピードで動けるなんてあり得ない。
だが、それは現実。俺がまだ刀を振るっていないのに、白河は既に俺の首へ聖剣を当てていた。
「まさか、聖剣の力を使わされるとは思っていなかったよ。でも悪いね、僕の勝ちだ」
俺は、白河に負けた。
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「ちくしょう、勝ちたかったなあ・・・」
白河に負けた後、俺は王城にある庭に居た。
「あれが、聖剣の力か」
あり得ない程の速度を出す能力。とてもじゃないが、到底俺にはあの速度に対応出来ない。相手の次の動きが見えていたとしても、あの速度には追いつけない。
「まあ、仕方ないか」
俺は勇者じゃない。確かに最初この世界に来た時は勇者って言われたけど、今ではその呼称は2人にしか使われていない。
白河と宮野。あの2人は天職が『勇者』で、本物の『勇者』だ。
アキラは『罠師』なのに白河より強かったけど、あれは例外だ。奇抜な発想と、それを実行する強い意思があるから、アキラは強くなれたんだ。
俺にはその両方が無い。言われた通りの訓練しか出来ないし、だからと言ってそれで強くなれるような才能も無い。
「アキラの言う通り、俺は確かにモブだな・・・」
「あの、佐藤さん?」
「はい?」
背後から声をかけられた。振り返って、誰か見てみると、
「王女様・・・」
王女様だった。
「佐藤さん?王女様じゃないですよ?」
王女様が少し頬を膨らませる。
「ああ、すみません。ミルフィさん。俺に何か用ですか?」
「はい!その・・・佐藤さんの模擬戦、見ていました」
「見ていたんですか・・・」
格好悪いとこ見られたなあ・・・
「凄く格好良かったです!勇者様に対して、あそこまで戦える人は他にいませんよ?」
「そうですか?」
格好良かった、か。ミルフィさんの笑顔を見るに、心からそう思っているんだろう。
「それでも負けましたけどね。俺じゃ勇者には勝てないんですよ」
「そんなこと無いですよ!きっと、佐藤さんならいつか勝てます!」
いつか、ね・・・。無理だな。俺も強くはなる。必死になって努力するさ。でも、勇者はそれ以上に強くなるだろう。俺が勝てる日は、来ない。
「私、知っているんですよ?他の方がパーティに参加している時でも、佐藤さんだけはずっと訓練をしてるのを」
「・・・見ていたんですか?」
周りに人はいなかったと思っていたんだけどな・・・。俺は気配を察する能力も無いらしい。
「覗き見するつもりはなかったんですけど・・・。パーティを抜け出して、外を眺めていたら、刀を振るっている佐藤さんがいたんです」
「パーティというのは、性に合わなかったので・・・」
パーティなんかしてる暇があったら、刀を振るい、走り込みでもしている方がずっと気が楽だ。
「その時の佐藤さんは、凄く綺麗でした」
「綺麗、ですか?」
俺はそんなに容姿が良い方じゃないんだが・・・。白河とかの方がずっと綺麗、という言葉が似合うだろう。
「綺麗と言っても、容姿のことじゃないですよ?あ、でも、別に佐藤さんが不細工ってわけでは・・・」
失言だと思ったのか、ミルフィさんが慌てている。
「俺の容姿のことは自分がよく分かっているので大丈夫ですよ。それで、俺が綺麗っていうのは?」
「その、刀を振るっている佐藤さんからは、何かに憧れているようで、それをひたすらに追いかけているような、そんな印象を受けました」
憧れている、か。・・・確かに、俺は憧れている。あの、強い水瀬明に。俺が恐れたあいつらに、笑って向かって行った水瀬明に。そして、非戦闘職というハンデを負いながらも、俺よりもずっと強くなった水瀬明に、強く憧れている。だが、それがどうかしたのか?
「私には、佐藤さんの気持ちは分かりません。憧れているように見えたのも、何かの勘違いだったのかもしれません」
ですが、と、ミルフィさんは言い、
「何かに憧れていて、それを愚直に追いかけている佐藤さんに、私は強く憧れたんです」
俺に、憧れた?この弱い俺に?
「私は王女です。幼い頃から、願った事は大抵叶いました。お父様が叶えてくれましたから。ですが、叶わなかったことが一つあります」
叶わなかったことが一つ?それは一体なんだ?
「それは自由になることです。当然ですよね。私は王女です。自由なんて、許されるわけありません」
「私は、外の世界を見てみたかったんです。侍女が外の世界の事を教えてくれますけど、それは飽くまで話です。恐らくですけど、誇張や婉曲的表現もされていると思います」
「だから私は、外の世界を見てみたかった。ですが私は、諦めました。見てみたいけれど、叶うはずがないと思ってしまったんです」
「そんな時に、ずっと訓練をしている佐藤さんを見かけたんです」
「私は、何故そんなに頑張れるのか不思議でした。騎士の人達に聞きましたけど、佐藤さんはほとんど休みもせず、ダンジョンに行き、戦い続けているんですよね?」
「他の人は遊んでいる時でも、佐藤さんだけは訓練をしていました。怪我をして訓練出来なくなっても、図書館へ行き、知識を深め続けていました」
「佐藤さんは、何かに憧れているようでした。どんな時でも諦めずに、一心不乱に追い続けていました」
「私は、そんな一生懸命な佐藤さんに、憧れたんです」
・・・憧れ続けている俺に憧れた、か。
「佐藤さんなら、きっとその憧れに追いつけます。佐藤さんの努力が、無駄になるわけありません。私が保証します」
・・・そうか。
「・・・ミルフィさんって、意外と饒舌なんですね」
「あっ、すみません。私ばかり喋っていて・・・」
申し訳そうな顔になるミルフィさん。
「いえ、大丈夫ですよ。ミルフィさんの話を聞いて、元気が出ましたから」
「元気、ですか?」
「はい」
腰に下げた刀を引き抜く。
「俺はこれからも、憧れ続けようと思います。ミルフィさんに、綺麗な俺を見て欲しいですしね」
「・・・あの、綺麗だと言ったのは、忘れてもらえませんか?」
ミルフィさんは少し恥ずかしそうにしている。
「嫌です。俺はずっと、その言葉を大切にしますよ。なんなら、もう一度言ってもらいたいです」
「もう!佐藤さん!」
「あはは、すみません」
怒った様子のミルフィさんも、中々綺麗で可愛らしい。アキラじゃないけど、女性をからかってみるのも良いかもしれない。
アキラ、俺はいつか必ずお前に追いついてみせる。その時まで、待っていてくれ。
この小説は、『憧れ』というのが一つのテーマでもあります。だからなんだという話かもしれませんけど。
あ、そのうち小説タイトル変えます。
アンケートの結果、アイデートはヒロイン化しないことになりました。ヒロイン化希望だった皆様、申し訳ありません。




